高齢者雇用安定法により、65歳までの雇用継続が義務化されました。
さらに、2021年の法改正で、70歳までの雇用継続も、努力義務とされました。
60歳定年制を導入している企業では、高齢者雇用安定法に対応した制度へと変換していかなくてはいけません。
就業規則もそれに伴って見直しが必要です。
企業は高齢者雇用安定法8条・9条に対応しなくてはいけない
定年年齢は、原則として60歳を下回ることはできません。
もし、60歳を下回る年齢を、定年年齢に設定しても無効となります。
事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 8条
そのうえで現在は、60歳から65歳未満で定年に達した人が雇用の継続を希望する場合は、65歳まで雇用しなくてはいけない義務が会社にはあります。
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 9条
上記の65歳までの雇用継続に、企業は次の措置の中から選んで実施しなくてはいけません。
- 65歳までの定年の引き上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度・勤務延長制度)
- 定年制の廃止
②の継続雇用制度の「再雇用制度」とは、定年で一度退職した人と新たに雇用契約を結ぶ制度です。
もう一方の「勤務延長制度」とは、定年を迎えた従業員を退職させず、そのまま雇用する制度です。
②の継続雇用制度は、2025年3月末で、下記の経過措置が終了します。
- 2013年4月1日~2016年3月31日…61歳以上の人に対して
- 2016年4月1日~2019年3月31日…62歳以上の人に対して
- 2019年4月1日~2022年3月31日…63歳以上の人に対して
- 2022年4月1日~2025年3月31日…64歳以上の人に対して
この経過措置が終了する2025年4月以降、継続雇用制度を導入する場合は、原則として、定年を迎えても「働きたい」と希望する従業員は全員雇用しなくてはいけません。
とはいえ、経過措置が終了するからといって、65歳での定年が義務化されているわけではないことに注意です。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律で義務付けされるのは、「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度・勤務延長制度)」「定年制の廃止」の3つの内の1つの措置です。
3つの措置の中から、「65歳までの継続雇用制度」を選べば、必ずしも65歳定年制度を導入しなくても良いということです。
法改正で70歳までの雇用継続が努力義務となった
ただし、高年齢者雇用安定法は2021年4月に改正され、企業に70歳までの雇用を努力義務としました。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業)
今のところは努力義務ですが、高齢化社会を迎える日本では、70歳までの雇用はいずれ義務化されることも予想され、その意味では、70歳までの継続雇用制度も視野に入れておくべきでしょう。
使用人兼務役員についても処遇を考えておく
使用人兼務役員については、雇用契約となる従業員の立場と、委任契約の役員の立場を兼ね備えています。
そのため、役員を退職した場合、従業員としての定年年齢を迎えた後の対応を考えておかなくてはいけません。
使用人兼務役員がいらっしゃる場合は、就業規則にて定めておきましょう。
60歳定年後の再雇用の労働条件は、定年前と同一でなくても良い
65歳までの継続雇用について、定年を迎えた従業員が一旦退職し、その後、企業とあらためて雇用契約を結ぶ再雇用制度の場合、就業時間、賃金、勤務日数など、定年前と労働条件を同じにする必要はありません。
この点判例(東京地裁、平成30年)においても、定年前の正社員のときの給与と、再雇用された嘱託社員(または臨時社員)のときの給与の差異について、
- 嘱託社員は、正社員と違い長期の雇用を前提としてない
- 嘱託社員の賃金は、年功序列的性格も含まれていない
- 嘱託社員は、役職に就くことも予定されてない
と、正社員の嘱託社員では、賃金制度の違いがあることを指摘し、
「業務の内容や責任の範囲や程度、配置変更の有無などを考えると、正社員時代に比べ嘱託社員時代の賃金が低いことは不合理とはいえない」
としています。
定年前と定年後の再雇用契約で、労働条件が異なってくるのであれば、それに合わせて再雇用後の賃金等の労働条件を低く設定することも、事業主の豺狼として認められているということです。
高齢者雇用安定法の趣旨と年金収入
さらに、名古屋高等裁判所の判例では、高齢者雇用安定法9条1項に触れ、この法律の趣旨は、60歳定年後、老齢厚生年金が支給されるまでの無収入期間を防ぐことにある、としています。
そのうえで、定年前と定年後の再雇用の賃金格差を判断する場合、年金収入につていても考慮しなくてはいけないとしています。
この判例では、老齢厚生年金が年間148万円の収入に対し、再雇用後の1年間の総賃金127万円にあり、給与が年間収入の85%あることをもって、
無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない
としています。
したがって、再雇用後の給与を決めるときは、老齢厚生年金の額も考慮するべきといえるでしょう。
少子高齢化の進む日本では、年金受給開始年齢が上がることもあり得ます(70歳までの雇用継続が努力義務になったことは、高齢者雇用安定法の趣旨と合わせて考えると、年金無支給期間を作らないための措置と捉えることができるでしょう)。
その際、賃金を決めるには、やはり年金支給額との兼ね合いを見る必要があるといえます。
定年前の賃金の75%減が問題となった事例は、「定年前の75%給与減額。こんな就業規則の不利益変更は許される?!」をご覧ください。
定年前のキャリアを無視した再雇用契約も問題となる
定年から再雇用する場合は、定年前と再雇用後で労働条件に差異をつけることは、裁判所も認めています。
ただしそれは、合理的な理由がある前提の話です。
極端に賃金を低くしたり、定年前のキャリアを無視した業務の変更は、問題となってきます。
それは高齢者雇用安定法の趣旨に反するからです。
たとえば、トヨタ自動車ほか事件では、60歳定年後の再雇用で、事務の雑用掛かりという定年前と全く異なる業務に就かされたことが問題となりました。
これついて裁判所は、
60歳定年後に、年金を受給する間に、無年金・無収入の期間を防ぐ趣旨が、高齢者雇用安定法にはある
としたうえで、
「到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合」
は、高齢者雇用安定法の趣旨に反し、認められないとしています。
つまり、給与を低くすることはもちろんのこと、キャリアを無視した業務に就かせることも、雇用継続することを困難にする要因となるのだから、そんな措置は法の趣旨に反するから認められませんよ、ということです。
ちなみに、この裁判でも、60歳定年後の再雇用の労働条件について、
「定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量がある」
として、事業主に裁量権があることを認めています。
定年前と定年後の賃金では、労働条件が変わるため、差異をつけることは裁判所も認めていますが、それが行き過ぎると否認されることになります。
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