アルバイト販売員に支払ったお金が「給与」とされ、消費税の課税仕入れにならなかった例

業務委託契約

これは百貨店内でお弁当を調理して販売する会社が、お弁当の販売を行ったアルバイトの販売員に対して支払ったお金が、「百貨店が支払った給与」になるか、それとも「自社が支払った給与」になるかで、国税不服審判所で判断された事例です。

結果は、弁当販売会社が雇ったアルバイト、すなわち給与とされ、「消費税の課税仕入れの対象にならない」とされました。

ここでご紹介する事例は、業務委託契約が成立するかどうかではありませんが、アルバイトの雇用主が「百貨店」か「お弁当販売会社(派遣元企業)」にあるかで争われた判例なので、何をもって使用者の指揮命令下にあるかの判断基準になります。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

雇用契約を理解する

最初に雇用契約について理解しておきまましょう。

雇用契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものであり、その本質は、労働者が使用者との使用従属関係の下に賃金の支払を受けて労務を提供するところにあるもの

この判例でも、誰の指揮下にあったかが判定のポイントになっています。

弁当販売会社がアルバイト販売員に支払ったお金は給与になるか?が問題になった事例

納税者は、百貨店内で物産展を開催して、そこでお弁当を調理・販売する会社(以下、弁当販売会社)です。

その物産展で、お弁当の販売員として雇ったアルバイトの雇用主が、百貨店側か弁当販売会社のどちらにあるかが争点になりました。

弁当販売会社は、アルバイトの雇用主は「百貨店」であるとし、アルバイトに支払ったお金を「外注費」で計上しましたが、税務調査で「給与である」と否認されました。

弁当販売会社は、「外注費」と認められないと、消費税の課税仕入れにできないので、「百貨店が雇用主」と主張したのです。

そして税務当局の処分を不服とし、国税不服審判所で争うことになったのです。

アルバイトの雇用主が誰なのかが問題になった判例(平成26年2月17日裁決)

事実関係

百貨店、弁当販売会社、販売員のアルバイトとの事実関係は、次の通りでした。

1.アルバイトが販売に従事した経緯
  • 弁当販売会社は、百貨店丙に出展申込みをする際、弁当の販売を行ってもらう販売員を確保するために、出展申込書の「マネキン・アルバイト希望」欄に、必要とするアルバイトの人数及び指名するアルバイトの氏名を記載して、百貨店に提出して、アルバイトの手配を依頼していた。
  • 上記出展申込書には、「アルバイトは、希望人数紹介できない場合があります」と記載されていた。
  • 百貨店は、物産展のための販売員を新規に募集するか、過去の販売経験者に直接連絡して、本件アルバイトを手配していた。
  • 百貨店は、本件アルバイトのうち、初めて販売に当たる販売員に対しては、面接の際、業務の内容が販売及び調理補助であること、勤務の期間、勤務時間、時給の下限及び服装等を記載した書面を交付して説明を行うとともに、時給については出展する事業者に確認するように伝えていた。
  • 百貨店は、出展する事業者である弁当販売会社の依頼によって、販売員を手配するのは販売員の紹介であって、弁当販売会社が雇用主になるものと認識していた。
  • 百貨店は、弁当販売会社が、雇用主になることやアルバイトの時給などについて説明すると思っていて、あえてアルバイトに詳細は説明していなかった。
2.業務内容、指揮監督について
  • アルバイトの中には、弁当販売業務に慣れてない人がいて、その人たちは、弁当販売会社の責任者から基本的な業務の指導を受けていた。
  • 百貨店は、アルバイトに具体的な販売方法の指示などはしてないが、百貨店内での販売であるため、勤務態度によっては、一般的な接客の心得を指導していた。
3.アルバイトへのお金の支払い
  • 弁当販売会社は、物産展終了後、アルバイトから従業者明細表の交付を受け、直接アルバイトに対して、販売に当たった時間に応じて計算した金員を支払っていた。
  • アルバイト従業者明細表には、勤務日、勤務開始時間、勤務終了時間、休憩時間、労働時間、日給の各項目に、それぞれの実績が記載されていた。

弁当販売会社の主張

  • 自社からアルバイトにお金を支払っていたのは、百貨店の指示に従っていただけであり、この点をもって本件アルバイトと自社が雇用関係にあるとはいえない。
  • アルバイトを手配したのは百貨店であった。
  • 百貨店がアルバイトの役務の提供の開始時間、終了時間、休憩時間及び休憩場所を指定していたことから、アルバイトは百貨店の指揮命令に服していたといえる。

国税不服審判所の判断

アルバイトの雇用の経緯について
  • 弁当販売会社、百貨店、アルバイトのそれぞれの間で、誰が雇用主となるか明確にされた契約書等の書面が作成された事実は認められない。
  • 弁当販売会社は、出展申込書のアルバイト希望欄に必要事項を記載した上で、百貨店にアルバイトの手配を依頼した際、アルバイトの人数を指定するのみではなく従事してほしい者の指名まで行っていたことからすれば、本件アルバイトの採用に弁当販売会社の意向が反映されていたものと認められる。
  • 弁当販売会社が百貨店に提出した出展申込書には「アルバイトは、希望人数紹介できない場合があります」と記載され、アルバイトが「紹介」である旨が明記されていたことが認められる。
判断

百貨店は、募集したアルバイトに面接を行い、勤務の時期や勤務時間等についての条件を伝えていたことが認められるが、これについては、弁当販売会社が販売員の手配を百貨店に依頼したことに基づくものであると考えることもできるのであって、かかる事実のみをもって、百貨店が雇用主として本件各アルバイトの雇用条件を決めていたものということはできない。

指揮監督について
  • 各アルバイトは、弁当販売会社の責任者の指揮監督の下で弁当の販売業務を行っていたものであり、これは直接または責任者を介して、弁当販売会社の指揮監督を受けていたといえる。
  • 百貨店が役務の提供の開始時間等を示したのは、弁当販売会社が販売員の手配を百貨店に依頼したことに基づくものであると考えることもでき、このことから直ちに百貨店が雇用主として雇用条件を定めたものということができない。
判断

百貨店は、各アルバイトに対して、勤務態度について一般的な心得を指導していたことが認められるが、これらは百貨店内において販売業務に当たることとの関係に基づく指示であると考えられる。

実際に各アルバイトは、弁当販売会社の責任者から基本的な事項の指導を受けて販売業務を行っていたのであるから、百貨店の指揮命令に服していたとはいえない。

お金の支払いについて
  • 各アルバイトが弁当販売会社に対して、アルバイト従業者明細表を提出した上、弁当販売会社が、各アルバイトに販売に当たった時間に応じて計算した金員を直接支払っていたことが認められる。
判断

上記のことから、弁当販売会社は、各アルバイトによる役務の提供を受け、それに対して賃金を支払う意思を有していたものと認められる。

また各アルバイトも、弁当販売会社に対して役務を提供して賃金の支払を受ける意思を有していたものと認められる。

総合判断

弁当販売会社と各アルバイトとの間には、少なくとも黙示による雇用契約締結の意思の合致が認められる。

したがって、各アルバイトの雇用主は弁当販売会社であるといえ、各アルバイトが受け取ったお金は給与等に該当するる。

弁当販売会社は、「各アルバイトに金員を支払っていたのは、百貨店の指示に従っていただけである」旨主張するが、百貨店が弁当販売会社に対して各アルバイトに金員を支払うよう伝えていたのは、弁当販売会社が各アルバイトを雇用していたからにほかならないといえる。

以上のことから、弁当販売会社の主張には理由がない。

大事なのは実態

この事例では、アルバイトの雇用主は、百貨店か弁当販売会社のどちらであるかが問題になりました。

そこで、アルバイトの雇用経緯、指揮監督関係、お金の支払いについて、それぞれ事実関係をみていき、総合判断で弁当販売会社とされました。

弁当販売会社は指揮命令について、アルバイトを募集したのは百貨店、お店の開始、終了時間、休憩時間及び休憩場所を指定していたのは百貨店と主張していましたが、事実関係でことごとく否定されました。

百歩譲って、形の上でそうなっていたとしても、実態が伴っていなければ否認されてしまいます。

その結果、「外注費ではなく給与」とされ、消費税の課税仕入れの対象にならなくなりました。

この事例の事実関係をみると、弁当販売会社はかなり苦しい言い訳に終始している印象ですが、裁判所がどんな基準で指揮監督下にあるかを判定しているかの参考になります。

まとめ

業務委託契約の判定そのものではなく、雇用主がどちらかの判定でしたが、参考になる部分があります。

たとえば、アルバイトの手配をしたのは百貨店でしたが、それのみで雇用関係が決まるわけではありませんし、開始時間や休憩時間の指示をしたらそれが指揮監督下にあったとなるわけではないとしたことです。

紛らわしいことはしないことに越したことはありませんが、雇用と業務委託の線引きをきちんとしておくことが、否認のリスクを下げることにつながります。

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