正社員の採用に、書類選考、筆記試験、面接試験を設けなくてはいけない理由

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正社員の採用を、書類選考、筆記試験、面接試験と、何段階かに分けて行うケースがあります。

一定レベル以上の人材を雇用するには、このような選考手段を設けることも必要ですが、実はそれ以外にも、労使トラブルに発展した場合のリスク対策となるという面があります。

有期労働契約に発動される「雇止めの法理」とは

契約社員などの雇用期間の定めのある有期労働契約者については、「雇止めの法理」が適用されます。

これは、労働契約法19条に定められていて、2つの条件のいずれかに該当するときは、契約社員からの契約の更新を、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は拒絶できないとされています。

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

労働契約法19条

契約社員との契約更新拒絶を認められるために必要な条件

労働契約法19条に定めらている、会社側が契約社員と契約更新を拒絶できなくなる2つの条件とは、次の通りです。

  • 過去の契約の更新時に説明もなくズルズル更新されていて、正社員とほぼ変わらない状態であったとき
  • 契約社員が、至極当然の流れとして契約の更新を期待する事情があったとき

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法19条

逆にいえば、

  • 正社員と契約社員で業務内容に違いをつける
  • 正社員と契約社員で労働時間に差をつける
  • 契約更新時には、更新前に書類を整え、社内規定等に沿って適正な手続きを行う

ということを行えば、雇止めが認められやすくなるということです。

正社員と契約社員で採用方法に差をつけておくべき理由

では、契約社員(有期労働契約)の雇止めの法理と、正社員(無期労働契約)の雇用に、書類選考、筆記試験、面接試験といった、いくつかの採用試験を設けること何の関係があるのか?

実はそれが、契約社員と正社員とでの違いを作ることにあるのです。

つまり、

  • 正社員は、書類選考、筆記試験、面接試験と、採用までにいくつかのハードルがあり、簡単には雇用されない位置づけになる。
  • これにより、契約社員の雇用とは違うことが、制度面からも明確になる。
  • その結果、契約社員との契約は、「臨時的な雇用」であることの根拠となる

とすることができるのです。

契約社員の雇止めが有効とされた最高裁判例(日立メディコ事件)

事実、契約社員の雇止めが有効かどうか争われた、日立メディコ事件では、比較的簡易な方法で採用されたことが、契約社員として雇用された根拠とし挙げられています。

日立メディコ事件では、2カ月の労働契約を5回にわたって更新した臨時職員が、更新拒絶をされたことで、その無効を求めて争いました。

この臨時職の採用にあたっては、学科試験や技能試験は行われず、面接で健康状態や経歴などを聞く簡易的な試験ののみで決まっていました。

これについて最高裁の判断は、

「臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである」

と理由を挙げ、会社側の更新拒絶を有効としたのでした。

このように、正社員と契約社員で、採用方法に違いを設けることは、契約社員との雇用契約が、あくまで一時的、臨時的なものであることの、一つの根拠となるのです。

ただし、これは根拠の一つであって、雇止めの法理が発動するような、そのほかの条件(正社員と労働時間や労働条件が同じなど)が揃っていないことが前提です。

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