従業員の休職からの復職にあたって、主治医から診断書を提出してもらうのは、もはやマストです。
主治医の診断書を見ることなく、会社が復職の可否を判断するのは、許可するにしても、拒否するにしても大きなリスクを抱えることになります。
しかし、主治医からの診断書があるからといって、復職の可否を判断するのも危険です。
休職の基本ルールは「私傷病の従業員への休職のルール。解雇や休職中の手当はどうするべきか?」をご覧ください。
復職の判断基準は、「休職した従業員を復職させるときの3つの判断基準」をご覧ください。
復職可否の判断には「主治医の診断書の提出」を条件にすべき理由
休職の定義や休職期間の制限ついて、労働基準法では特に定められていません。
復職にあたっての主治医の診断書も、提出が法律で義務付けられているわけではなく、その会社の就業規則の定めによることが原則です。
就業規則の基本ルールは、「建設業の就業規則、作成の基本ルールを解説」をご覧ください。
とはいえ、休職中の従業員が復職するにあたっては、主治医の診断書に「復職可能」と診断されていることを、一つの条件とすべきです。
その理由として挙げられるのが、市川エフエム事件です。
これは、主治医の診断書や意見を聞かず、事業主の判断で従業員を復職や業務内容決めた結果、自死させることになり、安全配慮義務違反で3,000万円の賠償命令を下された事例です。
主治医の診断書なく復職の可否を判断してしまうと、拒否ももちろん、復帰を許可する場合も大きなリスクを抱えることになります。
したがって、復職の際は、主治医の診断書を提出することを、就業規則にて義務付けることはマストといえるでしょう。
主治医の診断は「絶対」ではない
主治医の診断書が提出されても、「診断書では復職可能と書いてあるけど、状態が良さそうに見えない」ということもあるでしょう。
厚生労働省発行の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、「主治医による診断は、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません」とされています。
このように、会社が知りたい従業員の状態と、主治医の診断が、必ずしも一致するわけではありません。
たとえば、コンチネンタル・オートモーティブ事件では、従業員が休職期間満了前に、解雇されたくないという思いから、主治医に「通常勤務は問題ないと書いてください」と頼み、主治医もそれを了承して記載してことが明るみになり、診断書の信用性が否定されました。
この事例をもって、主治医の診断書は信用すべきではないといいたいわけではありません。
しかし、トラブルを防ぐには、確認の意味を込めて、主治医に問合せや意見聴取をするなどの対策は必要といえるでしょう。
この点について、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件では、仮に主治医の診断に疑問があるときには、
「従業員の承諾を得て、主治医のみならず、事業主が指定した医師の診断も踏まえ、診断内容を吟味しなければならない」
としています。
従業員には医師の診断を受ける「義務」がある
復職には、症状が回復していることが要件になりますが、これを確認することは、今後の業務を円滑に進めていくうえで事業主にとって必要なことです。
そのため、事業主が従業員に対し、医師の診断受けるよう指示することができ、従業員もこれに応じる義務があるとされています(大建工業事件)。
したがって、就業規則に、主治医との面談や、診断書の提出など、必要な手続きがあるときは、従業員もこれに協力・同意することを記載しておくことは大切です。
この手続きに従業員が協力しない場合、解雇を有効とした判例(大建工業事件)があります。
大建工業事件では、うつによる休職した従業員が、その期間満了時に、健康状態把握のために協力を求めた会社に対し、医師の意見聴取を拒否するなど、まったく協力する態度がなく、その結果、復職を認められず解雇されました。
裁判所は、従業員が非協力的であることを理由に、解雇もやむ得ないとしています。
このように、従業員には、復職に際して会社に協力する義務があり、それに協力的でなく復職可否の判断ができない場合は、復職を許可しないことや、ケースによっては解雇も有効となります。
復職可否の判断に従業員の同意・協力が必要になる理由
なお、主治医に意見聴取する場合、個人情報保護の問題から、主治医は従業員本人に承諾を求めるのが通常となります。
したがって、復職可否の判断には、従業員の協力・同意がなければ進まないという帰結になり、それに非協力的であるなら、会社側は症状の治癒を判断することができず、解雇もやむなしというロジックが成り立ちます。
そのとき重要になるのが、就業規則です。
就業規則に、復職の要件や、復職できない場合の処遇など、根拠規定を定めておくことで、解雇処分を下す裏付けとなります。
主治医の診断に疑問がある場合
主治医は、必ずしも職場の業務への理解が深いわけではなく、復職可否の基準も、職場レベルの業務に耐えられるかどうかとイコールではないことは、先述した通りです。
そのため、主治医の診断に疑問が生じるケースもあるでしょう。
そんなときは、主治医以外の産業医や会社指定の医師から、復職可否の意見を聞くことも必要です。
産業医・指定医と休職者の面談・診察は、就業規則に根拠条項を定めておき、それに基づいて行います。
ただし、就業規則に根拠条項がない場合でも、産業医・指定医の面談・診察を受けさせることに合理的理由があるときは、事業主は休職者に対して命じることができます。
電電公社帯広局事件では、従業員に頚肩腕症候群総合精密検診の受診を命じる根拠として、就業規則にその規定はありませんでしたが、
「健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきである」
としています。
なお、主治医の診断書に疑問を持ちながらも、産業医や指定医からの意見聴取や診断を休職者に受けさせていない場合での復職拒否は、否認される怖れがありることに注意が必要です(第一興商事件)。
主治医の診断に疑問があるときは、やはり、産業医や指定医の診断を受けさせるべきといえるでしょう。
試し出勤制度を導入する場合の注意点は「「復職前」と「復職後」の試し出勤制度の違いを解説」をご覧ください。
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