企業は求職者の思想・信条を理由に採用を拒否できるか?

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企業には「採用の自由」は認められていて、誰を雇用するかの自由は会社に与えられた裁量権です(それに対し労働者は、就職先を選べる就職の自由があります)。

採用の自由には、思想信条が理由で採用しないことも含まれています(三菱樹脂事件:最高裁)。

その一方で、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」には、公正な採用を行うための配慮として、下記事項を質問することをしないように指導しています(※あくまで「配慮すべき事項」です。「してはいけない」とは記載してありません)。

  • 宗教に関すること
  • 支持政党に関すること
  • 人生観、生活信条などに関すること
  • 尊敬する人物に関すること
  • 思想に関すること
  • 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
  • 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

一方では採用の自由を認め、一方では思想信条について質問することが不適切であると指導をしている。

果たしてこの矛盾、どう解釈すればいいのでしょう?

企業は求職者の思想・信条を理由に採用を拒否できる

この点について争われた裁判に、三菱樹脂事件があります。

この事件は、学生運動に参加したことを隠して採用試験を受けた学生が、虚偽の申請をしたことを理由に、企業に採用を拒否され、その無効を求めて争われたものです。

その中で最高裁は、

「いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」

と採用の自由を認めています。

さらに続けて、

「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」

と、思想信条を理由として採用を拒否することも認めています。

求職者の「思想・信条を調査する」ことは違法行為ではない

また、思想・信条を調査することについても、

「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」

「その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立ってその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない」

とし、思想・信条を調査したり、質問したりすることを違法とはしていません。

最高裁判例と厚生労働省の「公正な採用選考の基本」との矛盾

このように、採用に関して、求職者の思想信条で採用を拒否できることも、思想信条を調査することも違法でないとする最高裁の判例があります。

それに対し、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」では、思想・信条を選考材料にすることを不適切なこととしています。

この矛盾をどう捉えれば良いか?

まず、三菱樹脂事件の最高裁の判決が出たのが1973年であり、2024年現在と、時代背景が大きく異なることに注意しなくてはいけません。

その最たるものの一つに挙げられるのが、個人情報で、1973年に比べて取り扱いが格段に厳しくなっています。

まず、個人情報を取得することについて、厳重な取扱いをしなくてはいけないことが現代では求められます。

さらに、この判断の前提条件として、「終身雇用」が挙げられています。

終身雇用が崩れてしまっている現在と当時とでは、ここにも大きな差異があります。

職安法で個人情報の取得に規制

以上の条件を踏まえてかつ、思想信条の調査は、職業安定法5条に、本人の同意がある場合か正当な理由がある場合を除いて、

と制限がされています。

(求職者等の個人情報の取扱い)

第五条の五 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、特定募集情報等提供事業者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

職業安定法5条の5

さらに、職安法5条の5に関する指針(平成11年労働省告示第141号)では、下記の事項について個人情報を収集してはならないとしています。

  • 人種
  • 民族
  • 社会的身分
  • 門地
  • 本籍
  • 出生地
  • 思想及び信条
  • 労働組合への加入状況

※特別な職業上の必要性が存在すること、その他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでない

職安法は、職業紹介、労働者募集、労働供給について規制する法律であって、採用そのものを規制する法律ではないとはいえ、時代背景を考えると、よりデリケートに扱うべき問題といえます。

※繰り返しますが、企業には採用の自由が認められていて、これは否定されていません。

企業は求職者の思想信条を理由に採用を拒否できるか?【まとめ】

もし求職者の思想信条の調査行うなら、調査することに必要不可欠な合理的な理由があり、かつ、本人の同意を得るなど、慎重に進めなくてはいけないといえます。

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