メンタルの病気などで休職した従業員の復帰を、スムーズにする施策の一環に、「試し出勤制度(リハビリ勤務制度)」があります。
試し出勤制度は、休職者の復帰に備え、メンタルや体の不調の状態を観ながら、段階的に職場復帰を行うことを目的としています。
ただし、試し出勤制度は、「復職前」と「復職後」では、賃金の支払いで取り扱いが変わりますので注意が必要です。
試し出勤の「復職前」と「復職後」で異なる点
試し出勤制度には、リハビリ勤務制度やリハビリ出勤制度といった他の呼び名がありますが、ここでは試し出勤制度で統一します。
試し出勤制度の導入は、法的な義務はなく、会社の任意で決められます。
ただし、試し出勤を復帰前に行うのか、復帰後に行うのかで、賃金の支払いや労災の取り扱いが異なります。
試し出勤制度を導入する際は、この点に注意しなくてはいけません。
復職【前】の試し出勤
復職前の休職期間中に行われる試し出勤は、復帰に向けての準備期間です。
休職期間中の試し出勤は、リハビリ的なもので労務の提供は行わないのが原則です。
そのため、賃金は発生しません。
ただし、テスト的でも業務を命じた場合は、事業主の指揮命令下にあったことになり、賃金の支払い義務が生じます。
さらに、休業期間中の試し出勤は、業務に従事しておらず賃金の支払い対象ではないため、労災や通勤災害の適用の対象にならない可能性があります。
労災や通勤災害のことは、起こってからトラブルにならないよう、復職前に試し出勤をする従業員に、労災や通勤災害の対象にならない可能性があることは、事前にしっかり伝えておきましょう。
試し出勤期間中の傷病手当金の取り扱はどうなる?
また、傷病手当金については、軽微な作業等で賃金が支払われる場合であっても、状況によっては支給対象な状態(「就労不能」な状態のこと)とみなされ、傷病手当金が引き続き支払われることもあります。
健康保険法第99条第1項に規定する「療養のため労務に服することができないとき」(労務不能)の解釈運用については、被保険者がその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であっても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによって相当額の報酬を得ているような場合は、労務不能には該当しないものであるが、本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、通常なお労務不能に該当するものであること。
したがって、被保険者がその提供する労務に対する報酬を得ている場合に、そのことを理由に直ちに労務不能でない旨の認定をすることなく、労務内容、労務内容との関連におけるその報酬額等を十分検討のうえ労務不能に該当するかどうかの判断をされたいこと。
資格喪失後の継続給付に係る関係通知の廃止及び「健康保険法第98条第1項及び第99条第1項の規定の解釈運用」について
ただし、個別のケースで判断されるので、傷病手当金の支給が打ち切りされる可能性があることに注意が必要です。※半日勤務すれば受けられるなくなる可能性が高くなるとのこと。
なお、万が一の労災が起った場合に備えるなら、試し出勤であっても、明確に勤務であるとしたうえで、賃金を支払って保険の対象になるようにしておくのも一つの考え方です。
(その場合は、傷病手当金との兼ね合いを考えなくてはいけません。賃金より傷病手当金の方が多く受け取れるなら、試し出勤をするインセンティブが薄れます。また、有給休暇が切れた状態で試し出勤期間中に休むと、欠勤扱いになるという問題も出てきます)。
復職【後】の試し出勤
復職後に行う試し出勤は、復職が可能か判断する期間でもあります。
そのため、休職前の業務や、一般業務をこなせるかどうかを観なくてはならず、それは事業主の業務命令を伴うものとなります。
したがって、復職後の試し出勤には賃金の支払いが発生します。
NHK名古屋放送局事件でも、復帰の可否の判断を目的として行われた試し出勤について、当該作業が使用者の指揮命令に従って行われたものである以上、労働に該当し、賃金は発生すると判断しています。
試し出勤期間中の業務は「復職を見据えた」内容で
なお、復職可否の判断について、綜企画設計事件では、基本的には、休職前の業務を通常程度に行える状態をいう、といしています。
ただし、その状態まで戻っていなくても、
「労働者の能力、経験、地位、その精神的不調の回復の程度等に照らして、相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合を含む」
との見解を示しています。
逆にいえば、通常の状態か、そうでない場合でも、回復の見込みがあるか判断するためには、試し出勤期間中の作業が、あまりにも軽作業だとその判断がつかないということになります。
復職の可否を判断する場合の試し出勤であるなら、やはり、復職後を想定した業務を命じなくてはいけないということです。
実際、綜企画設計事件では、試し期間中に命じた軽作業では判断基準にならないとし、退職扱いを無効とする理由の一つに挙げています。
なお、綜企画設計事件では、復職可否の判断材料として、医学的見地から検討することが重要としています。
休職した従業員の復職を検討する際には、主治医はもちろん、産業医や指定医の意見を聞くことはマストといえるでしょう。
医師の意見を聞くことなく、事業主が単独で判断すると、復職を拒否する場合でも、復職を許可する場合でも、どちらでも大きなリスクを抱えることになります。
詳しくは、「復職可否の判断には医師の診断が必要な理由」をご覧ください。
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