この記事でご紹介するのは、「給与」で申告した所得を「事業所得」と否認された事例です。
しかも、いったん退職した会社と業務委託契約を交わして、そこから得た所得を事業所得とされた事例ですから、従業員との業務委託契約が、必ずしも否認されるわけではないということです。
もちろん、給与か外注費かの基準は消費税1-1-1を読めばわかるのですが、具体的な事例で見ることで、より理解が深まるでしょう。
業務委託契約先から受け取った収入は、給与になるか?事業所得になるか?
少しややこしいですが、この事例の背景は次の通りです。
国税不服審判所に訴えた請求人のA(以下、A)は、平成13年2月にF社を退職しました。
その同じ月にF社と業務委託契約を交わし、F社の業務に従事して(G社のH製鉄所内)所得を得ていました。
本来は事業所得にすべきこの収入を、Aは「給与所得」で申告し、それを否認されたというわけです。
・業務委託契約で受取った「事業所得」を「給与」と否認された判例
良くあるのは、業務委託契約で「事業所得」として受取った収入を「給与」と否認されるパターンです。
その逆バージョンともいえるこの判例は、今後社員との雇用契約を業務委託契約に切り替える場合には参考になるはずです。
事業所得と給与所得の違いを理解する
事業所得とは、
自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得
のことをいいます。
それに対し給与所得とは
雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付
とされています。
そして事業所得か給与所得かを判定するには
- 他の者を手配し、他の者が代替して業務を遂行することが認められているかどうか
- 引渡しが終わっていない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、報酬の支払者に権利として報酬の請求ができないかどうか
- 材料又は用具等を報酬の支払者から供与されていないかどうか
- 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受けないかどう
- 報酬の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受けないかどうか
などの項目を総合勘案して判断するとされています。
まさに、消費税基本通達1-1-1で示されている基準の通りです。
国税不服審判所の判断
1.業務の代替性について
事業所得と認められるには、請負者が他の人や会社に替わって業務を遂行できることが認められていないといけません。
AとF社と交わした業務委託契約書には、
- Aが代わり用意した別の作業員が適当でないと認められるとき
- 作業員の人数の増減を希望するとき
は、その理由をAが明示してF社に変更を求めることができる定められていました。
これは、Aの責任において第三者を手配できることであり、「Aに代替性が認められている」と判断されました。
2.材料や用具の準備について
業務委託契約書には、機械、器具、工事材料及び設備等は、原則として、すべてAが調達するとされていましたが、協議の上必要に応じて支給または貸与することができると定められていました。
ただ実際には、接着剤などの材料や、カッター、定規、サンダー、プライヤー、刷毛及び投光機などの用具等については、すべてF社から無償で支給されるか、貸与を受けていることがわかりました。
この点にF社は次のように答述しました。
- Aが作業で使用する材料は他に比べて少量であり、Aが仕入れるより、F社で一括で仕入れた方が安くなり、結果として全体のランニングコストを抑えられる。
- 「用具については、Aが作業する工程に特殊な器具や用具は必要なく、Aが持っている一般的な用具で足りるため、わざわざ準備させる必要性もないことから、F社の用具を無償で貸していた。
これを受けて国税不服審判所は、
「支給または貸与することとした理由は合理的」
とし、「請負契約の締結と矛盾するものではない」としました。
3.不可抗力による損害の取決めに関する事項について
事業所得とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ」とあるように、リスクを負って事業を遂行しているかがとても重要になります。
その点につき、AとF社が交わした業務委託契約書には
- 天災その他不可抗力によって損害が生じたときは、原則、Aの負担によって賠償すること
とありました。
この点につき国税不服審は、
「不可抗力により損害が生じた場合に、損害が生じた目的物等に係る報酬をF社に請求することができない」
という意味であり、業務委託契約が成立している要素と判定しました。
上記は消費税基本通達1-1-1の判断となる
「引渡しが終わっていない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、報酬の支払者に権利として報酬の請求ができないかどうか」
にあたり、この基準に沿っていえば、事業所得の条件である「自己の計算と危険において」に符合します。
4.Aの業務について
Aの業務は、コンベヤーベルト加工およびその他ゴム加工(以下、ゴムライニング作業)でした。
F社内では、このゴムライニング作業をAに技術指導できる従業員はおらず、Aは仕様書や補修指示書を基に、A自身の判断で作業方法や作業の進行を進めていました。
このような状況から、「AはF社の指揮監督下にはない」と判断されました。
5.作業時間の管理
AとF社の業務委託契約では、
- 報酬は日当計算
- 作業時間は始業時間を午前8時
- 終業時間を午後4時30分
- 休憩時間を60分
とされていました。
これが事実なら「雇用契約」を成立させる大きな要素となります。
それに対しF社の回答は次の通りでした。
日当計算にしたことについて
「ゴムライニングの製品は何十種類で、数も多く、個別の完成製品で報酬を決めることが困難であったので、やむなく日当計算にしていました」
作業時間を決めた理由について
「基本的な契約であり、日当計算する以上、一応の時間を決める必要があるからです。当社は品質を保持し納期を守ってもらえればいいので、拘束しているつもりはありません」
終業時間を過ぎてしまった場合について
「手当のようなものは付きません。従業員は、1時間単位で付けます」
以上の回答から国税不服審は
- 日当にしなくてはいけないやむ得ない事情があった
- 日当で計算する以上、作業時間を決めなくてはいけなかった
- 作業時間はF社の就業規則に合わせ、AとF社でお互いに合意したもの
とし、
「始業時間及び終業時間が定められていることをもって、請求人が時間的な拘束を受けたものとは認められない」
と判断しました。
その他の事実関係として、
- 出勤簿やタイムカードはなかった。
- 始業時間や就業時間を30分早めたり遅くすることもAの判断でできた。
- 残業した30分について、手当が出ることはなかった。
と、Aが答述しています。
F社の答述による事実関係とAの答述から、
「F社がAを時間管理する体制を採っておらず、A自身の判断で作業内容と時間を決め、業務を遂行していた」
とあらためて判定されました。
6.作業日誌について
Aは日々の作業終了後、作業内容を記した作業日誌をF社に提出していました。
Aに作業日誌を提出させていることについてF社は、
- Aに賃金を支払う際の明細書に作業日数が必要になるため
- 作業日誌で従業員のような勤務評価はしない
と、答述していて、以上のことから国税不服審は、「単に便宜上作業日誌を使っているに過ぎない」として、作業日誌がF社がAを管理する書類と認めませんでした。
総合判断
AとF社との間では、平成13年2月から請負契約が締結され、Aは「自己の計算と危険において独立して業務を遂行していた」とされ、F社からの収入は事業所得に該当する、とされました。
給与とされないためには、原則、消費税基本通達1-1-1を守ること
以上のように、Aの「F社と業務委託契約は成立しておらず、受取ったお金は給与」という主張は退けられ、F社から受取ったお金は「事業所得」とされました。
この事例からわかることは、最初に述べた通り、従業員との雇用契約をいったん終了させ、そこから業務委託契約を交わすような場合でも、事業所得の要件を満たせば、「外注費」として認められるということです。
もちろん、税務調査では「給与」と疑われて調べられるかもしれませんが、絶対に外注費と認められないわけでもないのです。
仮に、「表面上」は雇用契約に見える場合でも、この事例のように、そこに合理的な理由があれば(そうせざるを得なかった理由)、それは反論として十分成り立ちます。
それでも、税務当局から疑われないように、消費税基本通達1-1-1をよく読んで、請負者ときっちり線引きしておく必要があります。
まとめ
通常は「業務委託契約」を「給与」と否認されるパターンが多いのですが、今回ご紹介した事例は、その逆パターンでした。
どんなことをすれば給与になるか、反面教師として参考になるはずです。
業務委託契約を成立させるには、基本、委託者側が請負側を管理してはいけません。
たとえば作業時間を決める場合でも、事例のように形式上は取り決めがあっても、実態として管理してはいけないのです。
失敗を参考にして、否認されない業務委託契約を行いましょう。
「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓
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