ハローワークなどに出す求人票に記載してある労働条件は、それ自体が雇用契約の内容となります。
つまり、求人票の条件を見て申し込んだ求職者と雇用契約を交わしたなら、当事者間で別の合意をしない限り、求人票にある労働条件で雇わないといけないということです。
もし、求人票の内容と違う労働条件で雇用したいときは、変更内容を労働者に明示しなくてはいけません。
仮に労働条件の変更を明示しないまま雇用すれば、求人票の内容が適用されます。
求人票の労働条件を変更する場合は、その内容を明示しなくてはいけない
求人票の内容と違う労働条件で求職者と雇用契約を交わしたいときは、事業主は変更したい内容を労働者に明示しなくてはいけないとされています。
求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限る。)は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であつて、これらの者に対して第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下この項において「従事すべき業務の内容等」という。)を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない。
職業安定法5条の3第3項
もし、事業主が求職者に対して、求人票の内容と違う労働条件で雇用することを明示しないまま採用してしまうと、求人票の労働条件が適用されることになります。
たとえば、求人票と異なる労働条件への同意が争われた福祉事業者A苑事件があります。
これは、求人票には「定年制なし」と記載していたにもかかわらず、実際は定年制があり、その求人票の労働条件の変更を明示しないまま採用通知を出した事例です。
採用された労働者は、期間の満了と共に解雇され、その無効を訴えたのでした。
これについて裁判所は
- 求人票は、事業主が労働条件を明示したうえで、求職者から応募を募るもの
- 求職者は、求人票の労働条件で雇用されると期待して申し込む
- 当事者で個別の合意をするなど特段の事情がない限り、求人票の労働条件が雇用契約の内容とするのが相当
としました。
したがって、求人票に記載されていた「定年なし」が、雇用契約の内容として成立していたと判断されたのです。
労働者の「同意があった」の判定基準
またこの事例では、「労働者の同意」があったかどうかも争点になりました。
この判例を読むと、どうやら労働条件の不利益変更について、事業主から説明があり、その承諾を署名押印した労働者の同意書があるようでした。
しかしこの同意について裁判所は、
- 変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
- 労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様
- 当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等
を総合判断し、労働者がした同意が
労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきもの
としたのでした。
そして、労働条件の変更について、労働者の同意を得たとは認められないとの結論にいたっています。
単に同意書に署名押印してもらったからといって、それが即、同意したことの証明とはいえないということです。
事業主と比べ、労働者は弱い立場にあり、情報収集能力も劣っています。
そのような立場を鑑みるに、労働者が同意したといえるには、自分の意思で行ったかどうか、しかも、それを証明する合理的な理由が客観的に存在するか否かが必要としたのでした。
労働条件の不利益変更を行うときは、慎重に進めなくてはいけません。
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求人票の労働条件=雇用の労働条件と認識しておく
休職者からの応募を増やそうとして、求人票に労働条件を釣り上げるのはもってのほかですが、雇われた後に、求人票と労働条件が違うとなると、これは労使トラブルの元になります。
仮に、求人票の労働条件と異なる労働条件にするときは、その変更を労働者に速やかに明示する義務があります。
また、同意を得た場合も、労働者の自由な意思で行われていなければいけません。
まずは、求人票の労働条件=雇用するときの労働条件であることを、事業主はしっかり認識しておくべきでしょう。
もとより、求人情報は虚偽の表示、誤解を招く表示をしてはならないとされています。
共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(以下この条において「広告等」という。)により求人若しくは労働者の募集に関する情報又は求職者若しくは労働者になろうとする者に関する情報その他厚生労働省令で定める情報(第三項において「求人等に関する情報」という。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。
職業安定法5条の4
ちなみに、雇用契約の成立とは、
- 求人への申し込み→労働者の雇用契約への申し込み
- 事業主の内定通知→雇用契約の申込みへの承諾
とされています。
つまり、入社日より前に内定通知を送っているときは、その時点で申し込んだ労働者と雇用契約が成立しているということです。
したがって、労働条件を変更する場合も、事が複雑化するのを避けるため、雇用契約の成立前にしておくべきといえます。
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