大幅な就業規則の不利益変更には「緩和措置」が求められる

労使トラブル対策 就業規則

就業規則を従業員にとって不利益に変更をする場合、従業員の同意が必要になりますが、ケースによっては同意を得るだけでは足りないと判断されることがあります。

それが、大幅な不利益変更をする場合です。

仮に、賃金を従来の給与から50%も減額するような場合は、たとえそれが経営悪化を理由とするとしても、緩和措置をとる必要があります。

就業規則の不利益変更には従業員の同意が必要

賃金などの労働条件を、従来のものから不利益に変更する場合は、事業主が一方的に行うことはできず、原則、従業員の同意を得なくてはいけません。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法9条

不利益変更とは、下記のような労働条件の変更をいいます。

  • 賃金の減額
  • 退職金の減額
  • 労働時間の変更
  • 休日の変更
  • 福利厚生制度の廃止

とくに、賃金や退職金の減額は、従業員の生活に大きく影響します。

それを労働者と合意することなく、事業主の一存で決められては従業員もたまりません。

そこで、不利益変更を課す場合は、従業員との合意を必要とするというわけです。

緩和措置がなく不利益変更を認められなかった事例

しかし、同意を得たからといって、必ずしもそれが認められるわけではありません。

同意を得ても否認された事例は「就業規則の変更を有効にする7つのポイント」をご覧ください

たとえば、就業規則の不利益変更により、55歳以上の従業員の賃金と退職金を減額され、その差額賃金の支払いを求めたみちのく銀行事件では、従業員の73%が加入する労働組合の同意は得ていましたが、減額の対象となった少数組合員の同意を得ていませんでした。

合理的な理由とは、下記の要件を考慮して判断されます。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法10条

この判例の場合、企業側には、収益の悪化、従業員の高齢化を改善する必要があり、その施策の一環として、55歳上の管理職の賃金制度の見直しや組織改革を行わなくてはいけない事情がありました。

裁判所は、企業が置かれた事情を鑑み、この労働条件の不利益変更は、合理的な理由があり、経営上必要なものであったとしました。

しかし、変更の対象層、賃金減額割合(50%程度)、変更後の賃金水準を考えると、雇用の継続や安定化等を図るものではなく、単に高年層の従業員の労働条件を一方的に切り下げるものと判断しました。

※長期的にはこのような施策は経営改善をもたらし、その利益はいずれ従業員に還元されますが、対象となった従業員は55歳以上で60歳で退職することになり、還元利益を受けることなく退職することになる、という点も考慮しています。

そしてこのような大幅な不利益を生じさせる労働条件の変更を行う場合、

としています。

それがないまま、対象従業員に不利益変更を強いることは相当でなく、不利益変更を肯定することはできないと結論づけました。

まとめ

このように、たとえ、労働条件の不利益変更に合理的な理由があっても、さらに従業員の過半数が就業規則の不利益変更に同意していたとしても、賃金の大幅な減額などを行う場合は、その有効性を否定される可能性があります。

裁判所の指摘があるように、段階的に減額するなどの過措置を入れて、ショックを緩和するようにしておくべきです。

従業員側にしても、いきなりでは受け入れがたくても、経過措置があれば、受け入れやすいでしょう。

ちなみに、賃金の妥当性を見る指標として、県内の賃金水準を参考にしています。

賃金などの不利益変更を行うときは、周りの給与水準に対してどうなのかを参考にしてみるべきといえるでしょう。

建設業の就業規則作成マニュアルはこちら

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