出向社員に払ったお金が「給与」とされた事例。出向先と出向社員に雇用関係は成立するか?

これは、金属加工機製造業(以下、金属加工会社)が、出向元の会社(以下、F株式会社)から出向してきた社員(以下、出向社員)に支払ったお金が、消費税の課税仕入れに該当するかどうか争われた事例です。

出向先の社員に支払ったお金を給与と否認された事例(平11.11.4裁決、裁決事例集No.58)

わかりやすくまとめると、金属加工会社(出向先)が、出向元の社員に支払ったお金(業務分担金)が、「給与になるかどうか?」が論点になったということです。

結論からいうと、「給与」と否認されました。

出向社員への給与は、出向元のF株式会社が直接支払っていますが、「業務分担金」という名目で、派遣先となる金属加工会社が費用を負担していました。

この金属加工会社が支払ったお金が、出向社員への給与になるかどうかが争われたのです。

金属加工会社は、業務分担金について、「F株式会社と当社との業務委託契約で支払ったお金」とし、「出向社員と自社は雇用関係にない」と主張しました。

しかし下った裁決は、業務分担金は「出向社員に支払った給与」とされたのです。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

出向先の社員に支払ったお金が「給与」にされた事例

給与が課税取引ならない消費税法の根拠

業務委託契約の場合は、消費税の課税取引になります。

その反対に給与は、消費税の課税取引にはなりません。

課税仕入れとは

事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。

消費税法第2条第1項第12号

条文の中に、「給与等を対価とする役務の提供」は消費税の課税仕入れの対象にならないとあります。

「給与等を対価とする役務の提供」とは、

俸給、給料、賃金、歳費、賞与及びこれらの性質を有する給与を対価として、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき労務を提供すること

をいいます。

つまり、この事例でいうところの「業務分担金」という名目でも、雇用契約やそれに近い形で支払われる性質のお金は、「給与とみなす」ということです。

そして、雇用契約の判定とは

  1. 仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由があるか否か、業務の内容及び遂行方法に対して具体的な指揮命令を受けるか否か、勤務場所及び勤務時間が指定されているか否か等の労務提供の形態
  2. 報酬が時間給を基礎とするなど労働者間の較差が少なく、欠勤に伴い応分の報酬が控除され、あるいは、いわゆる残業をした場合には通常の報酬以外に別の手当が支給されるなど一定時間の労務の提供に対する対価であるか等の報酬の労務対償性
  3. 材料、生産器具等生産手段を役務提供者が負担するか否か

といったことを総合的にみて判断するとされています。

これらのことを理解して、下記事実関係をみていくと、この事例をより深く理解できます。

出向先金属加工会社と出向社員との事実関係

では、出向先金属加工会社と出向社員との事実関係を見ていきましょう。

  • 出向社員は、F株式会社に在籍したまま、金属加工会社に出向した。
  • 出向社員は、出向期間中、金属加工会社以外の業務に従事することはできなかった。
  • 勤務場所は、金属加工会社の本社だった。
  • 勤務時間は金属加工会社の他の従業員と同様に午前8時から午後4時40分までだった。
  • 業務に対する指示は金属加工会社の工場長およびリーダーが行っていた。
  • 出向社員には、指示に対する諾否の自由はなかった。
  • 出向社員には、業務に必要な機械及び器具の自己負担はない。
  • 出向社員の労災保険の保険料の負担、給付等の手続についても、金属加工会社が行っていた。
  • 業務分担金は出向社員の一定時間の労務に対する対価であった。
  • 業務分担金の金額は、F株式会社と金属加工会社の覚書により取り決めていた。
  • その中にある所定月額は、F会部式会社が見積もった出向社員に係る月額労務費(賃金、通勤交通費補助額、社会保険料事業主負担額、退職給与引当金、厚生費及び一時金)の総額に基づいて請求人の負担額を決定しており、当該労務費の各項目の実費補てん額を決定するものではなかった。
  • 時間外手当及び深夜割増金は、金属加工会社から送付された就業管理資料に基づきF株式会社が出向社員に支給した額の70パーセントを金属加工会社に請求していた。
  • F株式会社は、その月の労働可能日数に応じた1日当たりの所定月額に欠勤実日数を乗じた金額を所定月額から減額して金額を算定し請求していた。

国税不服審判所の判断

指揮監督下について
  • 金属加工会社の工場長等の指揮命令の下に旋盤加工の業務に従事していた。
  • 必要な機械及び器具の自己負担はなかった。
  • 勤務時間も、金属加工会社の他の従業員と同様に定められていた。
  • 金属加工会社以外の業務に従事することはできなかった。
  • 出向社員は、金属加工会社の労働者として労災保険に加入し、同保険の給付手続についても金属加工会社が行っていた。
お金の支払いについて
  • 業務分担金のうち所定月額は、出向社員の欠勤日数に応じて減額され、所定就業時間外の勤務に係る時間外手当等は所定月額とは別に加算されていたことなどからして、金属加工会社が負担する業務分担金は、出向社員の一定時間の労務提供の対価である。
総合判断

以上を総合的に勘案すると、本件出向社員は、F株式会社に在籍しながら金属加工会社に出向し、金属加工会社の指揮命令に服して、非独立的に労務、役務を提供しているといえる。

そのため、出向先である金属加工会社との関係においても雇用関係があると認めるのが相当である。

したがって、本件業務分担金は金属加工会社における出向社員に対する給与に相当し、消費税の仕入税額控除の対象にならない

業務委託契約を主張するのに無理があった

そもそも、消費税基本通達5-5-10には、

事業者の使用人が他の事業者に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元事業者が支給することとしているため、出向先事業者が自己の負担すべき給与に相当する金額を出向元事業者に支出したときは、当該給与負担金の額は、当該出向先事業者におけるその出向者に対する給与として取り扱う

と定められています。

この事例でも、業務分担金として支払ったお金の中には、金属加工会社が負担した残業代や深夜割増手当も含まれていました(F株式会社が金属加工会社に送付した就業管理資料に基づき計算された金額)。

まさに消費税基本通達5-5-10でいう、出向先企業が負担する「給与」に該当していました。

さらに、出向先の金属加工会社と出向社員の間にも、「雇用関係」が成立していました。

そのため、「業務分担金として支払ったお金は、自社とF株式会社との業務委託契約によるもの」という主張も「納税者の独自の見解」と一蹴されてしまいました。

ただし、出向社員に支払ったお金が給与ではなく、「業務委託費」とされた事例もあります。

ポイントを押さえれば、出向契約でも業務委託契約を成立させることはできるのです。

気になる方は下記記事もご覧ください。

出向契約で「業務委託契約」を成立させるには?出向社員との「雇用関係」がポイント

まとめ

この事例の場合、明らかに業務委託契約は成立していませんでしたが、何をもって雇用契約の判定とするかは参考になる部分があります。

やはりここでも、

  • 業務の指示を誰に受けていたか
  • 労働時間やお金の管理は誰がしていたか
  • 残業代などの「手当」を受け取っているか
  • 材料や器具は誰が提供したものか

など、外注費か給与かの判定基準と合致するものがあります。

外注費(業務委託契約)を成立させたいなら、上記管理は「合理的な理由がない限り」してはいけないといえます。

参考になれば幸いです。