この事例は、「外注費」を「給与」と否認された「典型例」です。
販売員に支払ったお金を外注費として計上するには、その販売員との間に業務委託契約(実態を含めて)を成立させなくてはいけませんが、蓋を開けてみると、典型的な「雇用契約だった」という内容です。
・販売員に支払ったお金が「外注費」ではなく「給与」とされた「典型」例
この事例を読むと、後から無理やり反論をこじつけたのではないかと勘繰りたくなりますが、とにかく否認材料が揃っていて、反面教師となる好例です。
「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓
販売員との業務委託契約が成立しなかった事例
この事例は、百貨店で物産展を開き、弁当を調理・販売する会社(以下、弁当販売会社)が、職業紹介所(以下、マネキン紹介所)から紹介された各販売員に支払ったお金が、外注費でなく給与と否認されたものです。
争点は、弁当販売会社と各販売員との間に、「雇用契約が成立していたか?」、それとも「業務委託契約が成立していたか?」です。
結論は、先述した通り、「雇用関係が成立していた」とされ、給与と判定されました。
「雇用契約」と「給与」の定義
事例の理解を深めるために、まず「雇用契約」と「給与」の定義をおさらいしておきましょう。
雇用契約とは
労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものであり、その本質は、労働者が使用者との使用従属関係の下に賃金の支払を受けて労務を提供するところにあるもの。
給与とは
給料、賃金、賞与等その他の名目のいかんにかかわらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、自己の危険と計算によることなく、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうもの。
具体的には、
- 役務の具体的な内容や方法について対価の支払者から指揮監督を受けているかどうか。
- 対価の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受けているかどうか。
- 対価の支払者から材料や用具等の供与を受けているかどうか。
- 役務の提供を行う者が自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して役務を提供することが認められるものではないかどうか。
といった事情を総合勘案して判断するとされています。
逆にいえば、これら要件と逆なのが業務委託契約となります。
弁当販売会社と販売員の事実関係
1.販売員について
- 販売員はマネキン紹介所から紹介されて来た。
- 販売員がマネキン紹介所から受取った紹介状には、業務内容、雇用期間、就労時間、基本賃金、就労場所等の項目に、それぞれの具体的な内容が記載されていた。
- それ以外にも、「雇用契約は求人者(メーカー様)と求職者(マネキン)との間で結ぶ事になります」と記載されているものもあった。
2.労働の実態について
- 弁当販売会社から派遣された責任者から、販売業務の時間(6時間30分~8時間)、休憩時間(60分または90分)を指示されていた。
- 休憩は、各販売員間で取る順番を適宜決めて、交代で取っていた。
3.対価について
- 物産展終了後、各販売員から請求書または賃金計算書等を、マネキン紹介所が取りまとめて、弁当販売会社に提出していた。
- 弁当販売会社は、請求書または賃金計算書を基に賃金を計算し、販売員に直接か、マネキン紹介所を通して、対価を支払っていた。
- 対価は、業務時間(6時間30分~8時間)の日当で決められていた。
- 日当に対して業務時間がオーバーしたときは、残業手当が支給され、業務時間が足りないときは、時間に応じて減らされていた。
- 各販売員には、交通費が支給されていた。それ以外にも繁忙手当や遠隔地手当てが支払われることもあった。
- 請求書には、「雇用主は貴社になります」、「尚、マネキンの源泉所得税は貴社にて徴収願います」などと記載されているものもあった。
4.用具について
- 販売業務で必要となるエプロンおよび三角巾は、販売員または百貨店が用意したものを使った。
- レジのない物産展では、弁当販売会社が計算機を用意することもあったが、使い慣れた計算機が良いとの理由で、販売員が持参したものを使うこともあった。
- ちりとりや洗剤等の備品および消耗品が必要になった際には、各販売員から請求を受けて、弁当販売会社がその費用を負担していた。
国税不服審判所の判断
A.指揮監督について
- 弁当販売会社から派遣された責任者が、商品および金銭の管理等販売業務全体の管理・監督を行っていた。
- 休憩時間についても、責任者の指示を受けた上で、各販売員間で休憩を取る順番を決めて休憩を取っていた。
- 責任者から各販売員に対して販売方法に関する詳細な指示を与えていなかったことが認められるが、それは本件の弁当販売に高度な専門性が要求されるものではなく、具体的な指示をする必要性が高いとはいえないから、販売方法に関する具体的な指示がなかったことのみをもって、弁当販売会社の指揮監督の下になかったということはできない。
判断
役務提供の具体的な内容や方法について、責任者から指揮監督を受けていたものと認められる。
B.時間の拘束について
- 責任者の指示で販売業務時間や休憩時間が決められていた。
- 対価は日当とされていた。
- 業務時間に対して日当に過不足がある場合は、時間給で調整されていた。
判断
販売業務を行うに当たって、弁当販売会社から時間的な拘束を受けていたものと認められる。
C.役務の提供の代替性について
- 責任者は、各販売員が自由に販売を他者に任せることはできなかった旨答述している。
判断
各販売員が自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して販売を行うことはできなかったものと認められる。
D.契約までの経緯について
- 本件マネキン紹介所は、職業紹介すなわち雇用契約のあっせんを行う事業者であり、実際に雇用の目的で各販売員を弁当販売会社に紹介していた。
- また、本件マネキン紹介所が雇用契約のあっせんとは別の趣旨で紹介を行ったことを示す事情はうかがわれない。
- 弁当販売会社は、マネキン紹介所から紹介された販売者の役務の提供を拒絶することなく受け入れ、時間に応じた日当を支払っていた。
判断
弁当販売会社と各販売員との間では、マネキン紹介所を通して、各販売員が役務の提供を行い、弁当販売会社がその役務の提供に対する対価を支払うことについて、少なくとも黙示による合意が成立していたものと認められる。
総合判断
エプロンや三角巾は、販売員および百貨店が用意したものを使用していたことが認められるが、
弁当販売会社から
- 役務の提供について指揮監督下にあった。
- 時間的拘束を受けていた。
- 役務の提供の代替が認められていなかった。
- 販売員との間に暗黙の了解があった。
ことを考慮すれば、各販売員に支払われたお金は、雇用契約に基づき支払われた給与である。
販売員との業務委託契約を成立させる3つのポイント
以上のように、弁当販売会社の主張は認められず、業務委託契約で支払った「外注費」を「給与」と否認されました。
敗因は、説明するまでもないと思いますが、販売員との雇用関係を立証する事実関係があったからです。
もしこの事例で業務委託契約を成立させるには、各争点でポイントになった
- 指揮監督下においてはいけない。
- 時間管理はしてはいけない。
- 代替性を認めなくてはいけない。
ということを、最低でもクリアしておかなくてはいけなかったのです。
まとめ
この事例は、外注費を給与と否認される典型例でした。
事実関係に挙げたことは、業務委託契約を成立させるためには「やってはいけない」ことばかりです。
唯一、用具は、弁当販売会社が用意したものでなく、販売員や百貨店が準備したものを使っていましたが、外注費かどうかの判断は、事実関係を総合的に見られるので、一部の要件を整えていても否認されてしまいます。
要点をしっかり押さえて、外注費を否認されない業務委託契約にしましょう。
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