この記事でご紹介するのは、個人事業主と自分が設立した会社との業務委託契約で支出した「外注費」を「必要経費にできない」と否認された判例です。
費用を「必要経費」と認めてもらうには、
- 売上げを作るうえで関連性があること。
- 業務の遂行上必要であること。
- 関係者の主観的基準でなく、客観的視点で必要と判断されること。
- 社会通念上相当であること。
という基準を満たさなくてはいけません。
この基準をクリアしてないと、たとえ業務委託契約や請負契約を交わしていても、必要経費にならないのです。
とくに同族会社への業務委託契約は注意が必要です。
この事例は、「何を問題とされたか?」を理解するのに、とても参考になります。
たとえば、国民健康保険料削減スキームを組む場合など、否認対策として学ぶべき点があります。
個人事業主の「外注費」が否認された理由
B商店に外注費が発生する流れは以下の通りです。
Aという人物が、B商店という個人事業を営んでいました。
AはC法人の代表者で、B商店の業務(LPガスの配達・運搬・保守等)を、C法人へ委託していました。
そのC法人の委託業務は、Aが担当ししていました。
つまり、B商店が受注した業務を、その代表者のAが、同じく代表を務めるC法人に業務委託していたという格好です。
お金の流れとしては、個人事業AからC法人に外注費が支払らわれ、AはそのC法人から役員報酬を受け取っていたという形です。
その外注費を「必要経費にならない」とされたのです。
C法人の業務委託の内容
それでは、AとC法人の業務委託内容をみていきます。
- C法人の定款では、上下水道・給排水・衛生設備及び浄化槽設計施工・冷暖房及びポンプ設計施工・空調機器設計施工・消防施設工事・設計施工・土木工事業を扱う会社となっていて、LPガスの配達・運搬・保守等や労働派遣は含まれていなかった。
- B商店の業務のほとんどがC法人に委託されていた。
- B商店とC法人の間で業務委託契約は交わされていなかった。
- Aは平均すると1年のうち275日以上をC法人の業務に従事していた。
- C法人への外注費は、1日2万円~2万5,000円の単価を乗じて計算されていた。
- A個人は、LPガス業務に必要な販売登録や保安機関への認定は受けていたが、C法人はそれら登録や認定はされてなかった。
- C法人が行う業務では、B商店が保有する石油貯蔵タンク、石油防油堤等の石油貯蔵設備、タンクローリー車2台等が使用されていた。
- その燃料代や経費はAが負担していた。
- C法人は上記の設備や車両は持っていなかった。
この事例に関係ある法令と用語
裁判所の判断の前に関連する法令と関連用語を記載しておきます。
(事業所得)
事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
所得税法27条の2
(必要経費)
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
所得税法37条1
(家事関連費等の必要経費不算入等)
居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの
所得税法45条
法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
所得税法令96条
家事関連費とは
個人用と事業用の両方で使っていて、切り離せないお金の使い道のことです。具体的には、家賃や水道光熱費、ガソリン代、インターネット料金や携帯電話の料金などが該当します。こうした費用を経費計上する際は、「按分(あんぶん)」をすることになります。
家事関連費の按分
同族会社とは
同族会社とは、経営者一族によって出資持分の全部またはほとんどを所有している会社をいいます。
中小企業では、出資はもちろん従業員もすべて一族で、個人事業主が会社組織にしているに過ぎないようなケースもありますが、大企業にもこのような同族会社は多く存在しています。
同族会社は経営者の独断により事業が行われやすいことから、厳しい特別規定が適用されることがあります。
同族会社とは|経理COMPASS
個人事業主が「必要経費」と認めてもらうには
所得税法27条2項は、事業所得の金額は、その年中に発生した総収入の金額から、必要経費を引いた金額と規定しています。
そして、その必要経費とは、
- 売上げに係る売上原価
- 総収入金額を得るために直接必要だった販売管理費
- その他、総収入金額を得るために生じた関連業務の費用
と規定しています。
なぜ必要経費を所得から引くのかといえば、
「所得を得るために『投下した資本』の『回収部分』にまで、税金が及ばないようにするため」
というのが解釈です。
以上の趣旨を踏まえると、個人事業主が支出した費用が必要経費に認められるには
- その費用と事業に関連性があること。
- 業務の遂行上必要であること。
という、「関連性要件」と「必要性要件」が揃っていることが条件となります。
そして、その「関連性要件」と「必要性要件」を判断するのに、
- 家事上の経費と区分しなくてはいけない。
- 恣意的な必要経費の計上を防止しなくてはいけない。
という観点から、
- 関係者の主観的基準ではなく、客観的な見地から判断すべき。
- 支出の名目などの形式的なもので判断するのではなく、業務の内容・契約の内容・支出先と納税者の関係など個別具体的な事情に即し、社会通念に従って実質的に判断すべき。
というのが個人事業主が支出した費用が、「必要経費になるかどうか」の判断基準になります。
事例の個人事業主と法人の業務委託のケースに当てはめるなら、たとえそれが業務委託契約という形式的な外観を整えていても、
- 関連性・必要性が認められない
- 客観的見地からも、社会通念上も必要と判断できない
支出であるなら、それは必要経費には認められませんよ、ということになります。
国税・税務署は「租税回避」を疑っている
実際、この判例の国税の主張でも、
- B商店からC法人に業務委託費として外注費を支払っているという体裁を整えているが
- 実質は、Aが自身の個人事業で行ったことに対し、外注費名目でお金が支払われたに過ぎない。
- AがC法人でB商店から委託された業務を行っている以上、社会通念から考えても、わざわざC法人に委託する意味は客観的に見てもない。
- したがって、関連性要件と必要性要件を満たさない。
としました。
また、AがC法人へ業務委託する場合、
- Aの業務が軽減される
- B商店の収益が増える
といった合理的な「理由がなければ、通常このような選択はしないとし、
「かえってB商店の収益を悪化させている結果になっているのだから、この外注費に「資本投下の回収部分」は存在せず、これは所得税法の趣旨に反する」
としました。
そして、個人事業主が同族会社を利用して、外注を装って費用を計上できるなら、
- 個人事業の所得を不当に減少させることができる
- 外注費を経由して役員報酬で支払われるお金は、給与所得控除の分だけ個人事業主の所得が圧縮され、不当に所得税が減少する。
と、必要経費として認めることの不当性を訴えました。
裁判所の判断は「必要経費と認められない」
裁判所の判断は次の通りでした。
認定事実
- C法人の会社の目的には、LPガス配達などの業務は含まれていない。
- A個人は業務に必要な認定などを持っていたが、C法人は持っていない。
- C法人はLPガス業務に関する設備や車両を所持していない。
- C法人の配達業務で使う経費や燃料代はAが負担していた。
- C法人の委託業務を行っていたのはAのみであった。
- C法人の委託業務に、いつ出勤するかはAが決めていた。
- 年間の休日以外のほぼ毎日が、C法人での委託業務だった。
- C法人の委託業務は、B商店の業務全般で、その範囲に特段の限定はなかった。
以上の事実によれば、
- Aは自己の保有する設備や車両、資格を用いて、
- 自己の経験と判断に基づき
- 自己の労力と経費を負担して
- B商店(Aの個人事業)の業務を遂行していたというべきである。
としました。
そして、
- B商店との業務委託契約書を書面で作成しされてない。
- 契約の重要なことが取り決めされてない。
といったことを考えれば、
「Aの業務委託契約の遂行の実質は、C法人の役務の提供(業務委託)や労働力の提供(労働派遣)といったものでなく、まさにA自らがB商店の事業主として、業務を遂行していたというほかない」
とし、B商店からC法人に支払われた外注費は
- 社会通念上、B商店の業務の遂行上必要とはいえない。
- 必要経費の該当性基準となる、「必要要件」を欠く。
- したがって、必要経費に認められない。
と判断しました。
さらに最後に、今回のようなケースで必要経費と認めてしまえば、
- 「個人事業主と同族会社の代表を兼務する者が、自身の会社に外注して費用を支払えば、本来は必要経費にできない事業主の労働の対価を、個人事業主の必要経費にできてしまう」
- 「ひいてはそれが、税額の自由な操作を許すことになりかねない」
とし、そんな租税の根本原則に反することを招くことは認められないと、Aの主張を退けました。
このように租税回避を疑われる取引は、たとえ形式的な契約を整えていても(このケースでは契約書の取り交わしはありませんでしたが)、否認されてしまいます。
その所得を得るために必要な経費だったという前に、「なぜ、その会社に外注する必要があったのか?」という、「必要性要件」も整えておかなくてはいけないのです。
個人事業主が同族会社との業務委託契約を否認されないためのポイント
今回のケースは、個人事業主から、個人事業主が代表を務める法人への外注費が、「必要経費にならない」とされた事例でした。
個人事業主の場合、「事業分の経費」と「家事に使われた費用」の境界線があいまいになりやすいので、余計に経費を厳しくみられます。
事例の場合、契約や管理や線引きがずさんで、てんでお話にならないという印象ですが、同じようなケースで自分の会社に業務委託で仕事を発注する場合は注意が必要です。
裁判所も国税もいうように、「租税回避」や「利益調整」を疑われるからです。
実際に、
- 個人事業の所得の削減になる
- 法人側の役員報酬で、給与所得控除を受けられ、個人の所得税の減少になる。
- 消費税の課税事業者にならなくて済む
など、個人事業と法人で「利益調整」して、税金の負担を減らせます。
したがって、個人事業主と自社(同族法人)が業務委託契約を交わす場合は、
- 個人事業と法人事業はしっかり線引きする
- 業務委託契約は書面で交わす
- 個人事業主側は発注した証拠(発注書など)は残す
- 法人側も受注した証拠(領収書、見積書、請求書など)残す
以外のほかに
- なぜ同族法人に発注しなくてはいけなかったのか?
- 業務委託費は適正か?
- 業務委託費が適正だという根拠は何か?
- 法人に実態はあるか?(従業員が在籍しているのが好ましい)
といったことが必要になります。
このような条件を揃えておくと、下記リンク先の事例のように、個人事業主と親族が運営する同族会社とが業務委託を契約しても、否認されるリスクは下がります。
まとめ
個人事業の場合、事業の経費と、いわゆる家事関連費用の区分けがあいまいで、厳しい目で見られるうえに、その費用の支払先が自身が代表を務める同族会社だと、意思疎通ができるわけですから、租税回避を疑われやすくなります。
実際に、同族会社に業務委託する理由には、「利益調整」が含まれているのも事実ですし、税務調査官の対応が厳しくなるのもやむを得ずです。
この記事で紹介した事例は、否認されてもおかしくないほどずさんな管理だったわけですが、同じ轍を踏まないようにしなくてはいけません。
そのポイントは「しかっかりわける」「しっかり証拠を残す」「しっかり論拠を揃える」です。
この事例を反面教師に、外注費を否認されないようにしましょう。
「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓
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