最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

労使トラブル対策

残業代は「残業をしてもらった分」はきちんと支払う。

これがスタンダードな時代になりました。

下手な小細工をしても、後々、未払残業代を請求されたら支払う破目になるでしょう。

トラック運送業界に衝撃の最高裁判決

トラック運送業界に衝撃を与える最高裁判決が出されました。

これは、トラックドライバーが、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する支払いを求めて起こした裁判です。

未払賃金等請求事件 令和5年3月10日 第二小法廷判決

問題となった給与体系は、少々複雑ですが、次の5つのカテゴリーで構成されていました。

  1. 基本給
  2. 基本歩合給
  3. 勤続手当
  4. 時間外手当
  5. 調整手当

一見すると何の問題もないようい思えますが、問題なのは、時間外手当というのが単なる名目だけになっていたことです。

詳しい内容はこちら(参照元:最高裁令和5年3月10日判決(運送会社の固定残業代)の速報)の記事をご覧になっていただければわかりやすいですが、元々この運送会社の給与体系は、労基署から指摘を受けて問題視されていました。

その給与体系は、まず実働に応じて「賃金総額」を決め、そこかから、基本給と基本歩合給を足したものを引き、残った部分を残業代として支払っていました。

・賃金総額-(基本給+基本歩合給)=時間外手当

必然的に、実働の少ない月は賃金総額も減少するため、時間外手当も少なくなります。

これでは、実際に行った残業時間を反映されてないので、労基署から指摘されるのも当然でした。

そこで見直して新しくしたのが、先述した5つのカテゴリーに区分けした新給与体系です。

その上で

  • 残業時間の多い月→時間外手当を多くして調整手当を少なくする
  • 残業時間の少ない月→調整手当でコントロールして、総額賃金が多くならないように調整する

としていました。

なぜこのような給与体系にしたのか?

答えは、残業代の調整で、労働基準法に合わせるように残業代は支払い、形だけは問題ないようにしたかったのです。

しかし、賃金総額は決まっているため、内実は、残業をいくらしても給与は増えない仕組みにしていたのです。

この点を最高裁は指摘して、運送会社の主張は認められませんでした。

残業代はしっかり支払う

この最高裁の判例からいえることは、時間外労働として働いてもらったものは、残業代や休日出勤として、きちんと従業員へ支払わなくてはいけないということです。

上記の運送会社のような、「支払ったように見せかける」ものでは、裁判では認められないでしょう。

たしかに、固定残業代制で、残業代を固定することはできますが、これとて、固定残業代を超える部分については、支払い義務が生じます。

固定残業代制を導入するにしても、基本給部分と、時間外労働部分を、判別できるように分けておく必要があります。

事実、国際自動車事件の最高裁の判断では、固定残業代について

使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。

としています。

制度の穴を突くようなことをやってみたところで、働いてもらった時間に対しては、法令の則って支払わなくてはいけないのです。

一時的に誤魔化せても、もし未払残業代を求めて訴えられれば、高い確率で負けることになるでしょう。

残業は削減する方向で。そのための労働基準法37条

ちなみに、労働基準法37条には、時間外労働に関する取り決めが書かれています。

その趣旨について、最高裁の解釈では、

  • 通常より高い割増賃金を経営者に支払わせることで
  • 時間外労働を抑制することにある

とし、

さらに、

  • 労働時間に関する法令を遵守させ
  • 労働者への補償を行わせる

ものであるとしています。

要するに、残業時間はなるべく少なくなるようにして、それでも残業させざるを得なかった時間については、最低限の基準として、労基法37条に従って、従業員に残業代を支払ってくださいね、ということです(著者解釈)。

ここからも分かる通り、残業させた分については、しっかり支払わなくてはいけないということであり、そこに誤魔化しがあってはいけないのです。

まとめ

運送業界に限らずですが、利益を残すには、人件費を含めた経費が増えることは大敵です。

だから残業代を抑制したいわけですが、そこに誤魔化しあるのは、企業努力ではなく脱法行為です。

働いてもらった残業代はしっかり支払い、その上で利益が残る体質にしていきましょう。

建設業の就業規則作成マニュアルはこちら

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