この記事でご紹介するのは、ホステスさんに支払った報酬が、給与と否認された事例です。
お店側(キャバレー)は、業務委託契約としてホステスさんに支払った報酬を事業所得にしたかったのですが、裁判で「給与所得」とされてしまいました。
その理由を端的にいうと、「事業所得の実態がなかった」からです。
いくら形式的な主張を訴えても、それを証明する実態がなければ、認めてもらえないということです。
そういう意味で、この判例は参考になるでしょう。
「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓
事業所得を理解する
まず事業所得について理解しておきましょう。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得
をいいます。
定義としては、
自己の計算と危険において独立して営まれ、①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の危険と計算における事業遂行性の有無、④その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥その取引の目的、⑦その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する。
最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決
とされています。
何だかわかったようなわからないような文章ですが、大事なのは冒頭の「自己の危険と計算において」です。
要するに、自分でリスクを負ってその収入を得ているか、ということです(これと並行してもう一つ大事なポイントは、使用者の「指揮監督下」にあるかどうかです)。
逆にいえば、「自己の危険と計算において」という前提が崩れてしまうと、給与所得とされる可能性が高くなります。
そこで、ご紹介する事例です。
広告費の負担は事業所得の理由になるか?
お店側(キャバレー)は、ホステスさんがリスクを負って収入を得ている根拠として、次の主張をしたのです。
- お店側は売上げから経費を除いた利益を、ホステスと折半にして報酬で渡している。
- このことからすれば、新規客を呼び込むための案内所などの広告費用は、ホステスも実質的に負担していると同様。
- これは、自己の計算で危険を負担しているといえる
と、事業所得の根拠としたのです。
裁判所が事業所得と認めなかった理由とは?
これに対し裁判所の判断は
- ホステスらに関する給与規定をみても、本件ホステスらが、実質的に広告費を負担していることはうかがえない。
- そもそもお店側は広告宣伝費を自身の経費として計上している。
- お店側自身が、お店側とホステスらとの利益配分の前提として、広告宣伝費を含む経費を控除した上で配分する旨主張している(つまり、ホステスさんへ支払った報酬には、もともと広告費は含まれておらず、そうしたら、ホステスさんが広告費を負担していたという主張はおかしいだろう、という裁判長のわかりにくい突っ込みです)。
とし、
「以上のことからすれば、本件ホステスらが、実質的に自己の計算で広告費を負担しているということはできない」
とお店側の主張を認めませんでした。
もちろん、広告費の負担の件は、給与所得に判定される一要素でしかありませんが、形式上、事業所得の体面を整えても、事実関係が伴っていなければ認めてもらえないのです。
そして判決は、ホステスさんに支払った報酬は、「給与」とされました。
ホステスさんの報酬を事業所得にするために必要脱た2つのこと
今回の事例では、「広告費を負担していればリスクを負った事業所得になるか?」についてまではわかりませんでしたが、大事なのは、
- 形式上だけでなく実態を伴っていること
- ホステスさんが広告費を負担しているのであれば、それを裏付ける証拠、とくに書面で残すこと
が重要だということです。
実態は伴ってない、広告費を負担していたことを裏付ける証拠もないとなれば、主張そのものが成り立たなくなり、否認されてもおかしくありません。
この事例からわかる「業務委託契約を給与と否認されないために守っておきたいこと」は、
- 線引きはしっかり行う。
- 実態が伴っている。
- 証拠は書類でしっかり残す。
です。
まとめ
ちなみにお店側は、「ホステスが顧客情報を管理している」ことも、自己の危険をもって事業をしていたことの根拠としていました。
しかし、これについても、顧客情報の管理だけでは、自らの危険において事業を営んでいる根拠にはならいとして、給与所得であることを覆すほどの論拠にならないとされました。
給与所得か事業所得かの判定は、事実関係を総合的にみて決まるので、一部分だけ事業所得の基準に合致しても意味ないということです。
トータルでみて事業所得の要素が多くないと否認されてしまうということです。
しがって、仮に広告費をホステスさんが負担していたとしても、必ずしも事業所得と判定されるわけではありません。
いずれにしましても、業務委託契約を成立させるには、契約書で形式上のことを整えるのはもちろん、実態もそれに見合ったものでなくてはいけないのです。
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