中小企業経営のカギとなる「3つ」の労働生産性

人件費計画

労働生産性とは、粗利益(付加価値)を社員数で割ったものをいいます。※労働生産性には、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類がありますが、ここでいう労働生産性は「付加価値労働生産性」です。

労働生産性が高ければ、一人当たりの稼ぐ粗利益が高く、効率よく業務を行っている証であり、反対に、労働生産性が低ければ、一人当たりの稼ぐ粗利益が低く、生産性が悪いということになります。

中小企業にとって、経費の大半は人件費です。

すなわち労働生産性が中小企業経営のカギといえるでしょう。

限られた粗利益の中で中小企業が利益を残すには、労働生産性による管理が必須です。

この記事では、3つの労働生産性について解説します。

3つの労働生産性

労働生産性は粗利益(付加価値)何で割るかで、求める指標が変わります。

その指標は次の3通りです。

  1. 社員数から求める労働生産性=粗利益÷社員数
  2. 給与から求める労働生産性=粗利益÷固定労務費(売上原価に入る人件費は除く)
  3. 時間から求める労働制再生=粗利益÷生産時間

1.社員数から求める労働生産性

社員数から求める労働生産性を高くするには

  • 粗利益を上げる
  • 社員数を少なくなする

ことが必要になります(あるいは2つ同時に行う)。

少子高齢化、人口減少の進む日本で、売上を右肩上がりに伸ばしていくことは簡単ではありません。

粗利益は「売上-売上原価」ですから、売上が伸びない以上、粗利益のみを上げていくには限界があります。

となると、必然的に現状の粗利益に適した社員数にしなければ、業務効率は低下しているということであり、「利益に対して人件費のかけ過ぎ」となります。

その結果、社会保険料を含む人件費が営業利益を圧迫し、最悪の場合は支払い不能となります。

要は、労働生産性(一人当たりの稼ぎ)が増えないまま、安易に人を増やしてしまうと、利益も簡単に飛んでしまということです。

中小企業は「少数で稼ぐ」が基本であり、儲けが少ないうちは人を増やさないのが鉄則です。

社員数から求める労働生産性が教えてくれることは、「儲けに対して社員数が少ないか多いか」です。

もし社員数を増やしたければ、粗利益も同時に増やさなくてはいけないということになります。

社員の待遇改善も然りです。

逆にいえば、労働生産性の把握なくして、人件費のコントロールはままならないということです。

2.給与から求める労働生産性

給料から求める労働生産性は、粗利益を「固定労務費」で割って求めます。

固定労務費とは、変動費(売上原価)にカウントされない給与のこと、ブルーカラーとホワイトカラーでいえば、管理職のホワイトカラーの給与です。

ホワイトカラーが担うのは、業務や商品・サービスの改善、創造を求められる仕事です。

つまり、イノベーションによって、労働生産性を高めることが役割です。

まさに経営資源となる資産、固定労務費はイノベーションへの「投資」といい換えてもいいでしょう。

したがって、固定労務費を「コスト」と認識するのは間違いです。

同じ労働力でも、変動費に含まれる労務費(アルバイト、外注、派遣社員など)はコストになります。

コストですから、ときにはコストダウンの対象となるでしょう。

しかし、変動労務費と固定労務費では、向かうべきベクトルが異なります

  • 変動労務費→コストダウン→なるべく使わない
  • 固定労務費→生産性の向上→しっかり使うもの

同じ労務費でも変動労務費と固定労務費は真逆の性格を持っているのです。

固定労務費をコストと捉えて削ってしまうと、モチベーションの低下や人が育たず、粗利益を増やすイノベーションは起こらないでしょう。

変動労務費と混同してはいけない人件費です。

固定労務費には、粗利益を稼ぎ出す重要な役割があることを忘れてはいけません。

人件費の「変動費化」も視野に

固定労務費が付加価値を創り出す経営資源といえ、安易に人や給与を増やせば、労働生産性は下がります。

やはり、人件費の変動化も同時に考えていかなくてはいけません。

固定費は売上げの増減に関係なく支出されるお金です。

必要な粗利益を稼げなければ、固定労務費が負担となって資金繰りが圧迫され、その他の支払いにも困るようになります。

現実的に、正社員が増えれば会社の負担はぐんと重くなります。

簡単に正社員を増やしていいとはいえません。

そのため、労働生産性を見据えながらの人件費の変動費化が必要になります。

変動費の安易なコストカットは労働生産性の低下を招く

変動労務費はコストの対象ですが、だからといってむやみやたらに削っていいもとはいえません。

安易なコストカットは、品質低下を招き、これも労働生産性を下げる原因となります。

また、作業者の方々にコストカットを盾にして無茶な要求をするのも問題です。

それはコンプライアンス違反となる可能性があります。

今の時代、ブラック企業の誹りを受けることは厳に慎むべきでしょう。

訴訟リスクもありますし、ブラック企業のイメージがついてしまえば、採用も困難になります。

3.時間から求める労働生産性

3つ目は時間から求める労働生産性です。

これは社員数から求める労働生産性の「穴」となる部分を補うための指標です。

たとえば、1億円の粗利益を5人で維持していた場合、労働生産性は2,000万円です。

これを4人に減らして達成したならば、労働生産性は2,500万円となり、効率は向上したことになります。

もしこのときに、何らかの理由で粗利益が8,000万円に減少したとすると、労働生産性は2,000万円となって、以前と変わらない状態となります。

しかし、労働生産性は変わらなかったとしても、労働時間を大幅に短縮していたのなら、それは評価すべきでしょう。

粗利益が減ってない?

これは逆についても同じことがいえ、粗利益を作業時間で割ってみることで、真の労働生産性が見えてきます。

たとえば、粗利益2,000円の家電製品があった場合、これを1台作るのに20分かかっていたとします。

このときの労働生産性は100円/分です。

仮に、この作業時間を2年目→15分、3年目10分と短縮した場合、それぞれの労働生産性は次の通りになります。

  • 1年目:2,000円÷20分=100円/分
  • 2年目:2,000円÷15分=133円/分
  • 3年目:2,000円÷10分=200円/分

1年目と3年目を比較すると、労働生産性は2倍になっています。

実にすばらしい改善ですが、もしこのとき、粗利益も同時に落ちていたら数字の意味は変わってきます。

たとえば2年目以降、粗利益が700円ずつ落ちていたなら、労働生産性は次のように変わります。

  • 1年目:2,000円÷20分=100円/分
  • 2年目:1,300円÷15分=86円/分→16%の悪化
  • 3年目:600円÷10分=60円/分→40%の悪化

作業時間は短縮できても、実際の労働生産性を1年目と3年目で対比してみると、40%も悪化していることがわかります。

もしこの状況で、1年目の労働生産性「100円/分」を維持するのなら、各年の作業時間は以下の通りになってなくてはいけません。

  • 2年目:1,300円÷100円/分=13分
  • 3年目:600円÷100円/分=6分

逆にいえば、間違った労働生産性を基準にすると、まさに骨折り損のくたびれ儲け、作れば作るほど利益は減っていくということです。

粗利益を作業時間で割ってみることで、実体の労働生産性を見ることができます。

余った時間はクリエイティブな活動に

ただし、労働生産性を高めようとして、管理や無駄の削減をし過ぎると返って逆効果となります。

たとえば、作業時間を半減できても、その余った時間を別の単純作業を入れてしまえば、人は単なる作業ロボットになってしまいます。

これでは、イノベーションは起こらないでしょう。

さらにえば、売上原価に対する労務費の占める割合を見て、その比率が小さいのであれば、作業時間の無駄を一生懸命省いても、その影響は小さいでしょう。

無駄な作業の見直しは必要ですが、管理や削減のやり過ぎは禁物です。

作業効率が上がって時間が余ったのなら、

  • 設備の保全
  • 作業のスキルアップ
  • 後進の育成
  • 安全・衛生活動への貢献
  • 新製品や新工法の開発

など、クリエイティブな時間をつくってあげることも必要です。

人件費こそは、粗利益を最大化するための投資です。

労働生産性の良し悪しを測る方法

労働生産性の良し悪しは、単年ではわかりません。

3年や5年の数値を並べて対比し、自社の傾向がわかります。

労働生産性が悪くなってきているのなら、その原因を突き止めて早急に対処しなくてはいけません。

  • 増益してないのに労働生産性が下がっている→基準を持たず人や給与を増やしすぎ
  • 人や給与を増やしてないのに労働生産性が下がっている→業務改善ができていない

労働生産性は人件費の基本となる指標です。

売上だけ見て決めていると、利益はどんどん減少していきます。

目指すべきは「増益」

労働生産性を高くするには、

  • 粗利益を増やす
  • 粗利益に見合った人員を保つ
  • 作業時間の短縮

が基本になります。

ここでこだわらなくてはいけないのは、粗利益を増やすこと、「増益」です。

たとえ売上げが減ってもでも、増益だけは達成しなくてはいけません。

そのためえには、儲けの薄い商品・サービス、自社にとって将来性のない商品・サービスは「撤退する」という選択肢も必要です。

中小企業は大企業ほど財務基盤が強いわけではありません。

大規模な資金調達手段は、金融機関からの融資がメインと限られています。

限られた資金で利益を最大化するには、分散ではなく集中。

儲かる商品・サービスへの経営資源を選択することが求められます。

それで売上げが減っても、粗利益を確保できれば問題ありません。

目標とする粗利益を達成できれば、支払いができなくなることはほぼなく、手元にキャッシュが残るからです(もちろん資金繰りは絶対ではありませんので、万が一に備えて、銀行から資金調達しておくのがベターです)。

粗利益が確保できれば、労働生産性は向上し、そこではじめて増員や社員一人当たりの待遇改善も行えます。

利益が取れない事業は、あえて捨てることで、目標とする労働生産性を上げることができるのです。

これからの中小企業の戦略には、攻める、守る、捨てるという取捨選択が必要になります。

まとめ

中小企業の経費のほとんどは給与の支払いです。

いい換えれば、人件費をいくら支払うかで、残る利益額は変わるということです。

その指標となるのが労働生産性です。

労働生産性の管理なくして、人件費のコントロールはできません。

社員を増やすことも、社員の待遇を改善することも、労働生産性という担保があって、はじめてできるといってもいいでしょう。

労働生産性は、人件費を決める上で重要な指標となります。

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