普通解雇とは、従業員の成績不振が著しい、勤務態度が極端に悪い、病気やケガで働けなくなった、といったときに行われる解雇です。
普通解雇は、会社側の一方的な通知で行うことができますが、労働契約法16条には、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
とあり、安易に解雇をすることはできません。
普通解雇も解雇であることに変わりなく、適正なルールに基づいて行わないと、訴訟に発展した場合は、解雇の無効や多額の金銭の支払いを命じられることになります。
そのため、普通解雇に関する規定も、就業規則にてきちんと定めておく必要があります。
普通解雇と懲戒解雇の違い
解雇には、普通解雇と懲戒解雇があります。
どちらも、会社側が一方的に労働契約を終了させることはできますが、普通解雇が労働契約の解除に対し、懲戒解雇は企業秩序を破る重大な規律違反への制裁罰という違いがあります。
そのため、懲戒解雇の場合は、就業規則などで退職金を不支給と定められていたりします
とはいえ、重大な規律違反であっても3割程度は支払うように命じる判決が出ています。
詳しくは「問題社員に対する「退職金は払いたくない」は通るか?」をご覧ください。
普通解雇は就業規則に規定がなくてもできる?
普通解雇は、就業規則に根拠規定がなくてもできると考えられています。
しかし、就業規則の絶対的必要記載事項には、「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」があるため、就業規則を作るときは、解雇事由を定めなくてはいけません。
就業規則の基本的な決まり事は、「建設業の就業規則、作成の基本ルールを解説」をご覧ください。
ただし、普通解雇については、就業規則に定めた解雇事由以外の理由で解雇することも可能です。
たとえば、東洋信託銀行事件では、就業規則に懲戒解雇事由しか定めてありませんでしたが、だからといって、普通解雇した効力まで否定されるわけではないとしています。
このように、就業規則に定めた解雇事由以外で解雇する場合でも、解雇することに合理的な理由があり、権利の濫用に該当しないときは、普通解雇も有効となります。
とはいえ、これとは反対に、就業規則に定めた解雇事由に該当した場合にのみ普通解雇は有効とする考え方もあります。
たとえば、学校法人尚美学園事件では、
「就業規則において普通解雇事由が列挙されている場合、当該解雇事由に該当する事実がないのに解雇がなされたとすれば、その解雇は、特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないというべきである」
としており、就業規則にない解雇事由での解雇は認められないとしています。
そうした考えがある以上、普通解雇でも解雇事由にない理由で解雇すれば、訴訟になった場合は解雇を無効とされることもあり得ます。
したがって、解雇事由をできるだけ列挙しておくことが望ましいいといえるでしょう。
懲戒解雇は就業規則に定めた解雇事由が必要
ちなみに、懲戒解雇の場合は、就業規則に定めた懲戒解雇事由に該当しなければ解雇できないとされています(フジ興産事件)。
想定外の解雇事由に対応するには包括条項
しかし、解雇事由をすべて列挙するというのは、現実的ではありません。
想定外の解雇事由が発生することもあるからです。
そんな不測の事態に対応するためには、「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき」という、包括的条項を入れておくことで対応させます。
普通解雇に必要な手順とは?
普通解雇の理由として主なものは、労働能力や適格性不足、私傷病による心身の疾患、協調性の欠如、業務命令違反が挙げられます。
しかし、従業員を解雇する場合は労働契約法16条の
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
とあるため、簡単に解雇することはできないのはもちろんのこと、解雇するまでに必要な手続きを踏んでいるかも重要になります。
では、どのような条件を満たせば解雇が認められるか、私傷病による就労不能の場合と能力不足、勤務態度不良の場合という、解雇によくあるケースで判例を参考にしていきます。
私傷病による就業不能の場合
精神的不調から無断欠勤をし、諭旨退職処分を受けた従業員が、その処分の無効を求めて争われた、日本ヒューレット・パッカード事件では、精神的不調を患って無断欠勤をした従業員でも、次のような措置を取ることを求めています。
- 精神科の診断などを受けさせる
- その診断結果に応じて、必要な場合は治療を勧める
- そのうえで、休職等の処分を検討する
- その後、経過を見る
そして、このような措置を取ることなく
「直ちにその欠勤を正当な理由のない無断欠勤として諭旨退職の懲戒処分の措置を執ったことは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い」
としています。
経営者にしてみれば、無断欠勤を繰り返す従業員など、いくら精神的不調があるといえど、すぐに解雇したいところでしょう。
しかし、上記のステップを踏まず、いきなり解雇に踏み切ると、無効とされる可能性が高くなるといえます。
私傷病で休職させる場合の基本ルールは、「私傷病の従業員への休職のルール。解雇や休職中の手当はどうするべきか?」をご覧ください。
休職から復職させるときの判断基準は→「休職した従業員を復職させるときの3つの判断基準」をご覧ください。
復職可否の判断に医師の意見が必要な理由は→「復職可否の判断には医師の診断が必要な理由」をご覧ください。
試し出勤制度を導入するときの注意点は→「「復職前」と「復職後」の試し出勤制度の違いを解説」をご覧ください。
業務上の傷病による就業不能の場合
業務が原因の傷病の場合は、療養する期間とその後の30日間は、原則として解雇できません。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
労働基準法19条1項
ただし、療養を開始して3年経過してもそのケガや病気が治らないときは、平均賃金の1200日分を支払うことで解雇することができます。
第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
労働基準法81条
この点につき、最高裁判決の学校法人専修大学事件でも、療養開始3年後に平均賃金の1200日分を支払うことで、雇用契約を解除することを認めています。
能力不足・成績不良の場合
能力不足や成績不良で解雇する場合の手順を示した判例を、2つご紹介いたします。
Zemax Japan事件
これは、労働能力と職務怠慢を理由に解雇された事例です。
この判例では、能力不足を理由に解雇を行う場合、次の手順を踏まなくてはいけないことを示しています。
- 使用者が労働者に対して求める能力と、実際の労働者の業務遂行能力に、どれくらい開きがあるか説明する
- 改善すべき点の指摘と、改善のための指導を行う
- 一定の期間の猶予を与え、能力不足を改善するかどうか経過を観る
- それでもなお改善が難しいときに解雇を行う
このように、能力不足と思われても、いったんは指導を行って改善の機会を与えて、なお改善が見込まれないときには、はじめて解雇へと進むことができます。
日本アイ・ビー・エム事件
日本アイ・ビーエム事件も、従業員の成績不良を理由として解雇した事例です。
この事例では、解雇までに次の手順を踏む必要があることを指摘しています。
- 従業員の適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格
- それでも一定期間内に改善が見られなかったときは、解雇の可能性があることを具体的に伝える
- 改善されるかどうか機会を与え経過を観る
このような措置を取ることなく行われた解雇は
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効というべきである」
としています。
Zamax Japan事件と日本アイ・ビー・エム事件の2つの違いは、会社の規模の大きさです。
日本アイ・ビー・エムは大企業ですので、能力不足の従業員を配置転換する余裕もあるかもしれませんが、一般的な中小企業の場合、配置転換する部署がないこともあるため、参考にすべきが、Zamax Japan事件になります。
配置転換や降格をして経過観察する余裕はなくても、指導して一定期間、改善を促す措置は、中小企業でも絶対に必要となることだけは忘れないでおきましょう。
なお、注意や指導をした記録は、きちんと残しておきましょう。
口頭で済ますと、改善を促した証拠がないとされる可能性が出てきます。
能力不足で言い渡した解雇が無効にされたそのほかの事例は、「能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備」をご覧ください。
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