売上高に対しての人件費の割合を見る指標に、「売上高人件費率(以下、人件費率)」があります。
計算式は「人件費÷売上高×100」で求めます。
一般的に人件費率が高ければ人件費の掛け過ぎで、人件費率が低ければ生産性が高いとみられます(ただし業種にもよりますし、低すぎなのは効率云々ではなくただ人件費をケチっているだけという可能性もあります)。
この人件費率が適正かどうか考える場合、もっと大きな経営指標で考えてみましょう。
効率的な経営かを見る指標ROA
その経営指標とは「ROA」です。
ROAとは「総資本経常利益率」のことです。
ROAは次の計算式で求めます。
・総資本経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 総資本 × 100
ROAは総資本(総資産)をいかに有効に活用して利益を上げているかを示しています。
似た指標のROIとは違い、負債総額についても考慮しています。
計算式に出てくる「総資本」は、貸借対照表の「資産の部」の合計です(負債・純資産の合計と同じ額)。
ROAはどれだけの元手(総資産)で経常利益を生み出したかを見る指標で、数値が高いほど効率よく経営を行っているという証になります。
たとえば次のような財務状態の会社のROAは、4.2%です。
・1050万円(経常利益)÷1億5000万円(総資産)×100=4.2%
ROAの適正値は5%前後とされています。
仮にROAが1%未満であれば、元手(資本)をほとんど増やせていないということです。
総資本を銀行に預けた場合の利息よりROAが低い場合、資本を増やす(利益を生み出す)という点においては、会社を経営する意味がないということになります。
人件費率を見直したときのROAの数値を見る
では売上高人件費率を見ていきましょう。
人件費率の計算式は「人件費÷売上高×100」ですので、次の会社の人件費率は40%です。
・1億円(人件費)÷2億5千万円(売上高)×100=40%
このときのROAは約5%です。
・3050万円(経常利益)÷6億円×100=5.08%
人件費率を下げるには、
- 人件費を下げる
- 生産性を上げる
の2通りが考えられます。
人件費を下げた場合と、設備投資などをして生産性を向上させた場合、ROAにどのように影響していくかみていきましょう
人件費を下げた場合
人件費を仮に9000万円まで削減したとします。
このときの人件費率は36%まで低下します。
・9000万円÷2億5000万円×100=36%
そしてROAは6.75%に上昇します。
・4050万円÷6億円×100=6.75%
これぞまさに効率的な経営を行っているという証です。
ただし人員削減を行った場合、人手が足りずに商品・サービスの品質の低下したり、接客で対応しきれずにクレームを生んだりして、顧客離れを起こす可能性があります。
また人手不足でギリギリで業務を回すことで、従業員の身的・精神的負担が生じ、それが原因で離職につながる場合もあります。
現場を見て、きちんと仕事が回っているかの確認が必要です。
設備投資をした場合
次は人件費を削減せず、設備投資で業務の効率化を行ったケースを考えてみます。
設備投資の額は5000万円です。
設備投資5000万円で固定資産が増え、総資産は6億5000万円に増えます。
したがって、人件費率は40%のままですが
・1億円÷2億5000万円×100=40%
ROAは逆に4.7%に低下してしまいます。
・3050万円÷6億5000万円×100=4.7%
設備導入で総資産が6億5000万円に増えたことが原因です。
※ここではややこしくなるので減価償却費は考えないことにします。
設備投資による生産性向上で経常利益を増やさないと、設備投資した意味がなくなり、会社全体では非効率な経営となってしまいます。
まとめ
人件費率を適正かどうか判断するのも大事ですが、それが会社全体のどのような影響を及ぼすかも経営者なら考えておかなくてはいけません。
設備投資や人件費を削減すれば、それは損益計算書だけでなく、貸借対照表にも関係してきます。
貸借対照表の数値が変われば、当然ながら融資に影響してきます。
これは経営者なら把握しておくべきことです。
人件費率を考えるときは、同時にROAもどうなるか確認しておきましょう。
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