相続税対策として、親が個人所有する賃貸用建物を、子供に贈与することがあります。
この場合のメリットと注意点について解説します。
賃貸用建物を子供に贈与するメリット
親が所有する賃貸用建物を、子供贈与するメリットは次の通りです。
1.賃貸用建物の評価額を低く抑えることができる
贈与税を計算するときの、建物の評価額は、「固定資産税評価額」となります。
その結果、現金などより、低い価格で贈与することができます。
固定資産税評価額は、時価の50%~60%です。
さらに、アパートのような賃貸用建物は「貸家」となり、固定資産税評価額から借家権割合30%を引くことができます。
たとえば、次の条件で新築3,000万円のアパートを贈与する場合の計算してみます。
- 固定資産税評価額:2,400万円(時価の60%)
- 借家権割合:30%
- 賃貸割合:100%
このときの贈与税評価額は、1,680万円となります。
・2,400万円×(1-30%×100%)=1,680万円
同じ3,000万円の現金を子供に贈与するより、1,320万円も低く抑えられるのです。
つまり、現金を子供に贈与するよりも、賃貸マンションなどの投資用不動産に投資してから子供に贈与する方が、より多くの財産を移転でき、その分だけ相続税対策の効果も大きくなるということです。
ただし、土地を子供に無償で貸す場合は、土地の相続税評価額は「自用地」となって、土地に関しては相続税を減らす効果なくなります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
2.親の所得を分散できる
所得税は累進税率です。
家賃収入が増えると、それに比例して税率は高くなります。
親の賃貸事業の収入が多い場合、その一部を子供に移転することで、親の所得税を抑えることができます。
また、子供へ家賃収入が入ることにより、親の相続時の納税資金を準備できます。
不動産管理法人を設立して相続税を節税する場合は、こちらの記事をご覧下さい↓
3.親の資産の増加を抑制できる
家賃収入の行き先が親であれば、当然ですが親にお金が貯まっていきます。
それはつまり、相続財産の増加を意味し、その結果、相続税も比例して増えていきます。
しかし、親所有の賃貸用建物を子供に贈与することで、親の資産が増えることを抑制できます。
親が所有する土地については、建物とセットで贈与すると、贈与税が高くなることから、通常行われるのは賃貸用建物のみの贈与です。
土地と建物の名義人が異なれば、そこに借地権や地代の問題が出てきます。
しかし、子供が地代を支払わず土地を利用しても(使用貸借)、親子間であれば借地権の認定課税は発生しません。
したがって、地代で親の資産が増えることも防げます。
ただし、土地の貸借が無償の使用貸借だと、土地の相続税評価額が下がりませんので、この点は後述しますが注意が必要です。
詳しくは下記記事をご覧ください↓
4.認知症への対策になる
親が高齢になれば、認知症のリスクが出てきます。
認知症を発症すると、新たに賃借人や業者とも契約することもできなくなりますし、銀行の預金口座を凍結される怖れもあります。
こうなると、不動産賃貸事業が正常に回らなくなります。
認知症が発症してからでは、事業継続も、親族への賃貸用建物の譲渡も、手遅れになりかねません(できるとしても、非常に手間がかかる)。
子供に賃貸用建物を譲渡しておけば、それが認知症対策となります。
子供に賃貸用建物を贈与するときの注意点
子供へ賃貸用建物を贈与するときは、気をつけておかないといけないことがいくつかあります。
1.土地の相続税評価額が高くなる
土地の相続税評価額は、土地の所有者と賃貸用建物の所有者が同じ場合、「貸家建付地」となって評価額が下がります。
貸家建付地の計算式は以下の通りです。
・自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
たとえば、自用地価格5,000万円、借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%だとすると、貸家建付地の評価額は3,950万円まで下がります。
・5,000万円×(1-70%×30%×100%=3,950万円
しかし、建物を子供に贈与し、その土地と無償で子供に貸してしまうと、その土地の相続時の評価は「自用地」となり、相続税評価額は下がらないことになります。
サブリース契約で相続税対策を行う
ただし、親が子供に賃貸用建物を贈与した場合でも、親が建物を所有していたときの賃借人が、贈与後も借り続け、賃借人が「同一人物」のまま相続が起こると、「貸家建付地」の評価のとすることができます。
何のことだかよくわからないと思いますが、簡略すると以下のようになります。
- 親が所有時の賃借人A→贈与→相続時の賃借人A→貸家建付地の評価
- 親が所有時の賃借人A→贈与→相続時の賃借人B→自用地価格
貸家建付地の評価のままとするためには、贈与前と贈与後で、賃借人が同じでなくてはいけないのです。
なぜ、賃借人が同一人物であれば、土地の評価が「貸家建付地」のままになるか、その詳しいロジックはこちらの記事をご覧になっていただければと思いますが、ただ、長期間、同じ人が借り続けてくれる保証はどこにもありません。
むしろ、変わることの方が当たり前といえます。
そこで利用するのが、「転貸型法人(サブリース会社)」です。
これは、自分や親族で設立する同族会社でもいいですし、第三者のサブリース会社でもかいません。
要は、賃借人をサブリース会社に固定してしまうことで、土地の評価も同一に保てるということです。
子供へ賃貸用建物を贈与するときは、「賃借人」が変わらないようにすることを、忘れないでおきましょう。
2.賃貸用建物は一度に贈与する
賃貸用建物の固定資産税評価額が高額だと、贈与税も高くなります。
それを避けるために、毎年、110万円の贈与税の基礎控除内に収めて贈与していく方法もありますが、これのデメリットは、贈与が長期間」になってしまうことです。
その間、もし贈与者の親に相続が起こったり、認知症になってしまったりすると、家族間でもめ事が起こることも考えられます。
前述しましたが、高齢化社会を迎える日本では、とくに認知症リスクは意識しておくべき課題です。
賃貸用建物の贈与は、できるなら一度に贈与しておくべきです。
3.負担付き贈与に気をつける
負担付き贈与とは、受贈者(贈与を受ける人、ここでは子供)に一定の債務を負わせることを条件に贈与することをいいます。
賃貸用建物を負担付き贈与する場合に気をつけなくてはいけないのは、「建築費用の借入れ」と「敷金」です。
a. 借入れの場合
賃貸用建物と一緒に建築費用の借入れと贈与するのも負担付き贈与になります。
借入れ付き贈与するときに注意点となるのが、建物の評価額が「時価」になることです。
たとえば、時価5,000万円のアパートを贈与するときに、借入れの残高3,500万円も、同時に子供に贈与したとします。
もし、固定資産税評価額で贈与できるとしたら、建物と借入れを相殺して、贈与額を0円にできてしまいます。※賃貸割合を100%で計算
・建物の価格:5,000万円×(1-30%×100%)=3,500万円
・3,500万円(建物価格)-3,500万円=0円
このようなことを許せば、簡単に節税できてしまいます(規制が入るまでは、この方法が横行していたそうです)。
そこで、負担付きで建物を贈与するときは、「時価」で評価することになりました。
その結果、受贈者が受け取った金額は、アパートの時価から借入れ金額を引いた、1,500万円となります。
・5,000万円(アパートの時価)-3,500万円(借入れの残高)=1,500万円
さらに、贈与した側(贈与者)にも、譲渡所得税が課せられるケースがあります。
本来であれば、贈与した人が贈与税の対象になることはありません。
しかし、負担付き贈与の場合は別です。
負債を贈与したことで、贈与者はその分だけ利益を得たことになり、譲渡所得税の対象になるというわけです。
たとえば、上記ケースで、アパートの取得価格が3,000万円だった場合、借入れとの差額500万円が所得税の対象となります(取得価格より借入れ残高の方が多いケースは少ないかもしれませんが)。
・3,500万円(借入残高)-3,000万円(アパートの取得価格)=500万円
賃貸用建物を贈与するときは、借入れは付けない方が良いといえます。
b. 敷金がある場合
アパートの入居時に、賃借人から敷金を預かるのは一般的ですが、敷金は退去時に返却義務のあるお金です。
つまり、賃借人に対する債務です。
この敷金は、建物の所有者が変わっても、旧所有者に預かった敷金がある限り、たとえ新旧所有者に敷金の引継ぎがなくても、自動的に新所有者に引き継がれるとされています。
したがって、親が子供に賃貸用建物を贈与する場合、預かった敷金があれば、親子間で特段の意思表示がなくても、敷金という借金は必ず付いてくるということです。
この対処法としては、親が敷金と同額を子供に贈与します。
これで、プラスマイナス0円となり、借金の贈与は行われなかったことになります。
4.諸費用がかかる
賃貸用建物を贈与する場合は、登録免許税や不動産取得税がかかります。
登録免許税は、相続の場合と贈与では税率が異なります。
相続で移転する場合は、固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は2%になります。
さらに、不動産取得税も相続と贈与では変わります。
不動産取得税は、土地や家屋を「贈与・売買」によって取得した場合に課税される都道府県税です。
対象となるのは、贈与と売買です。
したがって相続の場合、不動産所得税は課税されませんが、贈与の場合は3%の課税になります。
※税率は基本4%ですが、住宅家屋は3%、土地は3%となります。
また、司法書士への登記の手数料も発生することも忘れないようにしましょう。
まとめ
賃貸用建物を贈与するのは、メリットがある一方でメリットも存在します。
とくに、相続で取得したときとの比較は、しっかり行いましょう。
贈与では、登録免許税や不動産所得税というコストが高くなりますが、相続では贈与と比べると低くなります。
さらに、小規模宅地等の特例を考えると、贈与で子供に渡すのが得なのかは、よく考えなくてはいけません。
ただ、贈与の場合は、渡したい人に渡せますが、相続は遺言書などで指定しておかないと、受取る人を確定できません。
賃貸用建物を贈与するときは、メリットとデメリットを十分理解してから行いましょう。
この記事が参考になれば幸いです。
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