従業員の出退勤の記録は就業規則で本人に義務付けるべき理由

労使トラブル対策 就業規則

従業員の労働時間を把握することは、賃金台帳への労働時間の記載の義務化によってなされてきましたが(労働基準法施行規則54条1項)、労働安全衛生法66条8の3のより、事業主が従業員の労働時間を把握することが、法令により明記されました。

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

労働安全衛生法66条8の3

労働時間の記録方法については、タイムカードやパソコン等による、「客観的な方法」か、「その他の適切な方法」で行わなくてはならないとされています。

法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナル・コンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

労働安全衛生規則57条の7の3

従業員の労働時間の把握を適正に行わないと、労働基準法に違反したり、未払い残業代が発生したりすることになるため、就業規則にて記録方法や記録時のルールを記載しておく必要があります。

従業員の労働時間の管理は必須

2019年4月に施行された法改正により、事業主は従業員の労働時間を把握することが明文化されました。

対象となる従業員は、高度プロフェッショナル制度対象労働者以外の労働者で、管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者も含まれます。

労働時間を把握する記録方法としては

  • 原則として、タイムカード、ICカード、パーソナルコンピューター等の電子計算機器
  • 事業者による現認(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む)

といった「客観的な記録」が必要とされています。

そして、これらの記録方法により、従業員の

  • 労働日ごと
  • 出退勤時刻
  • 入退室時刻

を記録しなくてはいけません。

【参照元】労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

本人による出退勤記録の義務付け

労働時間の記録方法には、やむ得ない理由がある場合は、従業員が自己申告で記録することも認められています。

ただしその場合は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を踏まえた運用を行い、従業員の労働時間の実態を正しく記録し、自己申告を適正にさせる必要があります。

とはいえ、他の従業員に頼めば、遅刻を免れるためや、残業を多く見せるためなど、不正にタイムカード等を打刻してもらうことも簡単にできてしまいます。

性善説に基づき従業員を信じてあげたいところですが、職場の規律を保つためには、やはり、本人がタイムカード等で打刻することを義務付けるべきです。

就業規則で本人の打刻を義務付ければ、不正な打刻を行たった従業員に対して、規則に基づいて懲戒処分も下せます。

タイムカードの代行打刻への降格処分が認められた事例

タイムカードの不正打刻を理由に降格処分を受け、それを不服として争われた裁判に、ディーエイチシー事件があります。

この事件では、事業部の部長が、自分のタイムカードの代行打刻を部下に行わせ、それが会社に発覚し、懲戒処分として部長から次長に降格させられました。

当該会社の就業規則には、出退社の際は本人自ら所定の方法により、出退社の事実を明示することが義務付けされていましたが、部長はこの規定を無視し、自分の部下へタイムカードの代行打刻を依頼していました。

これについて裁判所の判断は、

  • 就業規則の規定に違反した行為
  • 会社の労働時間管理を妨げ、業務に支障を来せる行為
  • 本来、自らが規則を守らせるべき立場にあった
  • 事業部の他の従業員も代行打刻を行っていて、会社として規律を正す必要があった

として、降格処分を有効としました。

このように、就業規則に規定があれば、違反に対して行う処分は認められやすくなるといえるでしょう。

さらに、この事例でも明らかなように、代行打刻を許していると、やがてそれが蔓延していき、職場の規律を崩壊させます。

やはり、労働時間の管理を従業員に任せてしまうのは危険です。

就業規則にて、労働時間の記録を本人が打刻して行うことを義務付けるべき理由もここにあります。

直帰直行時も出退勤の管理を

なお、この事例の部長は、「外出先から直帰直行した際、部下に代行打刻を依頼したが、その打刻時間は出退勤時間とほぼ一致していて正確」と主張しました。

しかし裁判所は、就業規則に直帰直行時には許可が必要とあることを理由に、部長の主張を認めませんでした。

従業員が外出する際は、直帰直行することもあるかと思いますが、そのときも、会社の許可制にせず、本人に労働時間の記録を任せてしまうのは、不正を行いやすい環境を育てているようなものです。

従業員本人が打刻できないときは、始業時間と就業時間をどのように記録するかを決めておかなくてはいけないでしょう。

なお、社外から社内システムにアクセスできて、客観的に出退勤を記録できる状況の場合などは、直帰直行であることのみを理由に、自己申告で労働時間を把握することは認められないとされていますので、注意が必要です。

【参照元】客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました

建設業の就業規則作成マニュアルはこちら

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