同一労働同一賃金に借り上げ社宅制度の導入を考える

労使トラブル対策

同一労働同一賃金の導入により、正規労働者と非正規労働者で同じ職務内容であれば「不合理な待遇差」をつけることが禁止になります。

不合理な待遇差には、給与、賞与、各種手当、福利厚生があります。

この各種手当の中には「住宅手当」も含まれます。

では正規労働者に住宅手当を支払っている場合、同じ職務内容で働いている非正規労働者にも住宅手当を支払わなくてはいけないのでしょうか?

ますます雇用に関してコストはアップします。

住宅手当に比べ費用のかからない、「借り上げ社宅制度」の導入も検討してみてはいかがでしょう。

非正規労働者にも住宅手当は必要?

同一労働同一賃金がスタートする2021年4月からは(中小企業の場合、大企業は2020年4月から)、正規労働者に住宅手当を支払っている場合、非正規労働者にも住宅手当を支払わなくてはいけないのか?

結論からいえば、現時点では住宅手当を非正規労働者に支払わなくても違法性は生じる可能性は低いです。

2018年6月に出された長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の最高裁判決では、正社員が受け取る6つの手当のうち、「契約社員は正社員と異なり転勤の可能性が無いため、住居手当の格差の不合理は認めず」となりました。

この裁判では、労働契約法20条の正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じた解釈を巡る最高裁の判断が初めて出され、政府が進める「同一労働同一賃金」の法制度の整備にも一定の影響を与えるとみられています。

定年後再雇用、待遇格差は不合理でない 最高裁判決

同一労働同一賃金のガイドラインはあいまい

裁判では、住宅手当を非正規労働者に支払わなくても(契約社員は正社員と異なり転勤の可能性が無いためという条件は付きますが)、不合理な待遇差ではないと判断されました。

しかし厚生労働省の同一労働同一賃金のガイドラインでは

退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。

同一労働同一賃金のガイドライン

となっていて、「不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と何とも歯切れが悪いですが、住宅手当だから待遇差があってもよいとはならないニュアンスです。

さらに「同一労働同一賃金の推進について(補足【Q&A】と【参考文献】) 」でも、

会社からの収入で生計を立てている者に対する生活保障的な給付(家族手当、住宅手当など) …扶養家族の存在、住宅の賃貸、収入の額など、支給要件として設定されている基準が給付を 基礎づける事情として説明可能なものであれば、それらの事情が合理性を基礎づける事情と なりうる

と、正規労働者のみに住宅手当が支給されたとしても問題ないとしながら、そのあとに

ただし、これらの基準は、実質的に性差別をもたらしうるもの(間接差別)として別の考慮がはたらく可能性があること(雇用機会均等法 7 条参照)には注意が必要である。

で、だからいったいどっちなんだとよくわからないことになっています。

現時点では同一労働同一賃金の運用前で、厚生労働省も手探りといったところでしょうか。

何をもって合理性を基礎づける事情とはっきりわかりませんが、今のところ住宅手当を正規労働者のみに支給することは問題ないといえます(くどいですが、あくまで現時点の話です)。

同一労働同一賃金の救世主?!借り上げ社宅制度

ただし、住宅手当がガイドラインの「不合理な待遇差」を解消すべき項目にあがっていることは事実です。

従業員から訴えられる可能性を0とすることはできません。

そこで導入を考えたいのが「借り上げ社宅制度」です。

借り上げ社宅とは、企業が不動産業者から賃貸物件を借り入れて、社員に貸し出す制度のことです。

一方住宅手当は福利厚生の一環として、企業が社員の住宅費用を一部負担する制度です。

大きな違いは、住宅手当は所得税・住民税。社会保険料の対象になるこです。

それに対し借り上げ社宅制度は、会社が家賃の大部分を負担し、従業員は家賃の一部を会社に支払い、所得税・住民税、社会保険料の負担を低く抑えられます。

たとえば基本給を25万円、住宅手当を5万円支払った場合は、30万円全額が、所得税・住民税、社会保険料の対象になります。

しかし借り上げ社宅制度の場合は、会社が5万円で賃貸物件を借り上げるかわりに、従業員の給与を25万円に下げます。

従業員は25万円から家賃の一部(たとえば1万円)を負担しますが、給与の総額が下がっているので、その結果手取りも増えるというわけです。

会社にしても借り上げ社宅の家賃分は、経費として計上できます(従業員からの家賃は収入に計上)。

また会社負担分の社会保険料の削減もできます。

ただし持ち家の従業員には使えない制度です。

あくまで賃貸に住んでいる従業員が対象の制度です。

しかし借り上げ社宅制度を導入することで、同一労働同一賃金で上昇する雇用コストを抑えることができますし、費用の負担を最小限にしつつ非正規労働者との格差解消も行えます。

現在は人手不足ですから、福利厚生の一環として求人の際にも役立てられます。

借り上げ社宅の導入を検討されてみてはいかがでしょう。

まとめ

現在のところ同じ職務内容でも、正規雇用労働者のみに住宅手当を支払っても、同一労働同一賃金のルールには触れないようです。

ただし、同一労働同一賃金ガイドラインでは、住宅手当も対象になっています。

ですから、今後の裁判の判例などによっては、あるいは非正規雇用労働者にも支払わなくてはいけない、といったことも考えられます。

そういったリスクを避けるためにも、借り上げ社宅制度の導入を検討してみてはいかがでしょう。

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