執行役員とは、役員と名がつきますが、会社法や商業登記法で定められている役職ではないため、契約形態にもよりますが、労働基準法上の「労働者」として扱われるケースがほとんどです。
そのため、執行役員も就業規則の適用範囲に含まれます。
ただし、執行役員については、執行役員用の就業規則を別途作成しておくのはもちろん、執行役員退任後は、就任前の元の条件に戻すと記載しておいた方が、労使トラブルを防止することに役立ちます。
多くの執行役員は会社と雇用契約を交わした「労働者」
執行役員といっても、その類型には大きくいって2種類あります。
1.委任型執行役員制度
会社と雇用契約ではなく、委任契約を交わした執行役員です。
委任型は、会社と執行役員が対等な関係という前提で契約されるため、雇用契約のように支配服従関係にないということになります。
しかし、「労働の実態」で判断されることに注意です。
労働の実態が雇用契約に近いのであれば、労働者と判断され、労働基準法や就業規則の適用を受ける立場となります。
2.雇用型執行役員制度
会社と雇用契約を交わす執行役員です。
会社と支配服従関係にあり、労働者として扱われます。
そのため、労働基準法や就業規則の適用対象となります。
執行役員の多くは、雇用契約型の労働者になります。
執行役員制度を導入するときに就業規則に記載すべき文言
「労働者」に該当する執行役員については、就業規則の適用対象となりますが、業務の責任の重さなどから、一般の従業員とは別の給与体系を導入したいケースもあるでしょう。
このような場合、執行役員に適用される就業規則を作成しておくことが一般的です。
さらに、執行役員退任後の労働条件を、どのようにするかも就業規則に入れておきましょう。
労使トラブルを未然に防ぐことに役立ちます。
就業規則にある一言を入れなかったことで執行役員とのトラブルに発展した事例
執行役員は給与が高く設定されているのが一般です。
しかし退任後は、役職が外れて従業員の立場に戻るわけですから、給与が減額されることほとんどだと思います。
この給与の減額が発端となり、労使トラブルに発展する怖れがあるのです。
たとえば、月額120万円の給与を受け取る執行役員だった人が、役員を退任と同時に給与も半額以下に減額されたことで、差額賃金を請求した判例があります。
この会社の就業規則には、執行役員は、執行役員用の別規定の就業規則に従うとの文言が入っていました。
そこまでは問題なかったのですが、元執行役員は退任後に給与を減額されたことを不満に思い、会社を訴えたのでした。
その原因の一つは、執行役員を退任すると、「給与などの労働条件は就任前の状態に戻す」という文言を入れてなかったことにありました。
事前に就業規則で決まっていれば、元執行役員も減額された給与でも渋々納得したかもしれません。
しかし、何も記載されてなかったことで、「そんな話は聞いてない」という突っ込みどころ(あるいは言いがかり)を残してしまったのです。
裁判所の判断は
これについて裁判所の判断は、
- 就業規則は執行役員について、別規定が設けられている
- 執行役員に適用される就業規則には、任期中の労働条件が記されている
- 元執行役員が任期中に受け取っていた月額120万円の給与は、執行役員に就任したことに基づいて支給されたもの
- 執行役員中の待遇は、退任と同時に終了し、就任前の労働条件に戻ることになったとみるべき
とし、元執行役員の訴えを退けました。
就業規則に入れる一言が執行役員とのトラブルを防ぐ
裁判所の判断は、執行役員を退任すれば、任期中の執行役員として受けていた待遇もそこで終了するとしていますが、このような無用のトラブルを防ぐには、「退任後は就任前の労働条件に戻す」の一言が必要だったということです。
たった一言が、後々の労使紛争の芽を摘んでくれます。
執行役員制度を導入するときは、
- 正社員用の就業規則とは別規定を適用すること
- 退任後は就任前の労働条件に戻すこと
を忘れず入れておきましょう。
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