業務上の必要性から転勤命令を出す場合でも、従業員によっては転勤を拒否することもあるかと思います。
その際、労使トラブルに発展しないよう、対策をしてておくべきです。
その対策とは、転勤拒否をする従業員へは「給与を支払わない」ことです。
なお、転勤命令が正当なものとするためには、転勤に従業員の同意は必要か?判例から読み解く転勤命令が認められるケースと認められないケースをご覧ください。
転勤を拒否した従業員への給与の支払い
転勤を拒否する従業員に対し、会社は給与を支払う必要はあるのでしょうか?
これついて参考となる判例として、テーエス運輸ほか事件があります
この事例では、転勤命令に従わなかった従業員が、転勤先ではなく、転勤前の勤務地に出勤したところ、会社側に就労を拒否され、欠勤扱いになりました。
その間の、賃金の支払いを求めたのですが、
「元の営業所において労務の提供をすることは債務の本旨に従った履行の提供とはいえない」
として、欠勤扱いにして無給としたのは、「違法とはいえない」と判断しました。
業務命令された就業場所以外で就業しても、それは労働契約に基づく労務を提供したことにはならないということです。
したがって、転勤先以外での就業を認めず、その期間中は給与を無給とするという対策は有効です。
業務命令以外の労務の提供は拒否する
ただし、従業員が、債務の本旨に従った労務の提供をしていない場合であっても、
「使用者が当該労務の受領を拒絶することなく、これを受領している場合には、使用者の指揮命令に服している時間として、賃金請求権が発生するものと解される」
とする判例もあります(JR西日本岡山支社事件)。
そのため、転勤先以外での就業を拒否する文言を入れておくことで、「使用者が当該労務の受領を拒絶することなく、これを受領している場合」という状況を作らないようにしておくことになります。
転勤拒否期間中、賃金を支払わないようにしておく理由
転勤を拒否する従業員に対しては、賃金を支払わないようにしておくことは大切です。
それは、従業員を話し合いのテーブルにつかせることが可能になるからです。
転勤を拒否する従業員に、業務命令に従わないからといって、普通解雇や懲戒解雇で対応すると、後々、労使トラブルへと発展する怖れが出てきます。
ご存じのように、日本では、従業員を解雇する場合、高いハードルがあります。
たとえば、パワハラをした大学教授を解雇した事例では、部下4名がパワハラを理由に退職し、内1人は精神疾患にり患したにも関わらず、裁判所の判断は、懲戒解雇は重すぎるとして無効にしています。
しかも、大学側に1,900万円の支払いと、この教授の継続雇用まで命じています。
その理由は、いきなりの解雇は重すぎで、処分するにしても、注意や勧告など処分の段階を踏まなくてはいけないというものでした。
部下4人を退職にまで追い込んだパワハラ教授でも、解雇の無効を命じられることがあるのです。
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このことを思えば、いくら業務命令を拒否する従業員とはいえ、なるべく事を荒立てずに問題解決するのがベストといえるでしょう。
したがって、転勤を拒否する従業員を、話し合いのテーブルに着けることが重要です。
そのときに、給与の支払いの有無がキーポイントになります。
もし、賃金が支払われないとなれば、従業員にも生活があります。
転勤を承諾するか、はたまた退職して転職先を探さなくてはいけないという選択を迫られることになり、嫌でも話し合いに応じなくてはいけなくなるでしょう。
一方で、給与が支払われるとなれば、話し合いに応じる必要がなくなります。
いわば、話し合いに応じないことが、インセンティブになり、転勤拒否をする期間を長期化させる動機になります。
したがって、話し合いで退職や転勤承諾の合意を得やすくするために、転勤拒否期間は賃金を支払わないとした方がいいといえます。
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