ご存じのように、企業が一旦人を雇用すれば、従業員を解雇することは非常に難しくなります。
それは、経歴詐称をしてくるような従業員であっても同じです。
明らかに従業員側に問題があって解雇しても、裁判に訴えられれば、弁明の機会を与えてない、手順を踏んでないなどを理由に、解雇を無効とされることがしばしば起こります。
このような労使トラブルに経営者の労力・時間・お金が割かれてしまうことは、損失でしかありません。
泥沼の労使トラブルにハマらないためには、自社の方針に合わない人を最初の段階で見抜き、採用しないようにしておくことが重要です。
この記事では、採用時の履歴書等を使った調査方法について解説いたします。
採用前に応募者の調査をしなくてはいけない理由
個人情報の取得にセンシティブな取扱いが求められる昨今、応募者に突っ込んだ質問や書類の提出をすることは控えなくてはと思われるかもしれません。
ですが、ある程度のことは聞いておかなければ、問題社員を採用してしまい、それが労使トラブルを招いたり、職場の規律を乱すことに繋がったりしてしまいます。
そのような問題社員でなくても、採用のミスマッチから、
- 会社の主張→期待していたスキルがなかった
- 従業員の主張→労働条件が聞いていたのと違う
といった不満を持ち、それが早期離職や労使トラブルへの発展といったケースを招くことになりかねないでしょう。
このようなトラブルを避けるには、応募者へ確認すべき事項を漏れなく記載した履歴書(新規中卒者・新規高卒者の場合は除く)や、卒業証明書などの書類提出、それ以外の質問等の準備をしておくべきです。
とはいえ、どのような情報なら取得でき、どのような情報を取得すれば法律違反になるのか、その線引きはしておかなくてはいけません。
企業には「採用の自由」が認められている
まず、企業には「採用の自由」があり、応募者の調査をすることも認められていることを知っておきましょう。
採用の自由とは
- 誰を雇うか
- 何人雇うか
- どのような労働条件で雇用契約を締結するか
- 採用の判断のために調査すること
が企業に認められていることです。
民法521条には、「契約の自由」が定められていて、雇用契約の場合にも契約の自由が適用されます。
(契約の締結及び内容の自由)
第五百二十一条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
民法521条
企業は応募者の思想信条を理由に採用を拒否しても良い
ただし、実際の会社と労働者では、その力関係は圧倒的に雇う側の会社の方が上となります。
民法の想定している対等な関係での契約の自由だと、労働者が不利な立場に追いやられてしまうでしょう。
そこで、労働者を保護する目的で、労働基準法や労働契約法といった労働法が定められています。
とはいえ、労働基準法にあるのは、雇用後の差別的待遇を禁止する法令(労働基準法3条)で、採用の自由を規制する定めはありません。
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
労働基準法3条
憲法19条には、思想の自由が認められていて、何人たりともこれを犯すことはできません。
すなわち思想信条を理由に、雇用後に待遇差をつけることは労働基準法3条に反することになりますが、採用の段階では、思想・信条を理由として採用を拒んではいけないとはなっていないのです。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
日本国憲法19条
「採用の自由」と「調査の自由」はセット
さらに、企業が「採用の自由」を行使するための、「調査の自由」も認められています。
企業が採用の採否を判断するには、応募者の情報が必要で、採用の自由と調査の自由はセットといってもいいでしょう。
実際、最高裁の判例(三菱樹脂事件)では、企業が応募者の調査を行うことについて、「違法行為とすべき理由はない」としています。
(企業に採用の自由がなければ、申し込まれたら誰でも採用しなくてはいけないことになり、それはそれでおかしくなりますし、応募者の情報を何も知らずに、雇う人を決めろというのも無茶な話です:筆者私見)
したがって、応募者のことを履歴書や、その他の提出書類、別途質問用紙等から調べることは、後に述べる法律に触れない範囲でなら違法ではありません。
実質は調査の制限はある
その一方で、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」では、採用選考時に配慮すべき事項として次のものを挙げています。
a本人に責任のない事項の把握
- 本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
- 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
- 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
b本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条などに関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
c採用選考の方法
公正な採用選考の基本
- 身元調査などの実施 (注:「現住所の略図等を提出させること」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
- 本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
- 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
厚生労働省の示したガイドラインは、企業が持つ採用の自由と矛盾しますが、職安法5条の5に関する指針(平成11年労働省告示第141号)にも、下記の事項について個人情報を収集してはならないとしています。
- 人種
- 民族
- 社会的身分
- 門地
- 本籍
- 出生地
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
ただし、特別な職業上の必要性が存在すること、その他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合は取得することができます。
(求職者等の個人情報の取扱い)
第五条の五 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、特定募集情報等提供事業者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
職業安定法5条の5
職業安定法とは、求人や職業紹介におけるルールに関する法律の一つで、採用選考時について定めた法律ではなく、採用の自由と矛盾しない建付けにはなっています。
ですが、職業安定法や以下で紹介するような他の法律で、採用を制限されており、これらに触れる形で調査や拒否を行うと、採用の自由とは関係なく、法律違反を問われる可能性が高くなります。
男女雇用均等法
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
男女雇用均等法5条
(事業主の責務)
障害者の雇用の促進等に関する法律
第五条 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。
障害者の雇用の促進等に関する法律5条
労働組合法
労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
労働組合法7条1
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
第九条 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律9条
職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについて
事業者は、労働者の採用選考を行うに当たって、HIV検査を行わないこと。
職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについて
企業には採用の自由が認められていますが、応募者に質問をする際は、何が法律に触れるかは理解しておくべきです。
なお、どうしても知っておきたい情報があるときは、
- 業務上、応募者のその情報が必要となる合理的な理由があるかを考える
- 必要性があるなら、業務上の必要性を応募者に丁寧に説明する
- 応募者の納得を得たうえで、情報を取得することに同意を得る
という手順を踏まなくてはいけません。
以上の、取得して良い情報や取得してはいない情報、採用時に禁止されている事項を踏まえて、応募者を調査する必要があります。
応募者の調査方法
問題社員の採用を防ぐには、経歴詐称がないか、過去にトラブルを起こしたことがないかを調べることが重要です。
また、問題社員ではないですが、メンタルを含む病歴も調べておかないと、雇用後に長期休職になったり、もし自死などの事故が起きたりした場合は、企業は安全配慮義務違反を問われることになります。
企業が安全配慮義務違反になると、高額の損害賠償を命ぜられることもあります。
そのため、法律に違反しない範囲で、採用候補者の情報はきちんと知らべておくことは、労使トラブル対策となります。
1.学歴
学歴は採用の採否に大きく影響する項目です。
学歴ですべて判断できるわけではありませんが、学歴はその人を判定する一般的な目安であり、何も知らない人を評価する上で重要な要素になります。
また、大卒と高卒では、やはり給与などの待遇面も変わります。
それだけに、学歴を詐称されてしまえば、採用の判断を大きく歪められてしまい、適正な評価での雇用ができなくなってしまいます。
履歴書に記載されている学歴が本当かどうかのチェックは大切です。
学歴詐称の具体的パターン
学歴詐称を見抜く方法は、以下の調査法があります。
a.卒業証明書を提出してもらう
履歴書の記載だけでなく、入学・卒業年月、学位、専攻、卒業の有無などについて卒業証明書を提出してもらいます。
新卒で卒業前であれば、学校から証明書を発行してもらいましょう。
b.直接学校に問い合わせる
直接学校に問い合わせる調査方法です。
ただし、本人の同意書(または委任状)がない限り、第三者の紹介に学校が応じることはないので、応募者本人から同意書を得ることがポイントになります。
学歴詐称は解雇できるか?
学歴詐称をした人を採用してしまった場合、学歴詐称を理由に解雇できるでしょうか?
学歴詐称を理由に解雇できるケースは、「重要な経歴詐称」に当たる場合です。
重要な経歴詐称とは、
「その学歴詐称が事前に発覚したとすれば、事業主は雇入契約を締結しなかったか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろう場合」
です。
単に学歴を偽っていただけでは、学歴詐称を理由に解雇することは難しいといえます。
詳しくは、「学歴詐称で入社した従業員は解雇できるか?」をご覧ください。
2.職歴
中途採用の狙いは即戦力ですが、その能力を測るのに、職歴は重要な判断材料になります。
「この職歴があるから、御社が募集している〇〇業務に適材です」と、事業主にアピールするわけですから、その職歴が嘘だとなると、予定していた労力も、それに見合った賃金も、すべての前提が崩れてしまいます。
このような事態を招かないために、職歴はしっかりチェックしておきたいところです。
職歴のチェックには、下記の調査方法があります。
a.リファレンスチェック
リファレンスチェックは、応募者の同意の上で、前職の上司や同僚に、面談、電話、メール等でインタビューし、前の職場での様子を調べる方法です。
ただし、リファレンスチェックは、企業側が人物を選ぶタイプと、応募者が指定した人物に行われるタイプがありますので、混同しないようにしましょう。
b.退職証明書
退職証明書は、会社を退職した事実を証明する書類です。
労働基準法には、会社は労働者から請求があった場合は、退職証明書を交付しなくてはならないと義務付けられていて、在職中は退職証明書の交付を求めることはできません。
退職理由
第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
労働基準法22条
退職証明書には、下記の内容が記載されますので、前職の経歴以外にも採用のヒントにできる情報があります。
- 勤務期間
- 業務の種類や内容
- その事業における地位
- 賃金
- 退職理由
ただし、退職証明書は、下記注意点があるため、必ずしも前職の情報をすべて知ることができるわけではない点に注意しましょう。
- 退職から2年経てば交付を求めることができなくなる
- 退職証明書に記載できる内容を退職者が選ぶことができる
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
労働基準法115条
前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
労働基準法22条3
c.雇用保険被保険者証、年金手帳、源泉徴収票
雇用保険被保険者証、年金手帳、源泉徴収票からも、履歴書の掲載事項との違いを確認できるケースもありますが、これらは入社後に提出される書類のため、説明を省きます。
職歴を詐称した人物を解雇できるか?
職歴詐称をした人物を入社させてしまった場合、職歴詐称を理由に解雇できるでしょうか?
職歴詐称の場合は、解雇は認められやすい傾向にあります。
職歴については、事業主が採用を判断する要素としてのウエイトは重たく、経験者募集で求人したのに対し、経験者を偽った未経験者を採用してしまえば、
- 本来なら雇わない人を雇ってしまう
- 予定していた業務内容をこなせない
- 労力に見合わない賃金を支払うことになる
といったことが起こります。
これは「知っていれば雇用しなかった」重大な経歴詐称に該当する可能性が高くなり、懲戒解雇にされた場合でも、裁判所は有効とする傾向があります。
詳しくは、「職歴を詐称して入社した中途採用の従業員を解雇できるか?」をご覧ください。
職歴を詐称されても一度雇用すると解雇は難しくなる
ただし、職歴詐称といえど、一度雇用してしまえば、経歴詐称のみを理由に解雇することは難しくなります。
裁判では
- 詐称された経歴が、採用の否決にどの程度影響したか?
- 詐称した経緯
- 採用後の、職務遂行能力、資質
- 実際の損害の程度
などを総合的に勘案して、解雇が有効か無効かを判断されます。
そのため、やはり採用試験の段階で、職歴詐称を見抜いておくことがベストです。
3.犯罪歴
犯罪歴の調査方法は次の方法があります。
a.履歴書の賞罰欄
履歴書の賞罰欄の「罰」に記載しなくてはいけない罰とは、下記の刑の確定した有罪判決の「前科」になります。
- 懲役
- 禁固刑
- 罰金刑
- 道路交通法違反の刑事罰
ただし、前科があっても、「刑の言い渡しの効力」が消滅したものについては、罰に該当しません。
刑の言い渡しの効力が消滅するのは、一定期間に罪を重ねないことを条件に、犯罪を起こした人の社会復帰を促すための趣旨があるからです。
そのため、刑の言い渡しの効力が消滅した犯歴について、応募者が履歴書に記載していなくても、詐称とはいえません。
(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
刑法27条
有罪判決以外の前歴については、賞罰欄の罰には該当しません。
したがって、応募者が執行猶予中や裁判中などであった場合、履歴書に記載されていなくても、履歴書に不記載をもって詐称には問えません。
詳しくは「【採用担当者用】応募者が履歴書の賞罰欄に記載すべき罰と記載しなくてもよい罰を解説」をご覧ください。
懲戒解雇は履歴書に記載しなくても良い
ちなみに、懲戒解雇も「罰」に該当しないため、履歴書に記載しなくても詐称とはなりません。
そのため、前職を懲戒解雇されたかどうかは、退職理由についてあらためて質問等をして確認する必要があります。
詳しくは「前職で懲戒解雇にされたことを隠して採用された従業員を解雇にできるか?」をご覧ください。
b.採用面接時の質問等
上記で説明した通り、犯罪歴を履歴書のみで調べるのは無理があります。
そのため、懲戒解雇の有無や前歴の罰についても調査したいときは、質問等で確認すべきです。
厚生労働省が示した「公正な採用選考の基本」にある採用選考時に配慮すべき事項には、犯罪歴や懲戒解雇について質問してはいけないとされておらず、質問したからといって法令に触れるわけではありません。
その一方で、過去の判例では、犯罪歴について事業主が質問しなければ、応募者に申告する義務はないとするものがあります。
つまり、企業側が確認を怠ったのだから、それをもって犯罪歴を隠した(嘘をついた)とはいえないということです。
さらに、その他の判例では、事業主から聞かれていないのに、応募者からわざわざ不利な情報を申告する義務はないとするものもあり、犯罪歴等について企業側が質問せずに雇用してしまった場合、企業側にも責任があるというのが、裁判所のスタンスになります。
それに対し応募者には、事業主の質問に対して、真実を申告しなくてはいけない信義則上の義務があるというのが、裁判所の考えです。
要は、応募者は正直に犯罪歴等を申告する義務はあれど、聞かれてないことまでは答えなくて良いということです。
このような判断が裁判所にある以上、犯罪歴等の有無を企業側が確認したいときは、応募者に質問しておくべきといえるでしょう。
ただし、犯罪歴や懲戒解雇の有無について質問する場合でも、
- その経歴を聞くことが業務にどのような影響を与えるかを具体的にする
- その具体的な理由を応募者に提示する
- 犯罪歴等について質問することに本人の同意を得る
このようなステップを踏むことが、問題を拡大させないための対策となります。
※身元調査自体は配慮すべき事項になっていますので、理由や同意なく犯罪歴等を調査する場合は、問題になる可能性があります。
なお、少年時代の非行歴・補導歴についても、確定した有罪判決とはならないため、応募者が答えなくても詐称にはなりません。
犯罪歴を詐称して入社した従業員を解雇できるか?
もし、犯罪歴を隠して採用に合格してしまった従業員がいた場合、犯罪歴詐称を理由に解雇できるでしょうか?
判例によれば、
- 事業主がその犯罪歴を知っていたら雇用しなかったであろうと認められる
- 雇用しなかったであろう理由に合理的客観性がある
- 経歴詐称によって会社に与えた損害が大きい
などの場合は、「重大な経歴詐称」となり、解雇が認められる可能性が高くなります。
とはいえ、犯罪歴詐称という場合でも、一度雇用してしまえば、簡単に解雇はできないということには注意しなくてはいけません。
4.病歴
応募者の病歴に関する情報は、プライベートに属するセンシティブな情報で、採用の判断にも大きな影響を与えます。
やはり、大きな病気を抱えている応募者は、業務への影響をどうしても考えてしまいますし、パフォーマンスが発揮できないのであれば、採用を見送りたいのが経営者の本音でしょう。
このように、採用の採否に大きく影響する健康情報ですが、厚生労働者の示す「採用の選考時に配慮すべき事項」では、「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を挙げています。
一見すると病歴について質問等をしてはいけないのかと思われますが、ここで挙げられているのは、「合理的・客観的必要性が認められない」ケースであり、逆にいえば、合理的・必要性があれば健康状態を調べることは可能になります(もちろん無制限ではありません)。
ただし、応募者の健康状態や病歴を調べるには
- 健康状態や病歴を取得する目的を具体的にする(健康状態や病歴が業務にどう影響するのか)
- 健康情報を取得する範囲を決める(参考にすべき項目は労働安全衛生法規則43条)
- 健康情報を取得することを応募者に公表・告知する
- 健康情報を取得することに応募者に同意を得る
というステップを踏む必要があります。
病歴などのセンシティブな個人情報は、「要配慮個人情報」となり、事業主が取得する際は、本人の同意がなくてはならないことに注意です。
また、B型肝炎やエイズウイルスといった情報を取得すると、不法行為や損害賠償の対象となる場合があります。
応募者の健康情報を取得するときは、慎重に進めて、大きなトラブルへと発展しないようしなくてはいけません。
詳しくは、「病歴詐称の従業員を解雇できるか?」をご覧ください。
5.メンタル系疾患
メンタル系の疾患は再発率も高く、再発すれば、欠勤を繰り返したり、長期の休養を余儀なくされることもあり得ます。
また、安全配慮義務の観点からも、労災事故等で多額の損害賠償を命じられることもあります。
たとえば東芝事件では、過重労働が原因でうつ病を発症して解雇された従業員が、不当解雇を訴えた裁判では、裁判所は6,000万円の損害賠償を会社側に命じています。
このようなリスクがある以上、メンタル系の疾患歴がある人の採用の採否に、企業はより慎重にならざるを得ないでしょう。
仮に採用する場合でも、業務内容に配慮が必要になるため、過去を含めたメンタル疾患の有無については、企業としては把握しておきたいところです。
とはいえ、メンタル系の病歴は個人情報の「要配慮個人情報」になり、取扱いに一層の注意が必要になりますが、応募者へ質問等をすることはできます。
ただし、下記のことを守って聞く必要があります。
- 応募者の病歴を取得することに、業務上の合理的必要性があること
- 病歴情報を取得しなくてはいけない理由を、応募者に公表すること
- 病歴等の情報を取得することについて、応募者本人の同意を得ること
ちなみに、要配慮個人情報を本人の同意なく取得することは、個人情報保護法で禁止されており、応募者の同意を得ることはマストになります。
2 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
個人情報の保護に関する法律20条2
病歴・メンタル疾患を隠して入社した従業員を解雇できるか?
病気やケガやメンタル系疾患があるにもかかわらず、それを隠して採用された従業員を解雇できるでしょうか?
これは、その病気やケガや精神疾患が、どの程度業務に支障が出るかによって決まります。
業務に支障が出ない程度の病気やケガや精神疾患であれば、解雇は無効とされる可能性が高くなります。
病歴や精神疾患の詐称は、事業主にすれば騙された気分かもしれませんが、一度採用してしまえば、簡単には解雇できないのはすべての経歴詐称に共通していることです。
経歴詐称のみを理由に解雇するのはハードルが高くなる
学歴、職歴、犯罪歴、どの経歴詐称もそうですが、一度雇用してしまえば、経歴詐称だけを理由に解雇することは難しくなります。
経歴詐称を理由に解雇できるケースとは、「重要な経歴詐称」に該当する場合であり、それは
- 経歴詐称を知っていたら、採用しなかったであろう場合
- 経歴詐称されたことで、会社が損害を受けた場合
といった条件を満たしていときは、解雇が認められやすくなります。
経歴詐称であっても、従業員になってしまえば、解雇規制は当たり前に適用されるのです。
だからこそ、採用の際に、経歴詐称を見抜くことが重要になりますし、仮に経歴詐称した人物を入社させてしまった場合でも、しっかりした手順を踏んでおけば、詐称の証拠を残すことができ、退職勧奨を行う場合や、裁判に発展してしまった場合でも、会社に有利に進められることができます。
履歴書・職務経歴書のチェックポイント
応募者の提出する履歴書や職務経歴書からも、嘘を見抜くポイントはあります。
1.職歴の会社の存在
履歴書や職務経歴書に記載されている会社の存在を確認しましょう。
今やホームページのない会社の方が少ないくらいで、検索すれば会社の存在を簡単に調べられます。
もし検索にヒットしなければ、何かしら疑ってみるべきかもしれません。
2.入社年月日と退職日
経歴の入社年月日と退職日に空白期間がなく、連続している場合は詐称を疑ってみても良いかもしれません。
前職を退職してから次の就職先まで、空白期間なく転職が決まることはあるかもしれませんが、毎回、同じように転職できるかは、疑問の余地が残ります。
3.部署や役職
所属していた部署をあいまいにして答えられない場合や、管理職で何人部下がいたか、どれくらいの実績があったかを答えられない場合は、何かしら嘘をいっている可能性があります。
面接時に、履歴書や職務経歴書との違和感を覚えたら、その違和感をそのままにしないで、きちんと質問しておきましょう。
意外に違和感が的中するかもしれません。
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