従業員への不利益変更を行うには、事業主は従業員と合意をすることが要件となっています。
しかし、あまりにも大幅な労働条件の不利益変更は、権利の濫用として不法行為とされてしまう可能性があります。
不利益変更は労使トラブルに発展しやすい
不利益変更とは、労働条件を今の状態より悪くすることをいいます。
- 賃金を減額する
- 退職金を減額する
- 福利厚生制度を廃止する
などです。
賃金や退職金は従業員の生活に大きく影響してくるため、労使トラブルに発展しやすいといえます。
そのため、労働条件の不利益変更を行う場合は、より慎重に進めていかなくてはいけません。
とくに、減額幅が大きい場合は注意が必要です。
たとえば、いきなり大幅減額を導入するのではなく、段階的に進めていき、ショックを和らげる緩和措置を行っていくことです。
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不利益変更が不法行為とされた事例
しかし、大幅な減額をも超える極めて大きな減額は、それ自体を権利の濫用として無効とされる可能性があります。
たとえば、九州惣菜事件です。
これは、定年退職した従業員を、高齢者雇用安定法に基づき、定年後に短時間労働者として再雇用した会社が訴えられた事例です。
この会社は、再雇用の条件として、定年前の賃金の75%の減額を提示しました。
この条件を定年退職した従業員は拒否し、争いに発展しました。
これについて裁判所の判断は
- 定年退職した従業員の、到底受け入れがたい労働条件を提示することは、継続雇用制度の導入という高齢者雇用安定法の趣旨に反し、違法性がある。
- 再雇用後の賃金(定年前の25%程度)を、高齢者雇用安定法の趣旨に沿うものといえるためには、大幅な減額を正当化できる合理的な理由が必要である。
- しかるに、賃金の75%も減額につながる短時間労働者への転換を正当化する理由があるとは認められない
とし、裁量権を濫用した不法行為としたのでした。
就業規則の不利益変更には合理的な理由が必要
75%の減額は、明らかにやり過ぎですが、労働条件の不利益変更は、必要性があれば認められるというものではありません。
まず、不利益変更をせざるを得ない合理的な理由が必要です。
合理的な理由とは、
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
で、これらの状況を総合的に判断して、不利益変更の必要性を判断されます。
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
労働契約法10条
もし、経営状況の悪化などから、従業員に大幅な不利益変更を求める場合は、たとえ、合理的な理由があったとしても、緩和措置を入れるなどして、より慎重に進めていかねば否認される怖れがあります。
高齢者雇用安定法により、企業は65歳まで雇用継続することが義務化されました。
その際、上記九州総菜事件のように、賃金を極端に低額にしてしまうと、不法行為とされてしまいます。
ただし、定年前と定年後の再雇用で、賃金などの労働条件に差異を設けることは、事業主に認められた裁量としていて、必ずしも違法となるわけではありません。
要は、法の趣旨を理解して、それに沿った労働条件を整えることが重要です。
高齢者雇用安定法の趣旨や、それに合わせた労働条件の設定方法は、「60歳定年の従業員には、高齢者雇用安定法8条・9条の対応しなくてはいけない」をご覧ください。
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