働き方改革で損益分岐点は上昇
働き方改革で人件費は上昇します。
人件費上昇は「固定費」の増大です。
固定費が上がれば損益分岐点も上がり、利益は出にくくなります。
そんな中、安易な値引きをすると、いとも簡単に利益は飛びます。
今後、どう粗利益を確保するかは、中小企業の大きな課題です。
同一賃金同一労働で人件費はアップする
2021年4月より中小企業は同一労働同一賃金がはじまります。
同一労働同一賃金とは、職務内容が同じなら、正社員と非正規社員で「不合理な待遇差」をつけてはいけないというルールです。
同一労働同一賃金に違反したからといって罰則はありませんが、従業員から「不合理な待遇差がある」と訴えられる可能性が出てきます。
要するに訴訟リスクがあるということです。
そして訴えられれば負ける公算が高くなります。
大企業もまだ様子見とのことで、実際には同一労働同一賃金に対応してないようですが、いずれにしても人件費の高騰は避けられません。
すでに残業の上限規制はスタートしていますが、同一労働同一賃金で、働き方改革は総仕上げとなり、以後、人件費メインのコストダウンはむずかしくなるでしょう(外国人労働者も同一賃金同一労働の例外ではありません)。
同一賃金同一労働で損益分岐点はどうなるか?
人件費とは、いわずもがな「固定費」になります。
固定費は、売上の変動に関係なく一定額発生する費用です。
そのため、損益分岐点は上昇し、儲かりにくい体質となります。
・損益分岐点の計算式:固定費÷(1-変動費率)
たとえば、固定費が400万円、変動費30%で売上げ1000万円とします。
このときの損益分岐点は570万円です。
・変動比率:300万円÷1000万円=30%
・損益分岐点売上:400万円÷(1-30%)=570万円
しかし人件費の高騰で固定費が500万円になればどうでしょう?
損益分岐点は714万円まで上昇します。
・損益分岐点売上:500万円÷(1-30%)=714万円
同一賃金同一労働で人件費が上昇すれば、このようなことが起こるのです。
固定費上昇で待っているのは薄利多売地獄
固定費上昇でそれをカバーしなくてはいけない売上高は増えることになります。
ではこのとき、安易な値下げで売上を獲得しようとすると、どんなことが起こるでしょう。
それは薄利多売の地獄です。
まず、利益に対する値引きの影響は、思った以上に大きいことを認識しましょう。
1割値引きすれば、1割販売数を増やせば同じ利益を稼げるというものでないからです。
仮に仕入れ50円、単価100円の商品を10個販売したケースで考えてみます。
このときの利益は500円です。
・(100円-50円)×10個=500円
これを1割値引きして販売すればどうなるでしょう。
販売数は1割以上の13個売らないと、500円の利益は得られません。
・500÷(90円-50円)=12.5個
つまり値引き幅以上に販売数を増やさないと、粗利益が減ってしまうのが値引きの怖さなのです。
働き方改革で人件費が上昇すると、考えのない値引きをすれば、いとも簡単に利益は飛んでしまいます。
したがって今後は、どうやって粗利益を確保するかが重要な施策となります。
会社全体の平均粗利益率を求める方法
とはいえです。
取扱い商品は一つだけではありませんし、ときには利益が少なくても集客商品として販売することもあるでしょう。
ですから問題は、全体で粗利益をきちんと確保できるかが大事になります。
そこで、複数の商品を販売しても、目標とする粗利益を確保するための計算方法をご紹介いたします。
会社全体の平均粗利益率は、次の計算式で求めます。
・(商品別の粗利益×売上構成比)+(商品別の粗利益×売上構成比)・・・以下同じ計算式
つまり、会社全体の平均粗利益率は、その会社で販売しているすべての商品の相乗積(商品別の粗利益×売上構成比)の合計値となります。
たとえば以下の粗利益率と売上げ構成の商品群がある場合を計算してみます。
上記表からわかる通り、この会社全体の平均粗利益率は32%です。
粗利益率が下がると売上はいくら必要になるか?
このケースで、もし安い商品をより多く売ってしまった場合、粗利益率はどう変化するでしょうか?
粗利益率の低い商品Aの売上構成を30%にして、その他の商品のシェアを10%ずつ低下させてみます。
ご覧のように粗利益率は26%にまで低下してしましました。
では粗利益率が26%まで低下してしまった場合、低下前の32%と同じ利益額を稼ぐにはいくら売上を伸ばせばよいでしょうか?
冒頭でお話ししたように、6%粗利益率が低下したから、売上を6%伸ばせばいいというものではありません。
実際に計算してみます。
仮に1000万円の売上の場合、32%の粗利益率だと、粗利益額は320万円になります。
・1000万円×32%=320万円
この320万円を26%の粗利益率で稼ぐ場合、必要な売上は1143万円です。
・320万円÷28%=1143万円
つまり、粗利益率が6%低下すると、同じ粗利益額を確保するのに、14.3%売上を伸ばさなくてはいけないのです。
どれだけ値下げや安売りが危険かご理解いただけたかと思います。
値下げは簡単にできますが、不足した利益を稼ぐのは容易ではないのです。
働き方改革後の粗利益減と固定上昇で損益分岐点はどうなるか?
さらにここへ働き方改革で人件費が上昇し、固定費が増えればどうでしょう。
損益分岐点計算式の変動費率を見てもらえればわかりますが、変動費率を引いた数字が粗利益率です。
・損益分岐点=固定費÷(1-変動費率)
粗利益率が減り、さらに固定費が上昇するとなれば、手元に残る利益は一層少なくなります。
平均粗利益率32%、固定費200万円なら、損益分岐点売上は625万円です。
・200万円÷(1-68%)=625万円
しかし、平均粗利益率が26%に下がり、その上固定費が250万円に上昇すれば、損益分岐点売上は962万円まで上昇します。
・250万円÷(1-74%)=962万円
下手な値下げをすれば、同一賃金同一労働発動後は、生き残れないことがよくわかります。
だから働き方改革が実施されても生き残るには
- 生産性を高めて労働時間を短縮する
- 生産性を高めて高利益体質にする
- 販売単価を見直して必要な粗利益を確保する
といったことが必要になります。
これは口でいうほど簡単なことではありませんが、それでも対応しなければ企業の体力はどんどん削り取られます。
まとめ
働き方改革で、人件費は上昇します。
人件費の増大は固定費を上げ、企業は利益をこれまで通りに稼げなくなります。
だからといって値下げで売上を確保しようとするのは、実は下策なのです。
むしろ安易な値下げを行うと、自らの首を絞めることになります。
働き方改革、とくに同一労働同一賃金実施後でも、きちんと利益を稼げる事業計画を立て、生き残れる利益体質を築きましょう。
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