業務委託契約の塾講師・家庭教師への「外注費」を「給与」と否認された事例

業務委託契約

この記事でご紹介するのは、派遣型の塾講師・家庭教師との業務委託契約を否認された事例です。

否認された会社(以下、紹介会社)の事業スタイルは、塾講師や家庭教師と業務委託契約を交わして自社のデータベースに登録し、要請のあった公的教育機関や民間教育機関に塾講師を派遣したり、一般家庭の家庭教師を派遣したりするビジネスモデルです。

その業務委託契約を交わした塾講師・家庭教師に支払った「外注費」が、「給与」と否認されました。

外注費を否認されたポイント

否認されたポイントは

  • 報酬は労務に従事した「時間」で決められていた。
  • 塾講師・家庭教師は、紹介会社が用意したテキストを借りていた。
  • 交通費を紹介会社から支給されていた。
  • 紹介会社から研修を受けていた。
  • 塾講師・家庭教師は、紹介会社へ業務の報告や講師を交代する際の連絡義務などがあった。
  • 紹介会社が用意したマニュアルに沿って、指導するように義務付けられてい。

などにあり、この事実を持って

  • 自己の計算と危険において営まれていない。
  • 紹介会社の指揮監督下にあった

すなわち、「給与」としました。

では、詳しい内容を見ていきましょう。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

塾講師・家庭教師に支払った「外注費」が「給与」にされた理由

関連法令

事業所得

所得税法27条1項は,事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨を定めている。

所得税法27条

給与所得

所得税法28条1項は,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」又は「所得税法28条1項に規定する給与等」ともいう。)に係る所得をいう旨を定めている。

所得税法28条

事実関係

紹介会社と塾講師・家庭教師との事実関係は以下の通りでした。※特に関係ある事実だけ抜粋。

塾講師との事実関係
  • 紹介会社に登録後、塾講師は派遣会社に事務所に赴いて、講師としての心構えや授業のコツなどをレクチャーする「紹介研修」を受けていた。
  • ホームページやパンフレットには、塾講師に対し、研修・技術・社会人マナー、登録後のサポートなどの指導を行っていると記載されていた。
  • 紹介会社は、教育機関に対し、研修・面接により選抜された塾講師を紹介しているとHPやパンフレットに記載していた。
  • 塾講師が代講を依頼する場合は、紹介会社に1か月前までに申告することとされていた。
  • 業務委託料は、指導時間確認表に基づいて計算されていた。
  • 塾講師の交通費は、派遣先の教育機関が負担していた。
  • 業務委託期間中に教育機関は塾講師を直接雇用してはならないと定められていた(違反した場合は損害賠償を請求できるとされていた)。
  • 紹介会社は、塾講師の指導やそれに関する行為について、相談をうけないといけないとされていた。
  • 塾講師は、紹介会社への委託業務の遂行状況の報告義務が定められていた。
  • 塾講師は、紹介会社の承諾なしに、一方的に契約期間満了前に、契約解除してはないらないと定められていた。
  • 、教育機関から交代の申出を受けた場合、紹介会社は塾講師との業務委託契約を解除できると定められていた。
  • 塾講師は、契約解除の場合、紹介会社に借りていたものを、速やかに返還しなくてはいけないと定められていた。
  • 紹介会社作成の「授業マニュアル」には、授業の流れ、授業の組立てのバランス、板書・説明・演習の方法や注意点等が記載されていた。
家庭教師との事実関係
  • 家庭教師としての基本姿勢の研修を受けたうえで登録されていた。
  • 家庭教師は登録後に、紹介会社の事務所に赴き、「紹介研修」を受けていた。
  • 紹介研修の資料には、派遣先から指導経歴を聞かれた場合に、「指導経験はありませんが、センターできちんと研修を受けましたのでご安心ください」「センターと相談しながら進めていきます」とはっきり答えるようにとの記載がされていた。
  • ホームページやパンフレットには、派遣家庭教師に研修・管理を行い、教育のプロに育てていると記載されていた。
  • ホームページやパンフレットには、指導を始める前は必ず研修を行っており、初めて生徒を担当する者には、とくに丁寧に行うと記載されていた。
  • 学習状況や指導状況を把握するため、家庭教師に指導報告書の提出を義務付けていた。
  • 家庭教師の交通費は、派遣先の家庭(以下、会員)が負担することになっていた。
  • 業務委託料金は、指導時間によって決められていた。
  • 紹介会社は、家庭教師の指導及びそれに付随する行為についての相談を受けなければならないと定められていた。
  • 家庭教師は、業務委託契約で定められた指導回数を完全に遂行せねばならず、会員から指導回数の変更があった場合は、紹介会社に報告をして、許可を得なければならないと定められていた。
  • やむを得ない事情以外、業務委託契約期間内は辞任できないと定められていた。
  • 講師研修マニュアルおよび紹介研修時のマニュアルに沿って指導を遂行しなければならないと定められていた。
  • 契約期間中、または指導終了後3年以内は、会員と継続追加、または兄弟間の新規発注を直接契約してはならないと定められていた。
  • 会員から、契約期間中に、解除要請や交代要請があったときは、業務委託契約を解除すると定められていた。
  • 家庭教師から、会員への指導報告書の提出が2か月遅れた場合は、指導料(業務委託費)を10%差し引くと定められていた。

裁判所の判断

裁判所は、塾講師・家庭教師に紹介会社が支払ったお金が、給与になるか次のように判断しました。

独立性があったかどうかについて
  • 講義時間や指導時間が報酬の計算の基礎となっていた。
  • 個別指導の優劣、具体的な成果の程度、紹介会社が顧客と結ぶメニューなどによって、塾講師・家庭教師が受取る報酬が変動するようになっていなかった。
  • 塾講師が業務の遂行上必要なものは貸与されていた。
  • 塾講師・家庭教師への交通費は、教育機関・会員が負担していた(紹介会社は、教育機関・会員から交通費を受け取り、それを業務委託料金に上乗せして、塾講師・家庭教師に支払っていた)。
  • 家庭教師は業務遂行に必要なテキストの引渡しも受けることとされていた。
  • 紹介会社と塾講師・家庭教師との業務委託契約を見ても、費用の負担を義務付ける定めはされてない。
判断

以上によれば、家庭教師・塾講師による労務の提供等は、自己の計算と危険によるものとはいい難く、非独立的なものと評価するのが相当である。

紹介会社の資金監督下にあったかについて
  • ホームページやパンフレットにあるように、塾講師・家庭教師に研修や指導を行っていた(※紹介会社は、「HPやパンフレットの記載は、事実でなく、実は虚偽で記載していた」と反論していましたたが、実際は、やはり研修や指導をしていたことが調査で明らかになりました)。
  • 塾講師・家庭教師に、業務の遂行状況の報告を義務付けていた。
  • 研修内容が漏れることを禁止していた。
  • 紹介会社は、授業マニュアルや講師研修資料を作成していた。
  • マニュアルや研修資料には、授業や個人指導の方法やその注意点などが具体的かつ詳細に記載されていた。
  • 研修や指導を受けたかのアンケートに、塾講師や家庭教師が「イエス」を回答している(全員ではないが一部が)者がおり、研修や指導を義務付けていたことは明らか。
  • 塾講師の代講の依頼も、事前に紹介会社へ報告するように義務付けていた。
  • 教育機関・会員から申出があれば、塾講師・家庭教師と契約解除できるようになっていた。
  • 契約に定めのない事項につき塾講師・家庭教師と紹介会社の協議が整わない場合は、紹介会社の指示に従うべきとされていた。
  • 家庭教師に対し、業務遂行期間中は、紹介会社の講師であることを示す講師登録証の携帯および訪問先における提示を求めていた。
  • 家庭教師に対し、紹介会社のマニュアルに沿って指導を遂行することを義務付ける定めが置かれていた。
  • 家庭教師に対し、契約期間中または契約終了後3年以内の会員との直接契約を禁じていた。
  • 家庭教師が無断で行う業務内容の変更や辞任を禁じていた。
  • 家庭教師においてやむをえず指導の交代等が必要となった場合には、紹介会社に対して連絡をすることを義務付けていた。
判断

塾講師・家庭教師は、紹介会社が教育機関や会員との間契約において定めた、業務時間や業務場所に従って、業務を提供する義務を負っていた。

さらに塾講師・家庭教師は、契約において紹介会社に、業務遂行の報告を義務付けられていた。

これは、紹介会社から、時間的・空間的拘束を受けていたというべきである。

総合判断

以上の事情を総合すれば、紹介会社が塾講師・家庭教師に支払った費用は、雇用契約に類する原因に基づき提供された非独立な労務の対価として給付されたものとして、それに係る所得は、所得税法28条1項所定の給与所得に当たるものというべきである。

こうして、紹介会社が支払った「外注費」は、「給与」と否認されました。

「事業所得」と「給与所得」の違いをより深く理解するために

ちなみにこの裁判では、最高裁判決による「事業所得」と「給与所得」の定義について、あらためて取り上げられていました。

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

最高裁 昭和56年4月24日判決

細かい話になりますが、「事業所得」か「給与所得」かの定義をしっかり理解することが、否認リスクを避けることになりますので、ここであらためて解説させていただきます。

最高裁の定義は「判断の一応の基準」

給与所得は

「個人の非独立的ないし従属的な勤労(人的役務提供)の対価としての性質をもった所得」

と定義されると‟一応”されています。

その解釈は一般的な雇用関係より広く、たとえば、役員が会社から受取る報酬、国会議員の歳費なども、給与所得の範囲に含まれます。

これに対し、事業所得は「自己の計算と危険において」という、独立性が大きな判定要素となります。

しかしこの「独立性」と「非独立性」の間にも、あいまいな部分があって、はっきり色分けすることがむずかしいこともあります。

そこで上記の最高裁判決では、「判断の一応の基準」として、

事業所得が

「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」

給与所得が

「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう」

と定義付けたのです。

そして給与所得については、とりわけ

「給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない」

としました。

ポイントは、「判断の一応の基準」としただけで、「必要条件」とはしてないことです。

「従属性」とは何か?

実際に最高裁の判決では、

  • 非独立性、従属性が給与所得の判定に不可欠な要素であるか
  • 両者が判定要素として等しい重要性を持っているか

ということまでは「明らかにしてない」というのが解釈です。

最高裁判決でいうところの「従属性」とは、

  • 時間的、空間的拘束を受け
  • 他人の指揮監督に服する

のが、その典型例です。

このような状態が認められる場合、一般的に給与所得に該当しやすく、「給与所得と認められる」との結論を導きやすくなります。

要するに、従属性を示す、時間的・空間的拘束や、指揮監督下に服する状態は、非独立性を明らかにする指標になり、その意味で、従属性があることは、給与所得の要素としては重要な基準というわけです。

「従属性」は「必要条件」ではない

しかし、だからといって、従属性が希薄だからといって、それすなわち、「給与所得ではない」とはなりません。

たとえば、医大の教授が自身の経営する医療法人から受取って指導料が、給与にあたるかを争われた事例では

  • 教授の指示・指導は、月1回の医療法人への訪問
  • これらの指示・指導は電話でもされていた

という、医療法人と教授との従属性が極めて薄いと考えられるケースでも

  • 提供した労務にかかわる成果
  • 不利益の帰属

要するにリスクを負って収入を得ているわけでないという非独立性を主要な判定要素として「給与」とされました。

つまり、従属性があるからといって給与になるわけでもなく、逆に従属性が希薄でも、非独立性が認められれば、それは給与なるということです。

したがって、最高裁のいう

給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない

は、あくまで「一つの判定基準」であって、給与所得を判定する際の「必要条件」ではないのです。

事業所得か給与所得かは総合判定で決まる

なぜこのような回りくどい解釈を長々と説明したかというと、

  • 指揮監督下にないから給与所得にならない
  • 時間的・空間的に拘束してないから給与所得にならない

という誤解をしていただきたくないためです。

ここまで説明してきたように、従属性が薄くても、その他の要件で給与判定されることはあるのです。

事業所得か給与所得かの判定は「総合的見地から判定される」ものです。

「この要件を満たしたから大丈夫」でないことに注意しましょう。

まとめ

この記事では、塾講師・家庭教師に支払った外注費が給与と否認された判例をご紹介しました。

事実関係を丹念に見ていけば、やはり紹介会社と塾講師・家庭教師の間に、従属性、すなわち雇用に近い関係があったことがうかがえます。

逆にいえば、指摘されたポイントを改善すれば、塾講師や家庭教師といった業態でも、業務委託契約は成り立つということです。

この記事が参考になれば幸いです。

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