賃貸用建物を誰名義にするかで変わる相続税・所得税の3パターンを解説

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土地の所有者と建物(賃貸物件)の所有者が異なる場合、土地の相続税評価額や、土地からの地代収入の帰属先が変わります。

その結果、不動産オーナー(親)とそのご家族(配偶者や子供)の資産形成の在り方にも違いが出てきます。

賃貸物件を誰の名義にするかは、非常に大切な問題です。

この記事では、3つのパターンに大別し、それぞれどのような状態になるかを解説していきます。

パターン1.土地所有者と賃貸建物の所有者が同じのケース

土地所有者と賃貸用建物の所有者が同じ人のケースです。

ここでは、土地は親、建物も親とします。

相続税

土地の所有者(親)と賃貸用建物の所有者(親)が同じ場合、相続時の土地と建物は次の評価になります。

  • 土地の評価額→貸家建付地
  • 賃貸用建物→貸家

「貸家建付地」とは、自分の土地の上に、賃貸用の建物を建て、それを第三者に貸している土地のことです。

貸家建付地の相続税評価額は、下記の計算式で求めます。

・自用地評価×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借地権割合は地域に30%~90%までの間で定められていますが、借家権割合は全国で一律30%となっております。

賃貸割合は、そのときの入居率のことです。

たとえば、自用地価格が3,000万円、借地権割合が70%で、入居率100%の賃貸物件が建っているとしたら、そのときの貸家建付地の評価額は21%引きの2,370万円となります。

・3,000万円×(1-70%×30%×100%)=2,370万円

貸家の評価額は下記の計算式で求めます。

・建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

たとえば、建物の固定資産税評価額が4,000万円の建物で入居率100%なら、その建物の評価額は30%引きの2,800万円となります。

・4,000万円×(1-30%×100%)=2,800万円

固定資産税評価額は、新築請負価格の50%~60%ととなるため、相続税評価額は新築時からいうと、65%~42%も評価額が下がることになります。

さらに、「小規模宅地等の特例」の「貸付事業用宅地等」に該当し、200㎡まで50%の減額を受けられます。

また、賃貸物件に借入金が残っている状態で親に相続が起こると、その分を債務控除として相続財産から引くことができます。

ちなみに、連帯保証は基本的に債務控除されません。

このように、相続税に関しては、最も恩恵を受けることができるのがパターン1です。

土地所有者と賃貸用建物の所有者が親の場合の相続税の課税価格のシミュレーションはこちらの記事をご覧ください↓

所得税

賃貸物件の家賃収入が、親の所得として入ってきます。

さらに、毎年の所得税もさることながら、相続財産が積み上がるという特徴もあります。

そのため、収入や資産によりますが、所得税、相続税対策が必要になることがあります。

土地の相続時の評価額の計算の仕方は下記記事をご覧ください↓

パターン2.土地の所有者(親)と賃貸用建物(子)が違うケース

親の土地に、子供所有の賃貸建物を建て、その土地を「使用貸借」により借り受けます。

相続税

土地所有者と建物所有者の貸借契約が「使用貸借」の場合、その土地の評価は、「自用地価格」となります。

そのため、相続税の評価において、土地の評価額が下がることはありません。

ただし、賃貸事業を営む子が、土地所有者の親と同居していたときは、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」に該当することになり、200㎡まで50%の減額を受けられます。

上記とは反対に、親と同居してないときは、貸付事業用宅地等には該当しなくなります。

所得税

賃貸用建物からの家賃収入は、子供に発生しますので、親の収入が増えることはありません。

そのため、親の所得税の負担を抑えられます。

いわゆる、所得分散効果を受けられます。

親の収入より子の収入が少ない場合、所得税率を低く抑えることができるため、子供の手取りも減りにくいという効果も得られます。

親の相続までに時間があるなら、相続時の土地の評価減を受けるより、所得税率のメリットを活かす方が得といえます。

ただし、上記メリットは、相続時にそのままデメリットとして返ってきます。

すなわち、土地の評価減を受けられない、ということです。

相続開始までの時間が少ないなら、子に入る家賃収入も少なくなり、所得税の節税効果も限られます。

つまり、土地の所有者→親、賃貸用建物の所有者→子供のパターンは、相続が近くなると不利になるということです。

したがって、親の相続が視野に入ってきたときは、賃貸建物を子から親に譲渡し、そのデメリットを解消することを考えます(つまり、パターン1の状態にする)。

子供が親に建物を譲渡することで、土地の所有者(親)と建物の所有者が同じになり、「貸家建付地」の評価減を受けられます。

ただし、親から子に建物を譲渡する際、建てたばかりだと、譲渡価格が高額になるため、不動産売却時の税金を含め、資金的に大丈夫かをしっかりシミュレーションしておきましょう。

※とはいえ、親が子から建物を購入した場合、お金が建物に変換されるわけですから、現金を持つより相続財産を減らせます。

パターン3.土地の所有者(親)と賃貸用建物の所有者(同族会社)が違うケース

親が所有する土地の上に、親か子が設立した同族会社が賃貸用建物建てるパターンです。

いわゆる、所有型法人のパターンです。

このケースでは、土地の賃貸契約による権利金を授受を行わないことがほとんどのため、借地権の認定課税がされないようにしなくてはいけません。

その場合、「土地の無償返還に関する届け出書」を、土地所有者と同族会社が連名で税務署に提出すれば、権利金の認定課税をされることはなくなります。

この前提条件を基づくと、相続時の土地の評価額と小規模宅地等の特例は次のようになります。

相続税

土地の相続税評価額は、同族会社との契約が「賃貸借契約」の場合、土地が「貸宅地」となり、自用地価格の80%で評価されます。

・自用地価格×80%

ただし、貸主が同族法人の関係者である場合(この場合、土地所有者の親)、法人側で、土地の20%が借地権として資産計上されます。

つまり、税法の建付け上は、個人と法人で併せて100%評価されるということです。

小規模宅地等の特例は、貸付事業用宅地となり、200㎡まで50%の減額を受けられます。

使用貸借の場合

ちなみに、同族会社との貸借契約が「使用貸借」の場合(土地の無償返還に関する届け出書提出)、相続時の土地の評価は「自用地価格」となり、100%で評価されます(このときは、同族法人側での評価は0円となります)。

つまり、使用貸借の場合、親の相続財産を減らす効果はないということです。

さらに、使用貸借のため、貸付事業に当たらなくなり、小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等も受けられなくなります。

所得税

家賃収入は同族会社に入るため、親の所得税の負担は抑えられます。

同族会社に入った収入は、子や配偶者を役員にすることで、家族間へ所得分散することができます。

子や配偶者は、役員報酬を受け取るときに、それぞれが「給与所得控除」を受けられますので、家族単位で所得税の節税効果を享受できます。

親の年齢が若いときは、かなりの額、親の相続財産の増加を防げます。

配偶者や子供に支払う役員報酬額をいくらにするかの決め方はこちらの記事をご覧ください↓

ただし、勤務実態のない家族を役員にした場合は、否認される恐れがあることに注意しましょう。

親が同族会社の大株主である場合、「会社の株」が丸々相続財産となってしまい、その意味では、親の相続財産を減らす効果は限定的です。

そこで、大幅に親の相続財産を減らしたいときは、子供に会社を設立させます。

そうすれば、会社の株は子供の持ち物になり、自社株の分だけ(家賃収入、借地権の20%)、親の相続財産を増やすことを抑制できます。

子供に法人の設立資金がないときは、親が贈与したり貸付けしたり、金融機関からの融資を受けることになります。

親が贈与や貸付するときは、それを証明する書類は必須となります。

このパターンも、親の相続まで長い期間があるなら、相続財産の抑制に大きな効果を得られます。

自社株の株価を下げる方法はこちらをご覧ください↓

賃貸用建物の所有者の違いによる効果の一覧表

親所有子所有同族会社所有
相続税対策貸家建付地ありなしなし
貸地なしなしあり
貸家ありなしなし
小規模宅地等の特例あり生計一:あり
生計別:なし
あり
収益移転なしありあり
土地所有者の所得税対策なしありあり

「借金=相続対策」ではない

この記事でも出てきますが、個人に借入があると、その分は「債務控除」として相続財産から引くことができます。

そのことをもって、借金も相続対策の一つといわれています。

このようなことから、借金をして賃貸用建物を建てることが相続対策になると営業トークにもなっています。

しかし、本当に借入れは相続対策になるでしょうか?

たとえば、預金1億円と評価額2億円の土地があったとします。

この状態で、借入れ1億円をしてアパートを建てた場合と、借入れをせずに手持ちの預金だけでアパートを建てた場合の資産状況を比べてみます。

土地は、貸家建付地として20%の評価減で計算し、建物は「固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)」で計算します。※固定資産税は建築価格の50%、借家割合は30%、賃貸割合は100%

1億円借入れした場合の建築後の資産状況

  • 預金:1億円
  • 土地:1億6,000万円
  • 建物:3,500万円
  • 借入れ:1億円
  • 純資産:1億9,500万円

借入れしない場合の建築後の資産状況

  • 預金:0円
  • 土地:1億6,000万円
  • 建物:3,500万円
  • 純資産:1億9,500万円

このことからわかるように、借入れをしても借入れをしなくても、純資産額は変わりません。

建物建築前と建築後で純資産額は変わっていますが、それは土地の評価額と建物の評価額が下がったためです。

貸借対照表で見ればよくわかりますが、

  • 借入れした場合:借入れの1億円が建物に変わった→なおかつ、相続税評価額で建物の評価額が下がった
  • 借入れしなかった場合:預金の1億円が建物に変わった→なおかつ、相続税評価額で建物の評価額が下がった

ということです。

借金したことにより、相続財産が減ったわけでないことがわかります。

つまり、「借金=相続対策」ではないのです。

もちろん、借入れすることが悪いことではありません。

借入れは自分の資金を使わず、資産を増やせるというレバレッジ効果もありますし、何より、手元資金を減らさないことが、事業を継続するうえで重要です。

会社が立ちいかなくなるのは、キャッシュが尽きたとき、このことを忘れてはいけません。

対銀行の融資対策としても、借入れは必要です。

しかし、無駄な借入れは無駄な支払利息を生み、無駄なキャッシュフローの悪化を招きます。

間違った相続対策は、資産を減らすだけです。

意味のない借入れは、気をつけましょう。

まとめ

相続税は、賃貸用建物を誰が所有するかで、大きく変わります。

相続対策は、相続税だけで決めるものではありませんが、土地の評価減や小規模宅地等の特例を受けられることは、やはり残されたご家族の生活に影響してきます。

ご家族を守るには、しっかり考え、ベストな対策を立てましょう。

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