法人が土地を持っている場合、それを社長個人に貸す場合もあるかと思います。
土地の貸し借りとなれば、そこには「借地権」の問題が発生します。
この記事では、貸主が法人(同族法人)で、借主が役員(社長)の場合の、借地権の課税関係について解説します。
「借地権」と「権利金の認定課税」の関係
借地権とは、建物を建てるために地代を支払って、土地を借りる権利のことをいいます。
建物がない駐車場や資材置き場は、借地権の対象にはなりません。
借地権は、借主が強く保護される権利です。
貸主は一度土地を貸してしまうと、半永久的に返ってこなくなる可能性すらあります。
そこで、貸主の経済的利益を補う意味で、借地権と引き換えに権利金を受取る慣行が生まれました。
逆にいえば、借地権が発生したにも係わらず、貸主と借主の間で権利金の授受が行われないということは、貸主から借主へ借地権の「無償」の譲渡が行われたとも取れます。
そうなると、借地権を無償で譲渡したとみなされ、「権利金の認定課税」がされます。
※権利金の授受が行われる慣行の地域の場合
同族会社の土地を、社長個人が借りる場合は、貸主の法人が借主の個人に対し贈与を行ったものとして、権利金の認定課税が行われます。
今回、この記事で解説するのは、下記のパターンの場合です。
- 貸主:法人(同族会社)
- 借主:個人(同族会社の役員)
※繰り返しますが、借地権は建物の利用を目的とした権利なので、建物がない土地の貸借契約は含まれません。
権利金の認定課税されないための3つの方法
権利金の認定課税を避けるためには、次の3つの方法があります。
- 権利金を支払う方式(権利金授受方式)
- 相当の地代を支払う方式(相当の地代方式)
- 土地の無償返還に関する届け出書を提出する方式(無償返還方式)
この内、権利金を支払う方式は、認定課税と同じなので、ここでは説明を省きます。
※権利金の取引慣行がある地域の場合の話です。
1.相当の地代方式
相当の地代方式とは、権利金を受け取る代わりに、土地全体の使用料として、「相当の地代」を受取る方式です。
相当の地代は、その土地の更地価格の6%程度をいいます。
相当地代方式の、借地権設定中の法人と個人の課税関係は次のようになります。
a. 法人側
①相当の地代を受取っている場合
借主(役員)から受け取った相当の地代は、益金に計上します。
相当の地代を借主が支払う場合、借地権設定時に権利金の支払いがなくても、認定課税はされません。
②相当の地代に満たない場合
相当の地代方式を選択したにも係わらず、実際に支払った地代が相当の地代に満たないときは、「地代」ではなく「権利金」の認定課税が行われます。
金額の計算は、下記のページをご覧ください。
b. 個人側(役員)
①相当の地代を支払っている場合
借地を事業に使っている場合は、支払った相当地代を経費に計上できます。
相当の地代を支払っている場合は、権利金の支払いがなくても、認定課税はされません。
②相当の地代に満たない場合
実際に支払った地代と相当の地代の差額を基にして、こちらの計算式で求めた借地権の金額が、貸主の法人へ認定課税され、借主がその法人の役員の場合は給与所得となります。
2.土地の無償返還に関する届け出書を提出する方式(無償返還方式)
「土地の無償返還に関する届け出書」とは、その土地を将来無償で貸主に返還することを約束するもので、これにより、権利金の収受がなくても認定課税はされません。
無償返還方式を選択した場合の適正な地代は、「相当の地代」になります。
a. 法人側
①相当の地代を受取っている場合
相当の地代のを益金に計上します。
②相当の地代未満の場合
相当の地代と実際の地代の差額に対して、「地代」の認定課税されます。
借主が役員の場合、給与として扱われます。
これが定期同額給与に該当すれば、益金と相殺され、課税はプラマイ0となります。
定期同額給与でなければ、損金不算入となります。
b. 個人側(役員)
①相当の地代を支払っている場合
借りた土地を事業に利用しているなら、相当の地代を必要経費に計上できます。
②相当の地代未満の場合
土地を事業に利用していれば、実際に支払いている地代金額は、必要経費に計上できます。
相当の地代と実際の地代の差額は、借主が役員のときは、給与として扱われます。
借地権の相続時の課税関係
相続時の課税関係は以下の通りになります。
1.相当の地代の支払いがある場合
a. 法人側
土地の賃貸借契約によって利用が制限されていることから、自用地価格から20%減額して評価されます。
・自用地価格×80%
b. 個人側(役員)
相当の地代は、土地全体に対して支払われる対価です。
そのため、借地権が発生しているとは考えられず、借地権は0として扱われます。
2.相当の地代に満たない場合
a.法人側
自用地価格から、借主が経済的利益として受けた借地権相当額を控除して、貸宅地の評価額を求めます。
その計算式は下記ページをご覧ください↓
・相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
b. 個人側(役員)
こちらの計算式で算出した借地権を、相続財産に計上します。
3.無償返還届け出方式
無償返還の届け出方式には、無償で貸す使用貸借と、地代を受取る賃貸借契約の2種類があります。
1.無償返還方式で使用貸借の場合
a. 法人側
土地に関する無償返還の届け出が提出された場合で、土地の貸借が無償の「使用貸借」のときは、土地所有者である法人は、使用に制限を受けないので、「自用地」として評価されます。
つまり、減額はありません。
b. 個人側(役員)
土地の無償返還に関する届け出書が提出されたことにより、将来土地を無償で返還されることになるため、借地権の評価は「0円」となります。
2.無償返還方式で賃貸借の場合
a. 法人側
土地の契約が「賃貸借」のときは、貸主は土地の利用を制限されるため、「貸宅地」の評価になります。
自用地価格から20%の減額を受けられます。
・自用地価格×80%
b. 個人側(役員)
無償返還方式の場合、賃貸借契約でも借地権は0評価となります。
まとめ
借地権の認定課税を避けるために、相当の地代方式か無償返還方式を選んだとしても、実際の地代が相当の地代未満であれば、法人と個人で課税されてしまいます。
この点は、貸主が個人(社長)、借主が同族法人よりも厳しいといえます。
しっかり理解して、後で課税されないように気をつけましょう。
土地の所有者が個人で、借主が同族法人の場合の借地権については、こちらの記事をご覧ください↓
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