中途採用の従業員に、会社が期待するのは即戦力ですが、職歴が嘘だった場合、即戦力も期待できなくなります。
むしろ、偽りの職歴で、採用の否決や業務内容や賃金が決まるわけですから、職歴詐称は重大な詐称に当たるといえるでしょう。
では、嘘の職歴で採用された中途採用の従業員を、職歴詐称で解雇することは可能でしょうか?
経歴詐称での解雇は認めらやすい
結論からいえば、経歴詐称は懲戒解雇した場合でも認められやすくなります。
まず最初に、企業は応募者の能力・資質・性格等を適正に評価し、採用基準を満たす人材かどうか判定するために、履歴書等の資料を応募者に求めるのは必然です。
それに対し応募者は、自身を適正に評価してもらい、長期間に渡って雇用され、その期間は賃金を受け取るわけですから、そこには信頼関係が必要で、その前提となる質問や履歴書には、正直に答えなくてはいけない信義則の義務があります。
応募者の経歴の詐称は、この信義則義務に違反するものとなります。
とくに職歴の場合、採用の採否に与える影響は大きく、事業主は過去の職歴から、募集業務に見合った能力が応募者にあるかどうかを判断します。
経験者を採用したいのに、未経験者が応募してくれば、それは採用しないでしょう。
反対に、未経験者なのに経験者と偽って応募してくれば、事業主は間違った判断で採用を決定するかもしれません。
これは「知っていれば雇用しなかった」重大な経歴詐称で、懲戒解雇にされた場合でも、裁判所は有効とする傾向があります。
では、判例で実際の裁判所の判断をみていきましょう。
1.【解雇有効】プログラマーと詐称して解雇されたKPIソリューションズ事件
KPIソリューション事件は、プログラマーと詐称して雇用された従業員が、その後、嘘が判明して解雇された事例です。
裁判所は、解雇は有効としたました。
このケースでは、解雇された従業員(外国人)は、プログラミングの職務経験がなく、さらに前職の会社名や在籍期間、履歴書に記載した退職理由も違っていました。
その結果、虚偽の事実で採用されたことへの解雇が認められ、おまけに損害賠償の支払いも命じられることになりました。
このように、かなり悪質な職歴詐称は、解雇も認められやすくなります。
2.【解雇有効】タクシー勤務を詐称した懲戒解雇が有効にされた都島自動車商会事件
都島自動車商会事件は、タクシー会社に勤務していたことを隠して、タクシー会社に採用され、その後、詐称が判明して懲戒解雇にされた事例です。
裁判所の判断は、懲戒解雇を有効としました。
その理由として
- タクシー会社に勤務していたことが分かれば、その点につき調査をし、能力・成績等から採用の否決を決める重要な資料とすることができた
- タクシー勤務の有無によって、採用後の指導・監督について異なっていた可能性があった
- 前職の会社に従業員のことについて問い合わせたところ、はかばかしいものではなかった
- このようなことを知っていれば、採用をしなかったか、もしくは雇用したとしても、監督指導についても重要な差異があった
として、元従業員の経歴詐称は懲戒解雇が相当としたのでした。
3.【解雇無効】職歴詐称による解雇が無効とされた秋草学園事件
秋草学園事件は、履歴書に職歴の不実記載をしたことを一つの原因とし、解雇された事例です。
裁判所の判断は、解雇を無効としました。
解雇を無効とした理由として裁判所は
「不実記載の内容、程度、実際の本人の職務遂行能力、素質、不実記載がなされるに至った経緯」
と
「不実記載により、使用者がどのように判断を誤り、そのために損害を被ったか等を慎重に検討して決する必要がある」
があるとし、単に経歴を詐称しただけで解雇にすることはできないとしています。
そして、職歴の不記載は、職務に必要な適格性を欠くといわれてもしょうがないが、
- 原告に特段悪意は認められず、職務遂行能力にも影響はない
- 評価を誤って採用すべきでない人を採用し、そのため損害を被ったなどの事情は一切認められない
とし、解雇を無効としたのでした。
職歴詐称のみで解雇にはできない
判例からみてもわかるように、裁判所の判断は、職歴詐称のみで解雇が有効かどうかを判定しているわけではありません。
- 詐称された経歴が、採用の否決にどの程度影響したか?
- 詐称した経緯
- 採用後の、職務遂行能力、資質
- 実際の損害の程度
などを総合的に勘案し、判定しているといえるでしょう。
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