不動産オーナーが自身の所有する賃貸用建物を、同族会社へ売却することがあります。
このとき、税金がどうなるかを解説いたします。
同族会社に売却して利益が出ると課税される
不動産オーナーが、自分が所有する賃貸用建物を、同族会社へ売却することがあります。
いわゆる、所有型法人への売却です。
同族会社とは、特定の少数株主(上位3人もしくはグループ)により経営権が掌握されている会社を指します。
同族会社の具体的な定義は国税庁のWebページに記載されたいますが、中小企業のほとんどは同族会社に当てはまります。
同族会社に譲渡(売却)する理由は、所得税の節税のためや相続税対策のためなどありますが、たとえ自分が設立した会社であっても、そこに譲渡益(売却益)が出れば税金を課せられます。
「自分の会社に売っても税金を取られるの?」と思われるかもしれませんが、税務上では個人と法人は「別人格」とされているため、第三者に売却したときと同じように、利益が出れば課税されます(そうじゃないと税金をごまかし放題になります)。
建物のみを同族会社名義にする理由
個人の不動産を同族会社へ移す場合、土地は個人オーナーのままで、賃貸用建物のみを法人名義にするケースが多くなります。
これは、土地を買取る資金力が設立したばかりの法人にないことや、土地は減価償却できないため経費化できず、税率を下げる効果がないといった理由になります。
その点で建物の場合は、後述しますが、譲渡価格を下げることができ、購入後も法人で減価償却費を計上できるため、節税効果を享受できます。
このような理由から、土地は個人オーナー所有、賃貸用建物は法人所有ということが行われます。
同族会社に建物を売却したときは「譲渡所得」の「申告分離課税」
建物を売却した場合の譲渡益は、所得税・住民税の対象となります。
個人の所得は、その内容によって10種類に区分されます。
土地・建物を売却したときの所得は、「譲渡所得」に区分され、課税方式は「申告分離課税」となります。
「申告分離課税」とは、他の所得と分離されて課税される方式のことです。
その年の所得によっては、他の所得と合算されて課税される「総合課税」より、税率が低くなります。
不動産は高額なため、申告分離課税の方が有利なケースがあります(繰り返しますが、その年の所得によます)。
個人の税率は所有期間が5年超かそれ以下で決まる
土地や建物を売却した時の税率は、売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年超か5年以下で変わります。
- 5年以下は短期譲渡所得となり、税率は39.63%
- 5年超は長期譲渡所得となり、税率は20.315%
2037年までは所得税に対して2.1%の復興特別所得税が上乗せされています。
注意点としては、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかを判定することです。
たとえば、2018年5月に建物を取得したとして、2023年の10月に売却したとします。
たしかに2018年5月から2023年10月でみれば所有期間は超えていますが(5年5か月)、2023年1月1日時点では、所有期間は4年7か月で5年を超えていません。
この場合、2024年の1月1日以降でないと5年超にカウントされず、短期譲渡所得に該当し、税率は39.63%が課せられます。
それ以外の、土地・建物を売却したときの税金は、こちらの記事をご覧ください↓
ちなみに、法人の場合は、個人と違い所有期間によって税率が変わることはありません。
この点も、法人を持つ利点となります。
法人を活用したい方はこちらの記事をご覧ください↓
賃貸用建物を同族会社に名義変更するときの課税価格の計算方法
譲渡所得の金額は、譲渡収入金額から、譲渡した資産の取得費と費用の合計を引いて計算します。
・譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)=譲渡益
1.譲渡収入金額
譲渡収入金額とは、土地や建物を売却した時に、買主から受け取る金額のことです。
平たくいうと、売上金額です。
この収入金額は、「その年において収入すべき金額」とされていて、収入とすべき金額が確定したら、その年の収入金額としなくてはいけない決まりになっています。
したがって、お金は全額後払いでも、一部入金であっても、代金を請求したかに関わらず、収入が確定したら、その年の収入金額にしなくてはいけません。
個人が土地や建物を譲渡した場合は、収入とすべき時期は、原則として、その土地や建物の「引き渡しがあった日」となります。
したがって、不動産オーナーの建物を同族会社に売却した場合は、建物の引き渡しがあった日に収入があったものとして申告します。
・所得税基本通達 36-12 山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期
その一方で、収入とすべき日を、その資産の譲渡契約の「効力発生日(通常は契約日付)」とすることもできます。
たとえば、下記のスケジュールで賃貸用建物を同族会社に譲渡した場合、
- 令和5年12月→契約効力発生日
- 令和6年1月→建物の引き渡し日
原則は令和6年に収入として申告しなくてはいけませんが、契約日となる令和5年の所得として申告もできるということです。
なお、「契約の効力が発生した日」とは、不動産売買の契約日が一般的ですが、民法上の契約が成立しなくてはいけないことに注意が必要です。
たとえば、契約書に手付金の支払いが約束されているの支払がされてない、といったことがあると、契約の効力が発生てないとみなされる可能性があります。
同族法人との取引とはいえ、契約書の中身をしっかりチェックしておきましょう。
「取得日」にも影響する
ちなみに、引き渡し日と契約日は、「取得日」の判定にも影響します。
すなわち、引き渡し日を選べば、その日が取得日になり、契約日を選択すれば、その日が取得日となります。
取得日は、所有期間に影響してくるので、入り口を取るか出口を取るか、バランスを見て考えたいところです。
2.取得費
取得費とは、譲渡した資産の購入価格や建築代金をいいます。
取得費には、購入金額以外に購入手数料や設備費が含まれますが、資産に
- 使用期間を延長できる改良
- 価値を増加させる改良
を加えた場合、これも取得価格に含めます。これを資本的支出といいます。
さらに建物の場合は、取得したときからの毎年の減価償却費の累計を、取得費から引かなくてはいけません。
何だかよくわからないと思いますが、たとえば、3,000万円で購入した賃貸用建物があったとします。
この建物を、3,000万円で同族会社に売却すると、プラスマイナス0円で利益はないように思えます。
しかし、減価償却費の累計が500万円あったとしたなら話は変わります。
取得費は2,500万円になり、利益は500万円出てしまうのです。
・譲渡所得:3,000万円-(3,000-500万円)=500万円
建物の所有期間中に経費にできたものは、出口できっちり課税されるというわけです。
減価償却費と取得費の関係はこちらの記事をご覧ください↓
ちなみに、建物に資本的支出を行った場合、その資本的支出を行った減価償却資産と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして、その資本的支出を取得価額として減価償却を行います。
たとえば、耐用年数47年の建物に、2,000万円の大規模修繕を行った場合、その2,000万円を47年で償却していくことになります。
売却価格をいくらにするか?
減価償却費と譲渡益の関係について話が出たので、売却価格のことにも触れておきます。
不動産オーナーが同族会社に賃貸用建物を売却するなら、余計なキャッシュアウトはしたくないずなので、利益が出てしまうのは逆効果です。
利益は0円にして同族会社に売却すれば、所得税は避けられます。
そこで重要なのが、同族会社への譲渡価格です。
譲渡価格は「時価」であることが税務調査対策となりますが、その場合の建物の譲渡価格の算出法は、
- 建物の未償却残高
- 固定資産税評価額
- 不動産鑑定評価
- 不動産業者の精通者の意見価格
の4種類になります。
この中で実務上利用されるのが、「建物の未償却残高」です。
未償却残高とは、減価償却費を経費として計上した後に残っている金額です。
したがって、建物の未償却残高を同族会社への売却価格に設定すれば、譲渡益は発生せず、所得税も課せられないことになります。※建物に償却不足がないことが前提です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
賃貸用建物を時価で下回る価格で売却した時はこちらの記事をご覧ください↓
反対に時価より高く譲渡した時はこちらの記事をご覧ください↓
3.譲渡費用
譲渡費用には
- 司法書士などへの手数料
- 印紙代
- 測量費用
- 借家人に立ち退いてもうら場合の立退料
- 建物の取り壊し費用
などがあります。
税額計算
a. 短期譲渡所得
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得になります。
譲渡収入金額から、取得費と譲渡費用を引いた譲渡所得に対して、39.63%が課税されます。
b. 長期譲渡所得
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合は、長期譲渡所得になります。
譲渡収入金額から、取得費と譲渡費用を引いた譲渡所得に対して、20.315%が課税されます。
税額シミュレーション
不動産オーナーが2017年5月1日に取得した賃貸用建物を、下記条件で2023年4月1日に同族会社へ売却した場合の所得税・住民税のシミュレーションをしてみます。
- 売却価格:3,000万円
- 取得費:2,700万円
- 譲渡費用:200万円
a. 所有期間
売却した年の2023年1月1日時点で所有期間は5年を超えているので、長期譲渡所得に該当します。
b. 課税所得金額
・3,000万円-(2,700万円+200万円)=100万円
c. 所得税・住民税
100万円×20.315%=20万3,150円
その他の税金(流通税)
それ以外にも、不動産所得税、登録免許税、印紙税、消費税も発生しますので、しっかりシミュレーションをしておきましょう。
不動産を購入するときにかかる税金はこちらの記事をご覧ください↓
借地権に気をつける
賃貸用建物を同族会社名義にするということは、そこに借地権が発生することを意味します。
権利金の授受の慣行のある地域で、借地権が発生したにも関わらず、権利金の授受が行われていないと、不動産オーナー個人から同族会社へ借地権分の利益が贈与されたとみなされます。
これを権利金の認定課税といいます。
これを避けるには、一般的に「土地の無償返還に関する届け出書」を税務署へ提出する方法が採られます。
土地オーナーが、その上に建つ賃貸用建物を同族会社に売却するときは、「土地の無償返還に関する届け出書」の提出を忘れないようにしましょう。
土地の所有者と賃貸用建物の所有者が「誰になるか」で、借地権が発生するかどうかもかわります。詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
銀行ローンが残っている場合
個人で購入した賃貸用不動産に銀行ローンが残っている場合、ローンの引継ぎは可能かなど、必ず銀行の承諾を得るようにしましょう。
どの建物を法人名義にするか?
どういった賃貸用建物を同族法人に移転するかで、その後の事業戦略や資産形成に影響します。
ポイントを押さえて、目的に合った物件を選びましょう。
1. 収益性の高い物件
多額の所得移転効果が見込まれます。
所得税対策をしたい場合に向いているといえます。
2. 建築後、年数が経っている物件
譲渡価格を安くできるため、個人から法人への移転コストを抑えることができます。
3. 個人の相続税対策で建てた物件
主な目的がオーナー個人の相続税対策で建てた物件は、法人に移さず、個人で持つようにします。
まとめ
不動産オーナーが、賃貸用建物を同族会社へ譲渡したときの税金の計算方法について解説してきました。
不動産オーナーと同族会社は表裏一体のの存在です。
個人に所得税が課せられるのも、法人に多額の資金を必要となるのも、望ましい結果とはいえないでしょう。
いかに移転コストを最小にするかは、頭の悩ましどころです。
大きなポイントになるのは、賃貸用建物の個人の所有期間と、同族法人への譲渡価格です。
税務上の要点を抑えて、不必要な税金が発生しないように気をつけましょう。
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