正社員への本採用のために試用期間を設けることがありますが、あまりに長い試用期間は公序良俗に反して無効とされる怖れがあります。
現状の判例は、問題社員でも簡単に解雇できません。
そのことを思えば、正社員の採用に慎重になるのも理解できます。
しかしそれでも、正社員への登用の試用期間を6ヶ月以上の期間にするのはリスクが伴うといえるでしょう。
試用期間中の5つの解雇理由
試用期間中の解雇は、裁判所は通常の解雇より広い範囲の解雇を認めています。
試用期間中の解雇についての最高裁の判例はこちら→正社員への本採用までの試用期間中の解雇は有効か?
ただし、試用期間中の解雇が、通常の解雇より認められる範囲が広いといっても、そこには解雇が正当と認められるための正当な理由が必要とされています。
試用期間中に正社員への不採用が認められる正当な理由とは、次のようなケースが考えられます。
①虚偽・隠ぺいが発覚
本人の履歴に重大な隠ぺいや虚偽が発覚した場合です。
②大幅な能力不足
期待した能力が、予想以上に備わってない場合です。
③勤務態度が悪い
勤務態度が悪く、協調性もなく周りと軋轢を生む場合などです。
④遅刻・早退・欠勤が多い
正当な理由なく、遅刻・早退・欠勤を繰り返す場合です。
⑤健康不良
病気やメンタルの不調など、体調に大きな問題がある場合です。
このように、本人の能力、体調、性格などに「重大」な問題があり、業務に耐えられそうにない、職場の規律を乱す怖れがあるなど、本採用するの不適当と思われる正当な理由がある場合は、試用期間中の解雇も認められます。
とはいえ、試用期間を長くして、本採用への能力や資質を見極めることも、リスクを伴います。
試用期間の長さが公序良俗に反するとされた判例
たとえば、試用期間の長さを否定されたブラザー工業事件です。
この事件では、試用期間の後に、3回の社員登用試験にすべて不合格となり、就業規則の定めによって解雇された元従業員が、その解雇の無効を求めて争った結果、会社側に対して長期の試用期間の定めは「公序良俗に反する」として、無効とされました。
当時のブラザー工業では、
- 入社後6ヶ月~1年3か月→見習社員
- 見習社員から6ヶ月~1年→試用期間
- 試用期間→社員登用試験
- 試験合格→正社員
というプロセスが設けられていました(※新卒採用は除く)。
入社してから正社員になるまで、最短で1年はかかる計算です。
この試用期間の長さにつき、裁判所は
- 見習社員としての期間(6ヶ月~1年3か月)の間で、従業員としての適性を判断するのに十分
- 実際に、見習社員中に適正判断をしているのだから、さらに試用期間を設ける合理的な必要性はない
としました。
そして、
「試用期間中の労働者は不安定な位置にあるのだから、労働者の能力や資質を判断するのに合理的な期間を超えた長期の試用期間は公序良俗に反する」
としたのです。
試用期間でも正当な理由なく解雇できない
ちなみにこの裁判では、会社側が正社員への登用試験を落とした理由として
- 標準的な作業者より能力が低い
- 約1年間で欠勤が46日、早退・遅刻・中途外出が4日あった
ということを挙げています。
これついて裁判所は
- 見習社員から試用社員へ登用した時点で、その社員の能力の程度は理解していたはずで、それを理由に解雇することは許されない。
- 欠勤などのほとんどの理由は、病気といったやむを得ない事情からで、欠勤については無届の欠勤はなかった。
- 無断欠勤でない限り、いかに長期病気欠勤をしたとしても解雇はできない。
として、勤務状況や能力の高低で解雇はできないとしたのでした。
このように、試用期間を設けたことが逆に突っ込みどころとなり、また、試用期間といえど正当な理由なく解雇できないこともわかります。
理屈をつけて試用期間を長くすることは仇となりかねませし、試用期間でも解雇を簡単に考えていけません。
適切な試用期間は?
この判例からいえることは、試用期間が1年以上あるのは長すぎるということです。
長すぎれば、公序良俗に反するとして無効とされる可能性が高くなります。
試用期間は、妥当なところで6ヶ月以内に収めておきたいところです。
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