就業規則を定めるときは、その就業規則が適用される範囲を明確にしておくことが重要です。
適用される範囲とは、正社員、契約社員、パート社員、委託社員、無期転換社員、執行役員など、従業員ごとに分けることをいいます。
就業規則の適用範囲を定めてないと、正社員を想定していた就業規則が、パート等の非正規社員にまで適用されることになり、思わぬ形で賃金等が発生することがあります。
なぜ就業規則の適用範囲を明確にすることが大切なのか?
就業規則の適用範囲とは、本流となる就業規則は正社員にのみ適用し、その他の、パート社員、契約社員、委託社員、無期転換社員、執行役員については、従業員の形態に合わせた「別に定める就業規則」を適用することをいいます。
正社員と非正規社員と役員では、与えられた権限も業務も異なります。
それぞれの立場に応じた給与や労働時間で対応したいと思うのが経営者としては当たり前で、それには一つの就業規則だけでは対応できません。
そこで、従業員の形態に応じた就業規則を用意する、というわけです。
この就業規則の適用範囲を明確にすることは、意外に重要で、明確にしなければ、正社員の就業規則が、パート社員や契約社員にまで及んでしまいます。
こうなると、予定してなかった支払いが発生することになりかねません。
退職金の支払いを命じられた大興設備開発事件
この事例は、60歳を超えてから採用された従業員が、会社に退職金の支払いを求めて起こした裁判です。
会社側は、60歳を超えた採用した従業員を、「高齢者」というカテゴリーに分け、待遇面なども正社員とは別に扱っていました。
訴えられた会社は、この従業員(以下、高齢者)が退職するときの就業規則には、適用範囲を正社員に限定をしていなく、さらに、高齢者を適用対象とする別の就業規則もありませんでした。
会社側は、高齢者と正社員では、別の雇用形態で、高齢者に正社員と同じ就業規則は適用されないと主張しました。
このことについて裁判所は、
- 本件就業規則には、正社員と高齢者を分けて適用すると規定していなかった
- 本件就業規則には、「高齢者中途採用は、別途定めるものとする」とあるが、実際には高齢者に適用される就業規則は存在しなかった
- 本件就業規則の規定の内容は、全従業員に及ぶものとされている
- したがって、高齢者にも本件就業規則の内容が適用される
とし、会社側に退職金の支払いを命じたのです。
このように、就業規則の適用範囲を明確にしておかないと、正社員に別の雇用形態の従業員が適用され、予想してなかった支払いが発生することになります。
就業規則の適用範囲の定め方の注意点
就業規則の適用範囲の定め方は、パート社員や契約社員などについて、「本規則は適用せず、別に定める規定による」とするのが一般的です。
このような規定を定めたうえで、パート社員や契約社員用の就業規則を作成します。
ただし、この規定の仕方の注意点として、規定で定めた以外の雇用形態が発生した場合、それに合わせて新たに就業規則を作らなくてはいけないことが挙げられます。
たとえば、パート社員に対しての就業規則は作成したいたものの、新たに、定年した従業員を委託職員として雇用する場合、委託社員が適用される就業規則を用意しないといけないということです。
労働基準法89条には、就業規則を作成して労働基準監督署へ届出る義務があることを定めています。
※就業規則の作成・届け出は、常時10人以上の労働者を雇ったときです。就業規則の基本については、建設業の就業規則、作成の基本ルールを解説をご覧ください。
つまり、就業規則の作成漏れがあると、労働基準法に違反することになってしまうのです。
また、大興設備開発事件のように、意図せず正社員の就業規則が適用されることにもなりかねません。
このようなことにならないよう、新たな雇用形態を導入するときは、就業規則も一緒に見直すようにしましょう。
まとめ
就業規則の範囲を明確にしておくことの重要性を解説させていただきました。
適用範囲を決めていないことで、従業員にも誤解を生じさせます。
ちなみに、大興設備開発事件では、会社側は、問題となった就業規則は、正社員に適用するもので、非正規社員には適用しないことを念頭に置いており、手続きや周知も正社員のみにしか行っていないとしていました。
しかし裁判所は、就業規則の適用解釈に当たり、就業規則の文言を超えて事業主の意思を過大に重視することは相当でないとしています。
つまり、就業規則に書いてあることが大事であり、事業主の意思のみでは、正当化することはできないということです。
この一時からも、就業規則の内容がどれだけ大事かわかります。
就業規則が適用される範囲を、きちんと明確にしておきましょう。
建設業の就業規則作成マニュアルはこちら
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