使用人兼務役員は就業規則の適用を受けるか?

労使トラブル対策 就業規則

取締役については就業規則の適用を受けませんが、使用人の立場と役員の立場を兼務する使用人兼務役員についてはどうでしょう?

結論からいえば、使用人兼務役員は就業規則の適用を受けます。

しかし、就業規則の適用を受けることを明確にしないままでいると、労使トラブルに発展する怖れがあります。

やはり、使用人兼務役員も就業規則の適用を受けることを明記しておくべきです。

役員と労働者の違い

使用人兼務役員とは、労働者の立場と、役員の立場を兼務する人をいいます。

役員と労働者の違いは、次の通りです。

  • 労働者とは、会社と「雇用契約」を結んでいる人で、労働基準法などの法律で守られている。
  • 役員とは、会社と「委任契約」を交わしている人で、労働基準法などは対象外。

上記の通り、取締役などの役員は雇用契約ではなく委任契約になるため、労働者に当たりません。

そのため、労働基準法や就業規則は適用されなくなります。

  • 3つある役員の種類

一口に役員といっても、次の3種類があります。

  1. 役員
  2. 執行役員
  3. 使用人兼務役員

このうち、就業規則が適用されないのは、①の役員で、②の執行役員と③の使用人兼務役員は就業規則が適用されます。

執行役員は、役員とは名がつきますが、会社法上の役員に該当せず、一般の従業員と同じ扱いになります。

使用人兼務役員は労働者としての立場もあるため、純粋な役員とは異なり、労働者の部分については、就業規則の適用を受けることになります。

使用人兼務役員の立場を判例から読み解く

とはいえ、法律上の解釈は存在しても、このことを就業規則に定めておかないと、労使トラブルに発展する可能性もあります。

たとえば、使用人兼務役員だった者が懲戒処分として受けた解雇が有効とされたメガネの田中チェーン事件です。

就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできないため、メガネの田中チェーン事件では、使用人兼務役員だった者が、就業規則の適用を受けるかどうかが一つの争点になりました。

その使用人兼務役員だった者は、就業規則の適用対象者であることの根拠として、就業規則にある次の文言を挙げました。

「この規則で従業員とは、取締役及び顧問等を除き、第三章に定める手続きにより採用され継続して会社に勤務する者をいい」

「取締役及び顧問等を除き」と規定しているのだから、使用人兼務役員である自分(役員の身分を併せ持つ)には、就業規則は適用されない。

よって、懲戒処分を科すことはできないと主張しました。

これについて広島地裁は、

「従業員としての地位を保有したまま取締役に就任していた者については、その取締役在任中にした行為であっても、従業員としての行為の性質をも併有するものというべきであるから、懲戒処分の対象とすることを妨げるものではないものと解される」

この判例では、就業規則の文言に関わらず、使用人兼務役員は就業規則の対象となるとしています。

ですが、労使間で誤解を生じさせないよう、就業規則にも、使用人兼務役員が適用対象であることを、きちんと明記しておくべきでしょう。

使用人兼務役員の残業代

使用人兼務役員の残業代については注意しなくてはいけない点があります。

そもそも役員は、労働基準法が適用されないため、残業代を支払う必要がありません。

それに対し、使用人兼務役員は、労働者の立場もあるため、労働基準法が適用され、残業代を支払う必要があります。

その一方で、使用人兼務役員が「管理監督者の立場である場合」でも、深夜残業を行ったときは、割増賃金を支払わなくてはいけません。

管理監督者に該当する従業員には、時間外労働や休日労働の規定が適用されず、残業代を支払う必要はありませんが、深夜残業(22:00~5:00)の場合は例外で、割増賃金を支払う必要があります。

ややこしいですが、混同しないようにしましょう。

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