雇用契約を結んでいる副社長との業務委託契約が認められた事例

社長個人が自身の会社と業務委託契約を交わし、請負報酬を得ると、「法人と役員の業務委託契約は危険!外注費は否認の可能性大」で解説した通り否認される可能性が高くなります。

その解決方法としては、「社長が別会社を設立し、法人間の業務委託契約にする」ことが挙げられます。

法人と法人の業務委託契約になれば、さすがに簡単に否認はできません(ただし、業務委託契約が社長個人の社会保険料対策であれば、即効的な効果はなくなります)。

そこでこの記事では、「雇用契約のある会社」と「自身の会社」が交わした業務委託契約が認められた事例をご紹介します。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

社内の人間でも業務委託契約は成立することがわかる事例

当初は国税から「虚偽の業務委託契約(通謀虚偽表示(民法第94条))」とされ、自身の会社が委託元の会社から受け取ったお金を「給与である」と否認されました。

しかし、後の国税不服審判所の裁決で、「業務委託契約」であることが認められました。

雇用契約を結んでいる副社長との業務委託契約が認められた事例

関係は少し複雑ですが、まとめると下記の通りです。

登場人物・会社
  1. 請求人:H社の代表取締役
  2. H社:平成15年設立のコンピューターシステム開発会社
  3. J社:外国法人の日本支社
流れ
  • 第一次業務委託契約:平成16年4月に、委託者J社、受託者H社、契約期間を平成17年3月までとする業務委託契約が交わされた。
  • 第二次業務委託契約:平成17年8月に、再度、委託者J社、受託者H社とする業務委託契約が交わされた。
  • J社と請求人との雇用契約:平成17年9月にJ社と、H社の代表取締役である請求人との間に雇用契約が結ばれた。役職は〇〇部の副社長。
  • J社と請求人の再雇用契約:請求人は、平成20年5月にいったんJ社を退職し、その後、平成20年6月から平成22年5月の間を雇用期間とする雇用契約を締結した。
請求人がJ社と雇用契約を交わした経緯

ちなみに、請求人がJ社と雇用契約を交わしたのは、J社の人事システムにアクセスするためには、J社と雇用契約を結ばないといけない、という特殊事情からでした。

国税が問題にした点

しかし国税は、H社とJ社の業務委託契約が継続しながら、請求人がJ社とあらたに雇用契約を結んだことを疑問に思い、問題としました。

国税の主張は次の通りです。

  • 業務委託契約と雇用契約の業務内容に違いがない。
  • J社も請求人も、業務委託契約と雇用契約の業務を明確に区分できてない。
  • J社とH社の業務委託契約の内容は、請求人が副社長の立場で行うべきもの。
  • 請求人の労務また役務提供の態様は、J社との間で決められた勤務時間・勤務場所などの時間的・空間的拘束を受けたもので、同社の指揮監督に服する従属的なものであった。
  • そもそも法人であるH社は、雇用契約における一方契約当事者である労働者になり得ず、本件業務委託契約は原始的に無効である
  • 以上のことからすると、本件業務委託契約は、J社とH社とが両者通じて虚偽の意思表示をしたものと認められることから、通謀虚偽表示(民法第94条)により無効である。
  • したがって、J社と請求人は、本来は雇用契約に基づき請求人に支払われるべき給与の一部を、業務委託契約の報酬という外観を作り出してH社に支払ったものであると認められる。
  • つまり、給与である。

簡単にまとめると、業務委託契約の業務内容も、雇用契約の業務内容も似たようなもので区分もされてない、それは「給与」と申告すべきものを、J社とH社(請求人)がグルになって、虚偽の業務委託契約をでっちあげたのではないのか?ということです。

事実関係

これに対し、請求人、H社、J社の事実関係は次の通りでした。

業務委託契約の締結について
  • 請求人は、平成16年3月ごろ、J社から業務委託の誘いを受けた。これに対し、請求人は、H社の業務として行えるのであれば引き受ける旨回答し、第一次業務委託契約に至った。
  • 第一次業務委託契約で定められた業務は、請求人が全て行っており、H社の他の社員は従事していない。
  • 第一次業務委託契約が終了間近の平成17年ごろ、請求人はJ社から、○○部の副社長にならないかと打診された。これらに対し請求人は、H社の業務として、H社が契約当事者になるのであれば業務を引き受けると述べた。
  • 平成17年8月にJ社は、アジア地区全体の○○部の職員に対して、請求人が日本における○○部の副社長あることを通知した。
  • 第二次業務委託契約で定められた業務については、平成23年12月に終了するまでの間、請求人が全て行っており、H社の他の社員は従事していない。
副社長として雇用されたことについて
  • J社の人事部の副社長から、請求人がJ社の人事システムにアクセスするために、請求人とJ社の間で雇用契約を締結したいと述べられた。その際、便宜的なもの、といわれた。
  • 請求人はJ社の○○部の副社長になることに合意し、その際、第二次業務委託契約で定める報酬を減額する内容の合意がなされた。
H社の業務実態
  • H社は、平成15年に設立以降、各事業年度において決算を行った上、法人税等の申告も行い、従業員一名を雇って、インターネット上のサイトを運営している会社である。
  • H社は、請求人に対して、平成17年1月分ないし平成23年12月分の役員報酬として、月額○○○○円を支払っていた。

国税不服審判所の判断

国税不服審判所は、J社とH社との間の業務委託契約が通謀虚偽表示により無効となるか否かが争点となっているとして、通謀虚偽表示の成否について、次のように判断しました。

1.業務委託契約の内容について

本件業務委託契約において合意されている内容は、H社が、その代表者である請求人に、J社の下で、J社日本支社の副社長としての業務を行わせ、J社がその対価をH社に支払うというものであり、H社がJ社に対して、請求人の労働力をJ社の指揮監督下に提供することを内容とする契約であると認められる。

また、業務委託約に基づき、J社日本支社の副社長としての業務に従事し、その対価として、J社からH社に対する業務委託手数料の支払も行われていることから、第二次業務委託契約及び第一次業務委託契約で合意された内容のとおりの債務が各契約当事者によって履行されている。

2.雇用契約について

請求人が人事のシステムにアクセスするために必要であるなどと述べたことなどからすると、請求人とJ社との間において、請求人がJ社の社員としての立場で労務に従事することを合意したもの。

3.H社が法人としての実体を備えていることについて

H社は本件業務委託契約が締結されるより約2年ほど前に設立されたものであり、設立後、継続的にサイトの開設作業や運営等の業務を行っており、従業員も雇用している。

4.H社から請求人への資金移動について

本件業務委託契約が通謀虚偽表示で、J社と請求人によって作出された虚偽の外観であるとすれば、J社からH社に支払われた本件業務委託契約に基づく報酬は、本来は請求人のために支払われたものとして、H社を経由して請求人に支払われることが考えられる。

しかしながら、H社から請求人に支払われた役員報酬の金額は増加しておらず、同契約の報酬相当額が、H社から請求人に支払われたという事実は認められない。

5.通謀虚偽表示について

J社とH社の間で、H社を通じて請求人にJ社日本支社の副社長の業務を遂行してもらうことについて合意がなされた上、本件業務委託契約が締結されており、同契約に基づき、平成17年8からH社は受託業務を履行していることから、H社とJ社との間において、そもそも虚偽の外観を作出する理由があったとは認められない。

また、当審判所の調査の結果によっても、本件業務委託契約が通謀虚偽表示により仮装されたものであることを基礎付ける証拠は見当たらず、原処分庁からも提出されていない。

6.原処分庁の主張について

事実関係から見れば、J社と請求人との間に雇用契約を締結する意思があったというだけでは、本件業務委託契約が虚偽表示によるものであることの理由とはならない。

本件業務委託契約と本件各雇用契約とが法律上併存しえない関係にはないことからすれば、業務内容が区分できないことは、一方の契約が虚偽表示によるものであることを基礎付ける理由とはならない。

J社の指揮監督下において請求人の労働力を提供するという債務の内容は、本件業務委託契約及び本件各雇用契約に共通する内容であるから、これをもって、所得の帰属先を決めることはできない

総合判断

本件業務委託契約について通謀虚偽表示は成立しないから、同契約は有効に締結されたものと認められる。

したがって、本件業務委託契約に基づくJ社のH社に対する業務委託手数料は、請求人の給与には当たらず、H社に帰属する。

社内の人間と業務委託契約を成立させることは可能

この事例は、副社長とだけしかないので、J社の役員かどうかは不明ですが、委託者と雇用関係にありながら、委託者と自身の経営する会社との業務委託契約も成立しています。

つまり、業務委託契約として成立する要件を満たしていれば、社内の役員、あるいは社員でも、一部の業務を委託することは可能なのです。

ただし、役員の場合は「個人事業主」で受けてしまうのはアウトですし、社員の場合でも、個人事業主より法人の方が安全度は高くなります

その際の注意点としては、事例にもある通り法人が運営されている実態が必要です。

実態のない法人だと、損金に計上できません。

必要経費を損金にできるための条件

所得税法第37条に規定する必要経費に算入すべき金額は、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。

そして、ある支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するというためには、それが納税者の営む業務との関連性及び業務遂行上の必要性という要件を満たすことを要するというべきであり、当該要件を満たすか否かは、納税者の主観的意図により決すべきではなく、客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識することができるか否かにより判断するのが相当である。

したがって、ある一定の役務の提供に対して代金が支払われることを内容とする契約が締結されている場合であっても、提供される役務の価値を超えて代金が支払われ、これが所得を生ずべき業務について生じた費用でないと評価されれば、役務の価値を超えて支払われた部分は必要経費に算入されないことになる。

つまり、業務委託契約を法人と交わしても、その法人の実態がないと同じなら、それは提供される役務を超えて代金が支払われ、「所得を生ずべき業務について生じた費用でない」ことになり、必要経費に算入できなくなる、ということです。

こんな小難しい理屈を並べなくても、架空の会社に支払った費用は、経費として認められないことは感覚としてわかりますね。

まとめ

最後に大事なことお伝えします。

自社の役員に業務委託する場合、法人を設立すれば大丈夫だと、「形式的なこと」を整えても意味はありません。

「なぜ役員が経営する会社に業務委託しなくてはいけないのか?」、その根拠も説明できないと、税務署と争う可能性が高くなるといえます。

この記事で紹介した事例は、委託者が請求人と雇用契約を結んだ理由も、J社とH社で業務委託契約を結んだ理由も、第三者が聞いて納得できる理由が存在します。

そのことを忘れてはいけません。

形式を整えても、内実が伴っていけなればいけないのです。

役員であっても社員であっても、社内の人間と業務委託契約を交わすことは可能です。

この事例が参考になれば幸いです。