会社に損害を与えた問題社員に、「退職金は支払いたくない」。
こんなお気持ちになるのは、社長であるならもっともだと思います。
しかし、そうは問屋が卸さないのが、裁判所の考え方です。
退職金制度を作ったら、余ほどのケースでない限り、退職金は3割は支払わなければいけないと覚悟しておく必要があります。
3つの解雇
社員の解雇には、次の3種類があります。
- 普通解雇
- 整理解雇
- 懲戒解雇
1.普通解雇
普通解雇とは、従業員の能力不足、職務怠慢、病気などによる能力の低下、規律違反などを理由として行われる解雇をいいます。
2.整理解雇
整理解雇とは、経営不振や事業撤退を理由に行う、人員削減を目的とした解雇です。
誤解されている人も多いかもしれませんが、業績悪化を理由とする解雇でも、簡単に認められるわけではありませんので注意しましょう。
3.懲戒解雇
懲戒解雇とは、企業秩序を著しく乱す違反行為・背信行為を行った従業員への処分です。
懲戒解雇は、普通解雇に比べて重い処分になりますが、裁判で争われた場合は、「不当解雇」と判断される怖れがあります。
おいそれとできる処分ではありません。
もし、懲戒解雇をするときは、慎重な判断が必要になります。
懲戒解雇の退職金不支給はハードルが高い
従業員が就業規則に定めた事項に該当する懲戒解雇になった場合、退職金を減額か不支給にすることは認められています。
※ただし、退職金を不支給・減額する規定が必要となります。
そのため、会社に損害を与えた社員を解雇する場合、一番重い処分の懲戒解雇するのが、気分的にはスッキリするでしょう。
しかし、懲戒解雇の場合、裁判所の見方は一段と厳しくなるのは先述した通りです。
解雇を行う場合は、普通解雇でも簡単ではなく、さらに上の懲戒解雇となると、余ほどの理由がなければ認められません。
これは、退職金についても同じことがいえ、たとえ懲戒解雇で社員をクビにしたとしても、退職金を不支給にすることは、特殊な事情が認められることが条件となります。
懲戒解雇を否認されれば、それに伴って不支給とされた退職金は、不支給の理由がなくなってしまいます。
退職金は賃金
退職金には、賃金の後払いの性格※がありますし、社員が退職した後の生活保障の一面もあります。
※就業規則や労働協約により、支払い基準が定められている場合
そのため、これを大幅に減額することは、退職する従業員にとって、生活を揺るがす大きな出来事になります。
このような特徴を持つお金の場合、裁判所の見方は労働者側に寄ります※。
※退職金は「賃金支払請求権に関する労働基準法上の保護と同様の保護を受けるものということができる」という考え方から。
懲戒解雇でも退職金の不支給は認められる
その一方で、退職金には長期勤続に報いる功労報償の面もあります。
その信頼を裏切る行為があった場合、退職金の減額や不支給をすることは問題とされていません。
したがって、就業規則に定められていることを破るような行いがあった従業員に対して、退職金を減額・不支給にすることは認められています。
たとえば、アイビ・プロテック事件では、懲戒解雇された社員が、不支給となった退職金を支払うように求めましたが、認められませんでした。
懲戒解雇でも退職金の支給を認めた事例
その一方で、懲戒解雇に該当する場合であったとしても、退職金を支払うように命じた判例もあります。
たとえば、
- 退職にあたって承認を得なかったこと
- 退職願いの提出も怠り円満退職でなかったこと
を理由に、従業員は懲戒解雇にされ、退職金を受取れなかった日本高圧瓦斯工業事件では、従業員側の訴えを認め、会社に退職金を支払うように命じました。
その理由として、
- 退職の手続きを怠ったことに対して、懲戒解雇は処分が重すぎる。
- たとえ退職の手続き怠ったとしても、永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものといえない。
ことをを挙げています。
つまり、いくら会社が懲戒解雇に該当すると訴えても、裁判所では、そのまま額面通りに受け取ってくれないのです。
そして、懲戒解雇に該当しない以上、退職金を不支給にすることは、その根拠を失うといえます。
懲戒解雇でも退職金は3割支給
さらに、それ以外の懲戒解雇で退職金が不支給になったケースでも、
- その行為の性格・内容
- 懲戒解雇に至った経緯
- 労働者の過去の勤務態度等
の個別の諸事情を考慮して、一定割合減額して支給するように命じた判例があります。
それら判例では、退職金を7割減額して、3割支給することを認めたものが多いようです。
まとめ
以上のことからもわかるように、懲戒解雇でも退職金を不支給にすることは難しく、3割程度は支払うことを想定しておかなくてはいけないということです。
問題社員を懲戒解雇にすれば、退職金は0円で気分はスッキリしますが、それがそのまま通るとは限らないのです。
退職金制度を作ったら、問題社員でも最低3割は支払う覚悟は必要です。
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