従業員が退職する場合、その種類は下記の3つに分けられます。
名称 | 内容 |
合意解約 | 従業員と事業主の双方が合意して労働契約を終了させること |
辞職 | 従業員が一方的に労働契約を終了させること |
当然退職(自然退職) | 労使双方から意思表示なく労働契約が終了すること |
一口に退職といっても、それぞれに意味合い異なるため、就業規則にて別々に規定しておくべきです。
退職の原則
民法627条1項には、労働契約の解約について次のように定められています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
民法627条1項
民法627条1項は、
- 労働者にとっては突然の解雇で生活の基盤を失うことを防ぐ目的
- 事業主にとっては従業員に突然辞職されることで業務に支障を来すことを防ぐ目的
で設けられた規定とされています(リバーサイド事件)
このように労使共に保護される目的がある一方で、労働者には、労働基準法20条で30日というさらなる予告期間が延長されています。
これに対し事業主には、そのようなは規定は設けられていません。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
労働基準法20条
その他にも、労働者側には、損害賠償を予定する契約の禁止や、前借金等と賃金の相殺を禁止など、労働者の自由が不当に拘束されることを防ぐ法律があります。
このことからも分かるように、法は、労働者の解約の自由を保障する立場を取っています。
したがって、民法627条1項に定めらた2週間以上の予告期間を超える期間を、就業規則等で定めても、労働者の自由を不当に拘束することになるので無効となります。
従業員が退職を申し出たときは、基本は2週間経過すれば拒むことはできない、これが原則です。
そしてこのような形態で退職することを「辞職」と呼びます。
とはいえ、従業員が退職する場合は、一方的に退職を申し出るケースばかりではなく、会社と合意して退職するケースや、会社と従業員のどちらからも意思表示しないまま退職するケースもあります。
そこで、就業規則も退職のケースに合わせて、それぞれ定めておくのが、トラブルを防止する意味で大切になります。
1.合意解約
合意解約とは、従業員と事業主の双方が、合意して労働契約を終了させることをいいます。
従業員に突然辞められれば、業務が回らないなどの支障を来すこともあります。
そこで、退職の30日前までなどに、退職を申し出てもらい、引継ぎ等を済ませて、円満に退職してもらう形を採るのがこのケースです。
ただし、気をつけなくてはいけないのが、合意解約のためには、あたかも事業主の承諾が必要と読み取れるような就業規則の条文を記載してしまうことです。
前述したように、民法627条1項は、労働者が不当に拘束されないことを目的としており、かつ、強行規定の性質を持っています。
事業主の承諾を得ていなくても、従業員は退職の申し入れをして2週間経過すれば、法的に止める手段はなくなります。
にもかかわらず、事業主の承諾を得なくていけないような書き方は、従業員に誤解を与えかねません。
その結果、退職を申し入れても引き留めに遭う、ややもすれば退職を認めてもらえない、という印象を持ってしまうかもしれません。
そうすると面倒に巻き込まれたくない心理が働き、引継ぎを可能にできる合意解約ではなく、一方的に契約を終了される辞職を選択されることになってしまうかもしれないのです。
これでは、職場を混乱させる原因となります。
退職について、事業主の承諾を得なくては認めないような書き方はしないでおくべきです。
2.辞職
辞職は前述した通り、従業員の一方的な意思表示により、労働契約を終了させることをいいます。
退職は、従業員が解約を申し入れてから2週間を経過すれば成立し、それ以上の予告期間を就業規則等で定めても無効となります。
辞職と合意解除の違いの一つに、「退職の撤回」が挙げられます。
辞職は、退職の意思表示が事業主に到達した時点で、予告期間の2週間が確定し、従業員は原則として退職を撤回できません。
それに対し合意解約は、事業主の承諾の意思表示があるまでの間は、従業員は退職を撤回できます。
逆に言えば、退職の撤回のできる合意解約の場合は、きちんと退職したことを確定しておかないと、戻ってきてほしくない従業員が戻ってきてしまうこともあるということです。
このような違いが辞職と合意解除ではあるため、別々の規定を定めておくことが大切です。
3.当然退職(自然退職)
当然退職は、労働者、会社からの意思表示がなく、労働契約が終了することをいいます。
当然退職が適用されるケースには下記のものがあります。
- 死亡
- 私傷病休職から復帰できないとき
- 行方不明
- 定年に達したとき
就業規則には、私傷病から回復しないときや、行方がわからなくなった場合、解雇にするものもありますが、それだと、解雇の意思表示を従業員に到達させなければいけないという、民法97条1項の規定を満たさなくてはいけなくなります。
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
民法97条1項
従業員の所在が明らかなら良いですが、行方不明の場合、どのような手段で解雇の意思表示をするかが問題となってきます。
そのため、私傷病休職から復帰できないとき、行方不明のときは、就業規則にて当然退職となるように定めておく方が、その後の対応がしやすいといえます。
私傷病で従業員を休職させるときの注意点は「私傷病の従業員への休職のルール。解雇や休職中の手当はどうするべきか?」をご覧ください。
退職届の提出は就業規則で義務付ける
なお、従業員が退職する際は、それが合意解約であっても、辞職であっても、必ず退職届は提出させるように、就業規則にて義務付けましょう(当然退職なら従業員と連絡が取れる場合)。
この退職届は、自らの意思で「退職する」という意思表示した証拠です。
逆にいえば、会社が「解雇」したわけではない、といえる重要なエビデンスとなります。
解雇は従業員側に問題があっても、適正な手順を踏まなければ、解雇を無効とされる怖れがあります。
普通解雇の正しい手順は「普通解雇に必要な手順を解説」をご覧ください。
たとえば、問題社員と退職勧奨で退職の合意を取り付けた場合でも、心変わりして後から「解雇された」と言い出したときに、退職届を受け取っていなければどうなるでしょう。
裁判所は、会社が「口頭で退職すると聞いた」主張しても認めてくれないことが判例からわかっています。
会社としては、問題社員が戻ってくることは、絶対に避けなくてはいけません。
そのため、従業員が退職の意思表示をした証拠となる退職届の提出は、マストにしなくてはいけないのです。
退職届の提出について詳しくは、「退職する従業員に「退職届(退職願)」の提出を義務付けなくてはいけない理由」をご覧ください
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