職能資格制度と職務等級制度での降格時の注意点の違いを比較

労使トラブル対策 就業規則

人事評価制度には、大きくいって、職能資格制度と職務等級制度があります。

この2種類の人事評価制度を導入する場合、降格についての規定が

職能資格制度と職務等級制度の違い

職能資格制度とは

職能資格制度とは、個人の能力に応じて評価が決まる制度です。

従業員、「その人」自身が、どのような人か、どのような能力を持っているかで、等級評価が決まります。

職能資格制度の場合、その従業員自身の評価でランクが決まるので、社内でどんな職種になっても、給与は変わりません。

そのため、終身雇用制度にマッチした人事評価制度といえます。

職務等級制度とは

職務等級制度は、ジョブ型といわれる欧米型の評価制度です。

この制度は、職種に応じて等級を分類し、給与額が決まる評価制度です。

給与の対価の基準に、年齢や勤続年数といった、その従業員に関わる要素は入りません。

職務によって給与額が決まるわけですから、難易度が高い職種なほど、給与も高額に設定され、反対に簡単な業務になれば、給与は低くなります。

職務等級制度は、勤続年数などの要素は評価にならないため、その職務が遂行できなければ給与額も下がっていきます。

まさに欧米型のドライな制度といえるでしょう。

降格処分を行うときの職能資格制度と職務等級制度の違い

職能資格制度と職務等級制度ですが、降格を行う場合もそれぞれ違いがあります。

職能資格制度で降格させる場合

役職・職位を引き下げるときの降格処分は、「労使トラブルを防止する!降格処分が違法とならないためのポイント」をご覧ください。

職能資格制度は、一度身につけた職務遂行能力は、「下がることが予定されてない」という建付けで運用されているためです。

これについてアーク証券事件では、職能資格や等級を見直して引き下げる措置を行うときは、

「就業規則等における職能資格制度の定めにおいて、資格等級の見直しによる降格・降給の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠づけられていることが必要である」

としています。

なお、等級の引き下げが認められても、賃金の減給をセットでできるとは限らないことに注意が必要です。

賃金の減額は、労働条件の変更になるため、就業規則で別途規定しなくてはいけません。

職務等級制度で降格させる場合

しかし、労使トラブルを避けるためには、就業規則に職務等級制度で降格があり得ることを記載しておくべきです。

職務等級制度での降格が認められた判例としては、L産業事件(東京地裁)があります。

この事例では、プロジェクトチームのリーダーとして職務等級制度で雇用されていた従業員が、プロジェクトが解散になったため、その地位を失い、一般職のグレードまで降格されたことで、権利の濫用をされたと主張して裁判になりました。

会社はプロジェクトチーム解散後、当該従業員にリーダーと同格のポストを探しましたが、あいにく空きがなく、その結果、一般職まで降格せざるを得なかったという事情がありました。

この点について裁判所は

  • チーム解散により、役職・地位がなくなったのであるから、配置転換することに業務上の必要性が認められる
  • ポストを新設し、処遇すべき義務があるともいえない
  • 不当な動機・目的があったことをうかがわせる証拠はない
  • 年間で6%程度の減収になるが、職務内容・職責が変わっていることを考えれば、不利益を被っているともいえない

として、降格処分を有効としました。

この裁判では、職務等級制度による降級処分を、比較的緩やかに認めている点が特徴的といえるでしょう。

また、降格の有効性の裏付けとして

  • 就業規則で職務分類が明示されていた
  • 賃金も職務に応じて変動することが明示されていた

ということが挙げられています。

職務等級制度を導入する場合、降格を想定するときは、就業規則に、業務上の必要性に応じて降格や降給があることを入れておきましょう。

建設業の就業規則作成マニュアルはこちら

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