同一労働同一賃金の判例では、「住宅手当」を支給することを認められる場合が多いそうです。
これはつまり、正社員に支給して、非正規社員に支給しないことを是とする判断です。
ただし、「住宅手当」だからOKにはならないことに注意が必要です。
同一労働同一賃金のルール
同一労働同一賃金を簡単にいうと、同じ仕事の内容なら、正社員と非正規社員で、賃金や福利厚生などの待遇に、「不合理な格差」をつけてはいけないルールのことをいいます。
何をもって不合理な格差とするかは、
- 職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
- 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
- その他の事情
を考慮して、個々の労働条件によって判定されます。
もし、非正規社員から格差の説明を求められた場合、事業主はその理由について説明する義務を負います。
仮に労使間でトラブルになった場合、「雇用形態が非正規(有期契約やパートなど)だから」といった理由で待遇に格差をつけていると、行政から指導される可能性は高いといえるでしょう。
格差があっても認められる理由
待遇の格差が認められた理由としては、
- 正社員の確保・定着のため
- 業務内容の難度や責任の程度が高い労務に対する対価のため
があり、このような性質で支給される賞与や退職金は、「不合理でない」という、最高裁の判例があります。
ただし、後で説明しますが、賞与や退職金という名目であれば認められるというわけではありません。
住宅手当の場合
賞与や退職金と同じく、多くの判例で認められているのが、「住宅手当」です。
その理由は、正社員の場合、出向を含む転勤があり、転勤のない非正規社員に比べ、住宅費用が掛かることなどが挙げられています。
その反対に、住宅手当が不合理な格差と判断された最高裁(令和2年)の判例もあります。
それはメトロコマース事件といわれるもので、住宅手当を契約社員に支給しないことを不合理な格差とした理由について、次のように述べました。
- 住宅手当は、正社員・非正規社員にかかわらず、すべての労働者に生活補助目的として支給されていた。
- 正社員であっても転居を伴う配置転換はされていなかった。
これ以外の裁判でも、正社員であっても転勤が予定されてない場合に、住宅手当が正社員のみに支給されることを不合理な格差とした判例はあります。
このことからもわかるように、正社員と非正規社員の不合理な格差の判断は、それぞれ会社の状況によって個別に判断され、「住宅手当として支給すれば格差にはならない」ということにはならないのです。
退職金や賞与も実態で判断
これは退職金や賞与でも同じです。
たとえば、メトロコマース事件では、退職金は不合理な格差にならないとされましたが、その理由には、契約社員に対して正社員への登用制度があったことを挙げています。
その他にも、大阪医科大学事件では、賞与について、アルバイト職員からの正社員登用制度があることが、不合理な格差でない理由として挙げられています(労働契約法20条に違反しない一つの理由として)。
要は、支給される賃金の名目ではなく、「実態」で判断されるということです。
仮に賞与でも、成功報酬に近い性格なら、正社員と非正規社員で格差をつけるのは、不合理と判断される可能性が高いということです。
まとめ
以上のように、住宅手当で支給しても、内容に合理性がなければ、不合理な格差と認定されてしまいます。
大事なのは、正社員と非正規社員との間に待遇の格差をつける場合、そこに合理的な理由が必要になるということです。
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