人件費はコストでなく「投資」。投資を成功させる人件費計画の基本

人件費対策

粗利益を「付加価値」と呼ぶことがあります。

売上原価に乗せた利益が粗利益ですから、付加価値といい換えても何らおかしくありません。

この付加価値を生み出すのは、機械や設備や売上原価の削減でなく、「人」です。

ややもすると人件費はコストと認識されます。

コストだから業績が悪くなると無駄の対象になるわけですが、しかし、人の知恵や工夫の産物が付加価値(粗利益)であることを思えば、人こそが経営資源です。

であるなら、人件費はコストとではなく、投資という認識にあらためるべきです。

粗利益が重要

企業にとって重要な利益とは、「粗利益」です。

会計用語でいえば「売上総利益」のことで、売上から売上原価を引いた後に残る利益をいいます。

人によっては、営業利益や経常利益が大事といいますが、これらの利益と粗利益の違いは経費を引いた後の利益になるか、利益の源泉となる元になるかの違いです。

前者が営業利益や経常利益、後者が粗利益です。

だから何だという話ですが、経費を引いた後の利益に着目すると、給与や販促費などをどれだけ抑えられるかという発想になってしまいがちです。

過度な経費削減が招く結果は、品質劣化や従業員のモチベーション低下です。

それがやがて販売不振へつながります。

それに対して粗利益には、企業が事業活動を通じて生み出す「付加価値」という別の見方があります。

ユーザーが何事か価値を感じて投じたお金、企業が儲けとして受取れる利益が粗利益です。

そして粗利益の中から、給与や販管費、銀行への支払利息と元本部分の返済が行われ、その残りが自己資本に蓄積されていくわけですから、まさに企業の原動力となる利益です。

粗利益が大きいか小さいかで、事業の成長も財務の安全性も決まるといっても過言ではありません。

粗利益を縮めてしまうことは企業の寿命を縮めることで、粗利益は「伸ばす」という発想が必要なのです。

つまり、同じ利益でも、営業利益や経常利益と粗利益では、進むべきベクトルの方向が違うのです。

もちろん、無駄を省いて利益を確保することは大事ですが、それは前述した通り商品やサービスの価値を下げてしまうことになりやすく、一過性の目的としては良くても、永続的な施策とはなり得ないでしょう。

粗利益を稼ぐのは「人」

その粗利益を増やすには、

  • 売上原価を下げる
  • 固定費(販管費)を下げる
  • 高単価で販売する

という3つの方法がありますが、コストカットには限界がある以上、永続的な施策にはなりません。

最近では資源インフレから、原材料自体が上がってします。

このような状況でも粗利益をしっかり確保するには、やはり高単価販売が必要となります。

そのためには、技術力やサービス力を上げて、価格に見合う価値を提供していくのが基本です。

それを実現するのが「人」でしょう。

技術力やサービス力を高めるのはもちろん、機械設備やオンラインシステムを導入しても、それを動かすのが人であるわけですから、利益をもたらすのは人であり、すなわち人材育成がこそが粗利益最大化の施策といえます。

つまり、人件費はコストでなく、収益を伸ばすために必要な「投資」です。

投資を成功させるには「人件費計画」が必要

とはいえ、無尽蔵に給与を上げていいというものではありません。

人に投資をしたとしても、すぐに粗利益を高くして販売できるものでもありませんし、利益を確保しないまま増員や教育費で人件費を上げてしまうと、それこそ営業利益や経常利益は飛んでしまいます。

最悪の場合は赤字です。

それは採算に合わない過剰投資というものでしょう。

中小企業の場合、固定費(販管費及び一般管理費)の大半は人件費(給与、福利厚生費、法定福利費)です。

とくに社会保険料は、利益を圧迫する原因となっています。

社会保険の法人側の負担は給与の約15%、しかも利益に関係なく出ていく固定費です。

おいそれと給与を増やせるものではないでしょう。

中小企業にとって、人件費のコントロールは、利益を左右する最大の肝です。

だからこそ人件費計画を作り、投入したお金でしっかり利益を得られるかを確認しなくてはいけません。

人件費計画の中心となる「労働生産性」と「労働分配率」

そこで重要になる指標が、

  1. 労働生産性
  2. 労働分配率

です。

1.労働生産性

労働生産性とは、従業員一人当たりの付加価値額をいい、付加価値額を従業員数で割った数字です。

要するに、粗利益を従業員数で割った数字で、従業員一人当たりいくらの粗利益を稼いでいるかを表した数字です。

仮に、10人で1億円の粗利益なら、労働生産性は一人1,000万円です。

・1億円÷10人=1,000万円

逆にいえば、目標とする一人当たりの労働生産性が1,000万円なら、その数値で粗利益を割ると適正な社員数を求めることができます。

・労働生産性から考える適正な社員数=粗利益÷労働生産性

労働生産性を算出すると、現状の社員数が多いか少ないかの判断基準になります。

いい換えれば、粗利益の高低で社員の適正数は決まるといえ、粗利益を多く稼ぐことができれば社員を増やすこともでき、なおかつ待遇改善も行えます。

そのために把握しなくてはいけないのが労働生産性です。

労働生産性の把握なくして、人件費をコントロールはあり得ないでしょう。

労働生産性の良し悪しは「対比」でみる

ちなみに、算出した労働生産性の数値が良いか悪いかの判断は、単年度では判断できません。

過去3年~5年分のデータから労働生産性を求めて、それを時系列に並べてみましょう。

年々労働生産性が下がっているのなら、利益に対して多すぎる社員を雇っているということになります。

2.労働分配率

労働生産性を求めることで、社員(パートタイムや契約社員を含む)の増減計画も決まります。

社員数が決まれば、それに基づいて年間給与の総額を算出します。※給与以外の賞与、各種手当、退職金、法定福利費、福利厚生費を含む)

社員の給与の総額が決まれば、それを粗利益で割ってみます。

これで求められるのが「労働分配率」です。

・労働分配率=人件費÷粗利益

この算式でわかるのは、粗利益に対する人件費の割合です。

  • 労働分配率が高い→人件費の割合が高く非効率
  • 労働分配率が低い→効率的に粗利益を稼いでいる

ただし、低すぎる数値は、労働力を安い賃金でこき使っているともいえ、労働分配率が低いことが正しいとは一概にいえません。

労働力に見合わない賃金は、社員のモチベーションを低下させ、短期の離職につながります。

これでは一時的に利益を稼げても、長期的には失敗に終わります。

それゆえ労働分配率を測るときは、「社員への待遇」という指標も必要になります。

社員の待遇とは、端的にいえば、給与(賞与や諸手当、福利厚生を含む)を上げることです。

「これだけの粗利益を稼ぐから、これだけは給与を支払える」

ともいえますし、

「これだけの給与を支払うから、これだけは粗利益を稼いでもらわなくてはいけない」

ともいえます。

いずれにしても、社員への待遇を測る指標は、社長の社員への想いであり、労働分配率を単なる効率・非効率を見るだけの指標にしないために必要です。

社会保険対策

余談ですが、給与以外の賃金を何に振り分けるかは重要です。

それは社会保険に関係してくるからです。

社会保険の会社側の負担は、ご存じの通り給与の約15%です。

給与や各種手当に賃金を振り分けると、その額がそのまま社会保険の対象になり、支給額に比例して保険料も増大します。

したがって、社会保険の負担を抑えたい場合には、給与以外の賃金を、社会保険の対象とならない形で支給するといった対策が必要となります。

社会保険対策はこちら↓

人こそが中小企業の経営資源

人件費を上げながら、労働生産性を高めて粗利益を増やし、その結果として労働分配率を適正な値へ下げる。

なかなかの経営力が求められますが、人件費というお金を投じて目標利益を達成するには、粗利益、労働生産性、労働分配率という指標を使って計画を立てなくてはいけません。

人は城、人は石垣、人は堀ではありませんが、会社を成長させてくれるのは、機械・設備、インターネット、DXではなく、智慧を出して工夫し、チームで協力しながら案を実行する人です。

まさに人は経営資源です。

そこに投資しなければ、事業の成長はあり得ないでしょう。

まとめ

人件費はややもするとコストと認識されますが、事業の成長を支える屋台骨であることを思えば、それに投下するお金は投資です。

ただし、やみくもに投資しても、期待通りの利益が返ってくるわけではありません。

むしろ過剰投資で利益を食いつぶしかねないでしょう。

だからこそ、計画を立て、それに沿って数値管理をし、適正なリターンを得られるようにすることが経営者に求められます。

粗利益という付加価値を稼ぐには、人への投資が必要です。

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