能力のない社員を、解雇したいと思う経営者はいらっしゃると思いますが、簡単に解雇できないのが現在の日本です。
たとえ社員の能力が低くいことを認定しても、解雇を回避する努力を求めるのが裁判所の考え方です。
この記事では、社員の能力が低いこと理由に解雇したにもかかわらず、無効とされた判例をご紹介します。
解雇するために、会社がしなくてはいけないことは何か?そのハードルはかなり高いことがわかります。
【事例1】セガ・エンタープライゼス事件
業務の効率が悪く、向上意欲もない、そのうえ積極性も協調性もないとして解雇された社員が訴えで、裁判所は解雇は無効としました。
解雇を無効とした理由
a. 従業員の能力について
- 平均に達してなかったが、だからといって、直ちに解雇が有効になるとはいえない。
b. 解雇事由について
- 解雇事由が「労働能率が劣り、向上の見込みがない」であるなら、能力が平均に達しないというだけでは不十分。
- 上記理由で解雇できるのであれば、労働能率が著しく劣り、しかも向上の見込みがないといえる状態でなければならい。
- 当該社員は、能力が平均に達してないというだけで、労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまではいえない。
- 当該社員が、やる気がない、意欲がない、自己中心的などとあるが、これを証明する証拠もない。
- 会社が雇用関係を維持するための努力をしたとも認められない。
以上の理由から解雇を無効としました。
【事例2】森下仁丹事件
「技能発達の見込みがないとき」という就業規則の解雇理由に該当するとして解雇された社員が、解雇権の濫用として無効を訴えました。
裁判所は、訴えを認め、解雇権の濫用としました。
解雇を無効とした理由
a. 社員への評価について
- 営業成績は良くなく、盗難事件や大量の伝票処理ミスなどもあったことから、会社が評価をCとしたことは不当な評価とまではいえない。
b. 解雇事由について
- 営業成績については、会社の業績自体が悪く、当該社員の成績不振を一概に非難はできない。
- 大量の伝票処理ミスも、当該社員1人で行わなくてはいけない状況で、しかもなれない業務であった。
- 就業規則では、人事評価の著しく悪い者は「降格」と定められていたことからいえば、解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえない。
- 盗難事件や伝票処理ミスを「業務上やむをえない」という解雇事由に該当するとしているが、それぞれ6年前の出来事で、始末書などの作成を命ぜられていて、いずれの事由も「業務上やむをえない」といえるほどでもない。
以上のことから、解雇権の濫用に当たり、解雇は無効としました。
【事例3】日本アイ・ビー・エム(解雇・第1)事件
業績不振を理由に解雇された社員が無効を訴え、裁判所は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」とし解雇を無効とした事例です。
解雇を無効とした理由
- 現在の担当業務に関して業績不振だとしても、社員の適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格もなかった。
- 業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性を、具体的に伝えてなかった
- その上で、さらなる業績改善の機会の手段を講じることもなかった。
このような必要な手順を省いた解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、解雇は無効とされました。
解雇までに必要な準備
セガ・エンタープライゼス事件は、裁判所の過剰な保護のようにも思えますが、判例を見ると労働者側に寄っているものが多いです。
したがって3つの判例からいえることは、
- 配置転換や業務内容の見直しなど、解雇を回避する努力を行う。
- このままいくと解雇せざるを得なくなるなど、業務や態度を改めるよう注意を促す。
- 注意や指導したときは記録して証拠を残しておく。
- 就業規則は見直して整備しておく。
など、解雇までの準備をしっかり整えておくことです。
間違っても、いきなり解雇にしたり、無理やり就業規則の解雇事由に当てはめるようなことはやめましょう。
訴えられれば、解雇を無効とされる可能性が高いでしょう。
ちなみに、問題社員への退職金で「支払いたくない」は通用するでしょうか?詳しくは下記記事をご覧ください↓
懲戒解雇にした社員への退職金はこちらの記事をご覧ください↓
コメント