節税効果は「中」。一括転貸型(サブリース型)不動産管理会社を解説

不動産の税金 相続対策 節税対策

不動産管理法人には

  1. 管理委託型法人
  2. 転貸型法人
  3. 不動産所有型法人

の3つの形態がありますが、この記事では、そのうちの一つの「転貸型法人」について解説していきます。

転貸型法人(一括転貸型方式)とは

転貸型法人とは、不動産の所有は個人オーナーのままで、その不動産を低い家賃で一括して会社(転貸型法人)に貸し、会社は各借主と個別に契約をして貸す(転貸)方式をいいます。

別名、サブリース方式とも呼ばれます。

小難しくいいましたが、「転貸」とは「又貸し」のことなので、不動産オーナーから管理会社(同族会社)が借りて、それを個別の賃借人に会社が貸す方式のことです。

通常は、賃貸借契約と同時に物件の管理委託契約も交わすため、転貸と同時に管理業務も行います。

お金の流れとしては、管理会社が各賃借人から家賃を回収し、その中から管理料の一部を引いて、残りを不動産オーナへ支払います。

その管理を含む転貸契約を、不動産オーナの意思が恣意的に反映される同族会社(管理会社)と行うわけですから、課税当局からは厳しく見られます。

そのため、管理料を高く設定すると、租税回避とみなされ、課税当局から否認される可能性が高くなります。

一般的には、「各入居者の家賃収入の10%~15%」が相場です(最大でも20%)。

つまり、家賃収入の配分は、不動産オーナ(個人)90%~85%、管理会社(同族法人)10%~15%となります。

なお、ここでいう家賃には、礼金、更新料等の臨時収入、一時的収入や公益費、共用部分の水道光熱費等は除いて計算するのが望ましいです。

一括転貸型の節税効果

転貸型法人の節税効果は、管理型法人よりは若干高くなります。

その理由は、空室が出た場合のリスクを管理会社が負うためです。

転貸は、一括借り上げ方式で行われ、満室でも空室でも不動産オーナーに支払う家賃は同じです。

そのため、空室が出たときのリスクを管理会社側が負うことになり、その分、管理型法人に比べ管理料を高めに設定できるというわけです。

逆にいえば、空室リスクが転貸型法人のデメリットにもなります。

空室が出ても毎月一定額の支払いが生じるため、空室割合が増えて長期化すると、管理会社の損益は赤字になり、やがて資金が減少し、不動産オーナーへ支払うお金がなくなります。

こうなると、節税どころの話でなくなります。

転貸型法人を導入し節税効果を享受するには、常に満室になる努力を行うことはもちろん、入居率の低い物件は避けるといったことを考えなくてはいけません。

入居率低下対策

転貸型で入居率の低下対策に備えるには、1年~3年ごとに一括借上げ料を見直すようにしましょう。

定期的に見直すことで、赤字リスクを極力避けられます。

一括転貸型の5つの税務調査対策

税務調査で否認されないためには、しっかり対策を準備しておく必要があります。

1.周辺業者の管理料を参考にする

税務調査で厳しくみられるのは、不動産オーナーと同族会社との間に、恣意的な価格設定ができるためです。

そのような疑いを避けるためには、周辺業者の価格を調べ、その相場から乖離しないことです。

第三者となる業者の価格は、市場価格によって決められたものであり、契約価格の根拠となります。

国税不服審などの判例でも、適正な価格の根拠を、周辺業者(同じ規模で同じ業務内容)の価格に求めているた、有効な参考価格となります。

2.契約書を交わす

管理会社(同族会社)とは、賃貸借契約を作成しましょう。

税務調査では、書類が重要な証拠となります。

なお、管理会社から不動産オーナーへの家賃の支払いは、銀行口座を通すことで、客観的なお金の流れを残しておくことも重要です。

3.入居者とは管理会社が賃貸借契約を結ぶ

一括転貸方式は、管理会社が不動産オーナーから借りた物件を、入居者に又貸しすることで利益を得る形態となっています。

したがって、入居者と交わす賃借契約は、管理会社が主体でなくてはいけません。

仮に不動産オーナーが、入居者(賃貸人)と直接契約をしていると、管理会社を間に挟む理由がなくなります。

そうなると、不動産オーナーと管理会社との賃借契約は、単なる名目上のことと判断され、否認の理由となります。

不動産オーナー個人と同族会社である管理会社との人格は、あくまで「別」であることを、しっかり認識しておきましょう。

つまり、完全なる第三者である外部の事業者と、同族会社も同じ取り扱いにしないといけないということです。

なお、不動産オーナーから途中で管理会社への転貸するときは、家賃の振込口座も不動産オーナーから管理会社に変更しなければなりません。

その際は、変更の旨を入居者に連絡する必要があります。

4.業務内容を記録しておく

管理業務を日報などの形にして、証拠書類にしておくことが大切です。

管理料が適正かどうかは、周辺業者との比較もありますが、実態としての部分もチェックされます。

形だけで実際に業務を行っていないとなると、否認の理由となります。

業務を行ったことがわかるよう、記録を書類にしておきましょう。

5.不動産オーナーか管理会社の負担かを分ける

不動産を管理するときの費用の負担を、決めておきましょう。

不動産オーナーの負担は、下記のような建物本体に関係する修繕費用が基本となります。

  • 大規模修繕費用
  • 建物本体、付属施設、構築物の修繕・管理費用

それに対し管理会社の負担は、下記のような賃貸経営を行うための通常の管理費用となります。

  • 入退去時のクロス、壁、畳、フローロング等の修繕費用
  • 室内のクリーニング費用
  • 共用部分の電球交換費

ちなみに、修繕費用か資本的支出になるかの違いは、下記の記事でご覧下さい↓

敷金・礼金・保証金はどちらが管理?

敷金や礼金の取り扱いは、管理上の観点からも、管理会社に帰属さる方が望ましいといえます。

たとえば敷金は、入居者が退去時に変換される性質のもので、不動産オーナーが預かる場合と、管理会社が預かる場合がありますが、入退去時の手続きを管理会社が行うことを考えると、管理会社に預けていた方が、円滑に処理ができます。

【重要】同族会社と転貸契約を交わすもう一つの意味

同族会社と賃貸借契約を交わすことで、相続時の土地の評価額を減額することができます。

これは、同族会社ではない第三者の不動産管理会社でもよいのですが、建物の賃借人との賃貸借契約を、サブリース会社にすることに大きな意味があります。

これだけ聞いても何のことだかよくわからないともいますが、たとえば、親が所有する土地と賃貸用建物のうち、建物のみを子供に贈与したとします。

※子に贈与時は、敷金も一緒に贈与ずること。

親と子の土地の賃借契約は、地代の発生しない「使用貸借」です。

その後、親の相続が起こった場合、親が所有中の賃借人と、子供が所有中の賃借人が違っていると、土地の評価減を受けられなくなってしまうのです。

  • 贈与時:貸貸人→親 賃借人→第三者のAさん
  • 相続時:賃貸人→子 賃借人→第三者のBさん

つまり、親から子へ建物を贈与した場合で、土地の評価を「貸家建付地」とするには、親が所有しているときの賃借人と、子が所有しているときの賃借人が、「同一人物」でなくてはならないということです。

  • 贈与時:貸貸人→親 賃借人→第三者のAさん
  • 相続時:賃貸人→子 賃借人→第三者のAさん

土地の所有者と建物の所有者が同じで、その建物を借家人に貸している場合、建物には借家人が持つ敷地利用権(借家権)があるため、土地の所有者は、土地の利用を制限されます。

そのため、自分の土地を自由に利用できる場合の評価と比べ、借家人の敷地利用権の分だけ評価額を減額するのが、「貸家建付地」となります。

一方で、建物の所有を目的とする貸借契約でも、無償の使用貸借契約の場合、土地は自用地価格となり、評価減の対象とはなりません。

しかし、親が建物を所有しているときに、建物の賃貸借契約を交わした賃借人(ここではAさん)は、たとえ建物の所有者が子に変わったとしても、その建物に対する敷地利用権は侵害されることはありません。

このため、土地の貸借契約が使用貸借になったとしても、引き続き土地の利用は制限さるため、評価は「貸家建付地」となります。

それに対し、贈与後に建物の賃借人が変わってしまった場合(ここではBさん)は、土地の貸借が使用貸借のため、自用地として評価されてしまうというわけです。

詳しい理由については、こちらをご覧ください↓

貸家の贈与があった場合の敷地の相続税評価について

とはいえ、親の代からずっと同じ人が借り続けてくれる保証はありません。

そこで、同族会社(転貸型法人)を使います。

同族会社であるなら、親との土地の貸借契約において、賃借人であり続けることが可能だからです。

  • 贈与時:賃貸人→親 転賃人→同族会社 転借人→第三者Aさん
  • 相続時:賃貸人→子 転賃人→同族会社 転借人→第三者のBさん

建物の賃借人を同族会社にすれば、同族会社から賃借する人が、贈与時と相続時でAさんとBさんの別々人でも、土地の所有者との契約は同一の法人のため、土地の評価減を受けられるというわけです。

第三者のサブリース会社の場合でも、贈与時と相続時が同じ会社なら、同じことがいえます。

同族会社への転貸は、このように土地の評価減を確定させる効果があります。

まとめ

一括転貸型の不動産管理会社の節税効果は「中」といったところで、大きく節税することはできません。

それどころか、管理料が家賃の10%~15%であることを考えると、それなりの家賃収入がなければ、節税効果を享受することはできないといえます。

たとえば、2,000万円の家賃収入ならで15%の管理料なら、管理会社は年間300万円の売上げで、これでは経費の支払いで赤字になるかもしれません。

したがって、節税効果を享受できる600万円を目安にするなら、4,000万円のは収入はほしいところです(入居率も考慮すること)。

・4,000万円×15%=600万円

一括転貸型の不動産管理法人の節税効果を見極めて、しっかり活用しましょう。

管理型法人の詳しい解説はこちら↓

所有型法人の解説はこちらの記事をご覧ください↓

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