自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?

労使トラブル対策

社員に法律に反する不法行為を疑われる行動があり、それが理由で自宅待機を命じることがあります。

この間、社員の賃金は支払わなくてはいけないでしょうか?

それとも支払わなくて良いのでしょうか?

結論からいえば、「支払わなくてはいけない」です。

自宅謹慎中の賃金を支払わなくてはいけない理由

自宅待機は業務命令として命じることができ、就業規則に明記されなくても、会社の権限で行うことができます。

したがって、自宅待機を命じること自体問題はないのですが、自宅待機期間中の賃金は支払わなくてはいけません。

不法行為など、会社の就業規則に抵触することを行った社員に対し、なぜに賃金まで支払わなくてはいけないのか?

モヤモヤする気持ちはあると思いますが、その点、懲戒処分を受けた社員の自宅謹慎中の賃金不払いが争われた判例があります。

それは日通名古屋製鉄作業所事件で、暴力事件を起こした社員が、自宅謹慎中の賃金の支払いを求めて争われた裁判です。

この裁判では、社員側の訴えが認められ、自宅謹慎期間中の賃金を支払うよう、裁判所は命じました。

訴えられた会社側では、懲戒処分を受けた社員が自宅謹慎をした場合、その間は欠勤扱いとすることが慣行としてありました。

しかし裁判所の判断は次の通りでした。

a. 賃金の支払いについて

自宅謹慎は、懲戒処分的な性格を有するものでなく、職場の秩序を保つための一種の職務命令。

したがって、使用者は支払い義務を免れない。

b. 支払い義務を免れる場合とは

仮に、使用者が支払いを免れるためには、社員を就労させないことにつき、次の要件を満たす必要があるとしました。

  • 不正行為の再発や証拠隠滅の怖れといった緊急かつ合理的な理由があるとき
  • 出勤停止を命ぜられる懲戒規定上の根拠があるとき

このため、過去に慣例があった程度では、支払い義務を免れる要件を満たさないとしました。

以上のことから、裁判所は自宅謹慎中の賃金を支払わなかったことに対し、「単なる賃金の不払い」としたのでした。

自宅謹慎中の賃金は全額支払う

このように、たとえ自宅謹慎中であっても、欠勤扱いすることは許されず、その期間中の賃金は支払う義務があるとなります。

もし、自宅謹慎期間中は70%の賃金を支払うとしていたとしても、後々訴えられれば、残り30%分は支払わなくてはいけない可能性が高くなります。

自宅謹慎を命じる場合、後のトラブルを考えれば、その間の賃金は全額支払っておくべきです。

自宅謹慎が違反になる場合

なお、業務上必要がないのに、自宅謹慎を命じることは違反となります。

謹慎を命じる理由がなくなったのに、いつまでも自宅謹慎をさせておくことも同じです。

いわゆる、嫌がらせや退職勧告の一種ですが、損害賠償の対象もなりますので、このようなことはしないようにしましょう。

まとめ

自宅謹慎は懲戒処分ではなく業務命令です。

したがって、その期間は欠勤扱いにはならないというのが裁判所の考え方です。

そのため、自宅謹慎期間中にも賃金は発生します。

モヤっとするとは思いますが、トラブルを避けるには、賃金を全額支払った方が無難です。

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