手当の支給は求職者に絶好のアピールポイントになります。
これを有効活用すれば、採用・離職防止に役立てられます。
ただし、手当を支給するときは、同一賃金同一労働への配慮が必要になります。
住宅手当は同一労働同一賃金で認められる
同一労働同一賃金の判例では、「住宅手当」は認められるケースが多いそうです。
これは、名目が住居手当であればOKというわけではなく、転勤がある場合の正社員に配慮した形で支給する場合は、不合理な格差にならないとしたものです。
逆にいえば、転勤もないのに、正社員にのみ住居手当を支給することは、不合理な格差になる可能性が高いということになります。
好待遇を求職者へドンピシャでアピール
このような手当ては、社員の能力や業務内容とは違う基準で支払われる賃金のため、評価という意味では不公平な制度にも思えます。
しかし、人手不足が進む中で採用を着実に行っていくためには、有効な賃金制度になります。
なぜなら、あえて手当を付けることで、厚遇を求職者にアピールできるからです。
たとえば、
- 転勤OKの社員→住宅手当
- 18歳未満の子供がいる社員→子供手当
- 介護が必要な家族がいる→介護手当
このような手当てがあれば、状況に当てはまる求職者は、やはり魅力を感じるでしょう。
これは、新卒・中途採用だけでなく、既存社員の離職防止にもなります。
このように、採用・離職防止の観点から、手当を支給することは有効な手段といえます。
人手不足を解消したいなら、なおさらといえます。
求職者へのメッセージ
さらに、手当の支給は会社のメッセージを伝える効果もあります。
たとえば、
- 子供手当→子供を持つ社員を支援したい。
- 介護手当→、介護が必要な家族がいる人を支援したい。
- まじめな人を優遇したい→皆勤手当てを支給する。
などです。
手当を支給することで、社員への期待や支援体制などを打ち出すことができます。
能力給だけでは社員間の給与の調整は難しい
それに、手当を支給せず、能力だけ評価する場合、社員間の給与をどのように調整するかは難しい問題となります。
たとえば、東京に勤務する社員と地方に勤務する社員では、基本となる生活費が違います。
これを、一律に能力のみで給与を調整するのは、さすがに無理があるでしょう。
東京の物価の方が高いわけですから、それに合わせるなら、能力の高い社員だけ東京に配置することになってしまいます。
それなら、東京に勤務する社員20万円、地方に勤務する社員15万円というように、基本給で差をつけることもできますが、一旦基本給を上げてしまうと、東京から配置転換で地方勤務になった場合、基本給を下げなくてはいけないという問題が出てきます。
基本給を下げるとなると、「不利益変更」の怖れが出てきます。
基本給は、役職手当や時間外手当などの各種手当を除いた基礎となる賃金を指します。
社員にとってみれば、最低限受け取れる給与です。
これを下げられるとなると、生活基盤が揺らぎます。
そのため、会社が一方的に基本給を減らす不利益変更は認められていません。
地域間格差を基本給に組み込んでしまうと、このような問題を抱えてしまうことになります。
そんなとき、「地域手当」として支給すれば、簡単に調整できますし、給与に差があることを合理的に説明できます。
手当とは、社員個々の状況に対応する「調整弁」でもあるのです。
手当は社員に「安心感」をもたらす
さらにいえば、社員は必ずしも能力のみで評価されることを望んでいるわけではないでしょう。
能力評価で高い給与をもらうよりも、多少安くても安定を望む社員だっているはずです(配属される課によって、能力給がそぐわない課もあるでしょう)。
福利厚生的な意味もある手当は、安定給を優先する社員にとって、必要な制度といえます。
判例:地域手当、住宅手当の考え方
ちなみに、契約職員(有期契約)と無期職員(無期契約→正社員)の待遇が争われた同一労働同一賃金の裁判では(独立行政法人日本スポーツ振興センター事件 東京地裁)、地域手当、住居手当について次のように判断されています。
地域手当
地域手当を受け取れるのは、物価の高い地域に勤務する無期職員でした(一部の契約職員にも支給)。
裁判所は、この地域手当について、無期職員にだけ支給することを、「合理的」と認めました。
その理由は、無期職員は転勤の可能性があるのに対し、契約職員は一定地域にしか配属されていないことにありました。
- 転勤がある場合→配属された地域によって、物価の高低の影響を受けるため、これに地域手当を支給して、差額を補助するのは合理的。
- 転勤がない場合→地域による物価の高低の影響を受けないので、生活費に差額は生じず、補助する必要がない。
したがって、地域手当は不合理な待遇差ではない、となりました。
住居手当
住居手当も、無期職員には転勤があり、契約職員に転勤がないことがポイントでした。
転勤がある場合、住居に関する費用が多額になることを考慮して、それを補助する意味で支給された手当であり、これを支給することは不合理な格差ではないと判断されました。
給与の補助的な意味も認められた
この住宅手当について、実は転勤が予定されてない事務職員である契約職員にも支給されていました。
つまり、契約職員間でも、一方では住宅手当が支給され(事務職員)、一方では住宅手当が支給されていなかったのです。
これまでの判例で住宅手当が認められたのは、「転勤があること」が主な理由だったわけですが、転勤がない契約職員(事務職員)にも住宅手当が認められているのは矛盾するように思います。
この理由について東京地裁は、事務職員の給与の決まり方は、学歴や職務経験が反映されにくい構造になっており、同じような学歴や職歴を持つ契約職員(事務職員ではない)と比べると、どうしても給与が低くなってしまう。
住宅手当はその差を調整する意味があるとして、転勤がなくても支給することは合理的と判断したのです。
要は、転勤の有無でなく、基本給が低いから住宅手当が必要だったというわけです。
判断基準は「実態」
この判例からも分かるように、裁判所の判定は、「実態で判断している」ということです。
「〇〇手当」だから大丈夫や、転勤がないから不合理な格差にならない、といった名目や体裁では決まらないのです。
住宅手当を支給するときは気をつけましょう。
まとめ
手当は採用や定着率アップに効果的な働きをします。
ただし、同一労働同一賃金の関係上、間違った支給の仕方をすれば「不合理な格差」になる怖れがありますので、そこは気をつけましょう。
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