業務命令を聞かない社員に対してどう対応すれば良いでしょうか?
基本的に、会社が社員に対して行える業務命令は、広い範囲を認められていますが、違法・無効となる業務命令もあります。
業務命令できる範囲を知っておかないと、後で労使間のトラブルに発展することもあります。
業務命令を行える根拠は「就業規則」に定めた内容にある
社員から業務命令を拒否された場合、まず確認すべきは就業規則です。
就業規則に、会社が業務命令を行える根拠となる規定があるかどうか確認を行います。
これについて最高裁の判断では、下記となっています。
労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきである
電電公社帯広局事件
※ただし、その定めが「合理的であるとき」という前提があります。
これは、頚肩腕症候群総合精密検診の受診の業務命令に従わなかったために解雇され社員が、その無効を求めて起こした裁判です。
その結果は、上記の通り、会社は社員に対して業務命令を行うことができ、それを拒否した社員が、就業規則に定める懲戒処分にされたことは適法としました。
以上のように、業務命令を行える根拠が就業規則に定めてあれば、社員に対して業務命令を命じることができます。
就業規則にない場合も業務命令はできる
では、就業規則に業務命令を行える根拠がなければ、社員に業務を命じることはできないのでしょうか?
答えは否。
できます。
たとえば、国鉄鹿児島自動車営業所事件の最高裁の判決では、
労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるもの
国鉄鹿児島自動車営業所事件
である場合は、「労働契約上の義務の範囲に含まれる」としています。
この事件は、管理職に準ずる地位にある職員に対し、組合員バッジのとり外しを命じたが従わなかったため、点呼執行業務から外して、営業所内の火山灰を除去することを命じところ、それが業務命令違反に当たるとし、損害賠償を求められたものです。
ところが、上記判断の通り、職員の主張は認めらず、「業務命令は違法とはいえない」とされました。
労働者は、労働契約上、使用者の指揮命令を受けて労働を提供する義務を負っていて、使用者の指揮命令権は、担当する労務だけに留まらず、業務遂行に関わる広い範囲に及ぶとされています。
したがって、就業規則に業務命令を行える根拠がなくても、基本的には、会社は社員に対して業務命令を行うことができ、社員はそれに従う義務があるというわけです。
業務命令が違法・無効となるケース
ただし、業務命令の根拠は、就業規則や労働協約の定めにあるわけですから、労使間で合意した範囲を超えて業務命令することはできませんし、従業員も従う義務を負いません。
そしてここからが重要ですが、たとえ労使間の合意の範囲内の業務命令でも
- 嫌がらせ
- みせしめ
といったものに関しては、権利の乱用とされ違法・無効となります。
みせしめ・嫌がらせとみなされる例
どのようなケースが、嫌がらせやみせしめとみなされるかというと、次のような事例があります。
就業規則違反をした職員に対し
- 就業規則を全文書き写すように命じ、その感想文と、書き上げた文章の読み上げを、朝の体操終了後から午後4:30まで行うように命じた。
- その間、ほとんど休憩を与えなかった
というものがあります。
これは、明らかに嫌がらせ・みせしめの意図があると思われます。JR東日本(本荘保線区)事件
それ以外にも、ミスをいくつかした社員に対して、日勤教育を命じた事例として
- 日勤教育自体は違法ではないが
- 本件で行われた日勤教育には、天井清掃や除草作業といった教育とは関係の薄い作業も含まれている
- 日勤教育は73日間の長期間に行われ、その間、手当が支給されてない(10万円)
- 労働者を長期間、賃金を支給しない不安定な位置におくもので、必要かつ相当とはいえない
とし、業務命令を違法としたものもあります。JR西日本(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件
このように、嫌がらせやみせしめを意図した業務命令は、違法・無効とされますので、社員が拒否したからといって、感情に任せて無茶な業務命令をすると、後でしっぺ返しを食らう可能性があります。
まとめ
業務命令は、労使間の合意の範囲であれば、広く認められるのが基本です。
しかし、何でも命じて良いわけでなく、いじめや仕返しと思われるものは、違法・無効となります。
業務命令の範囲をきちんと理解して、社員が従わないときは、きちんと説明できるようにしておきましょう。
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