休職期間が満了した従業員に対して、復職の判断をする場合、どのような基準で判定するかは非常に重要なポイントになります。
休職期間には、治療に専念させるための措置以外にも、解雇猶予期間という意味合いもあり、従業員の病状やケガが回復していなければ、解雇や退職も視野に入ります。
それだけに、事業主が判断を誤ると、労使トラブルへ発展する怖れが出てきます。
この復職の判断について、どのように考えれば良いのでしょう?
休職から復職への3つの判断基準
復職の可否については、個々人の状況によって総合判断しなければいけませんが、裁判所が判定する場合の基準として下記の3つが示されています。
- 以前の通常の業務が行える状態まで回復している場合
- 症状が①の状態まで回復していなくても、最初は軽作業に就かせ、しばらくしてから以前の通常の業務を行わせることができる状態
- 労働者が職種や業務内容を特定せずに採用された場合で、休職前の業務に復帰するまでに症状が十分に回復してなくても、配置転換すればできる業務があり、なおかつ、労働者がその提供を申し出ている場合
この3つの判断基準に該当する場合、「債務の本旨に従った労務の提供がある」とされ、事業主は復職を認めなければいけないとされています。
債務の本旨については、「私傷病の従業員への休職のルール。解雇や休職中の手当はどうするべきか?」をご覧ください。
上記の判断基準をみても分かる通り、休職している従業員の状態が、以前の通常の業務を行えない場合でも、個々人の状況に配慮して復職の可能性を探らなくてはいけないということです。
なお、以前の通常の業務とは、休職前の従業員が行っていた業務ではなく、その会社の従業員が本来行うべき通常の業務を指します(独立行政法人農林漁業信用基金事)。
症状が回復してない場合でも配慮が必要
症状が十分に回復してないとしても、それだけを理由に解雇や退職を言い渡すと、不当解雇として訴えられる可能性が出てきます。
したがって、①のみの基準で復職の可否を判断することは危険です。
必ず、②と③についても検討しなくてはいけないといえるでしょう。
実際、綜企画設計事件では、復職可否の判断として、以前の通常の業務を行えるかどうかのみならず、相当期間内に通常業務が行える程度に回復する見込みかも検討すべきとしています。
復職可否を「試し出勤制度」で判断する場合は、「「復職前」と「復職後」の試し出勤制度の違いを解説」をご覧ください。
ただし、「以前の通常の業務が行える状態まで回復している場合」とは、休職前と同等の業務が行える状態まで回復することまでは求められていません(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件 ※この場合はうつ病による休職)。
職種を「限定して雇用した従業員」と「限定して雇用してない従業員」の違い
ちなみに、③は「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約をした場合」の判断基準であることも注意しましょう。
職種を限定して雇用契約を交わした従業員に対しては、他の業務での復職を認める義務はないとされています。
実際、日本レストランエンタプライズ事件では、配送業務に限定されて雇用された従業員に対して、職種を変更して雇用を継続する義務はないとの判断が示されています。
休職からの回復期間はどのくらいに設定すべきか?
②の判断基準では、通常の業務をこなせる状態に回復するまで、一定期間、業務負担を減らして軽作業に就いてもらうことになるのですが、その期間とはどれくらいの日数を設定すればいいのでしょう?
ここで参考になる判例が、北産機工事件です。
この判例で示された、通常業務に戻るまでの軽作業期間は、2~3か月です。
北産機工事件では、帰宅中に交通事故を起こして脳挫傷を負った従業員が、6ヶ月の休職期間経過後に、会社から復職できる状態ではないとして退職させられ、その無効を求めて争われました。
この事例では、休職前の状態に、直ちに100%稼働できなくても、
「職務に従事しながら、二、三か月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能であった」
と、裁判所は判断し、退職処分を無効としています。
したがって、復職した場合で、業務の軽減が必要と思われるときは、3カ月程度の期間をみておくべきでしょう。
休職からいきなりの残業は問題ありの可能性
なお、復職にあたり、たとえ症状が回復していると思えても、いきなり残業をさせるのも問題がありといえるでしょう。
たとえばキャノンソフト情報システム事件では、残業が多いことを、復職を拒否する理由に挙げた企業に対して、
「労働者は当然に残業の義務を負うものではなく、雇用者は雇用契約に基づく安全配慮義務として、労働時間についての適切な労務管理が求められるところ、残業に耐えないことをもって債務の本旨に従った労務の提供がないということはできない」
としています。
つまり、
「事業主には安全配慮義務があり、それに則って労務管理を適切に行わなくてならず、従業員の残業を当然としてはいけない」
としています。
このことから推察するに、休職明けの従業員に体の負担となる残業をさせることは、安全管理上の問題を含んでいるといえるでしょう。
そのため、休職から復帰した従業員には、症状が完全に回復してないときは、業務量を減らすことはもちろん、一定期間は残業もさせないということも、考慮すべきといえます。
休職期間を経て復職できない場合の解雇は有効
なお、休職期間が過ぎて復職できないことを理由とする解雇は、有効とされています。
ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件では、休職期間満了の3週間前に、会社は復職の打診をしたにも係かかわらず、従業員はそれに対する相談や申入れをせず放置したことで自然退職となったことは、権利の濫用に当たらないとしています。
以上のように、休職期間を経ても症状が回復せず、復職しないケースでは、解雇や退職扱いも有効になります(※ただし、上記の事例のように、会社側が必要な手続きを取った場合の話です)。
復職可否の判断に医師の診断はマスト
なお、復職可否の判断に、主治医の診断書、場合によっては産業医や事業主指定の医師の診断を受けさせることはマストになります。
医師の診断書なく復職を拒否することも労使トラブルに発展する怖れがあるのはもちろん、復職を許可する場合でも、大きなリスクを抱えることになるからです。
たとえば、市川エフエム事件では、主治医の診断書に基づかず、事業主の独断で復、うつ病を患っていた従業員の復職を許可し、その結果、自死を招いてしまいました。
裁判所は復職の手続きを問題視し、3,000万円の賠償命令をだしました。
このようなリスクがある以上、医師の診断を経ることなく、復職の許可を出すことも大きなリスクといえるでしょう。
詳しくは、「復職可否の判断には医師の診断が必要な理由」をご覧ください。
コメント