小規模宅地等の特例で、「貸付事業用宅地等」に該当すると、200㎡を上限面積に、50%減額されます。
貸付事業用宅地等とは、第三者に貸したり、賃貸アパートを建てたりしている宅地のことです。
被相続人(故人)や被相続人と生計一にする親族が、不動産賃貸業に使っている土地は、貸付事業宅地等に該当します。
小規模宅地等の特例の詳しい解説は下記記事をご覧下さい↓
この貸付事業用宅地等の対象となるには、第三者に宅地を貸している必要がありますが、そこには、被相続人が経営していた同族会社も含まれます。
そのため、不動産管理会社に宅地を貸している場合は、貸付事業用宅地等に該当し、大幅に相続税を減額できる可能性があります。
この記事では、「対象となるパターン」と「対象とならないパターン」について解説します。
貸付事業用宅地等とは
貸付事業用宅地等に該当すると、最大200㎡まで、50%の減額を受けることができます。
貸付事業用宅地等の対象となるには、次の要件を満たさなくてはいけません。
- 被相続人の貸付の事業に使われていた宅地等
- 被相続人と生計一の親族が貸付の事業に使っている宅地等
- 相続税の申告期限まで継続して貸付事業を行っていること。
- 相続税の申告期限まで継続して宅地等を保有していること。
- 相続開始3年以内に貸付事業を開始してないこと(相続開始3年以前に事業的規模で貸付事業を行っていた場合は適用可)。
- 「相当の対価」で貸し付けていること。
この中で見落としがちなのは、「相当の対価」です。
「相当の対価」は、純然たる第三者に貸している場合はあまり問題になりませんが、恣意的な価格を設定できる同族会社に貸している場合は、気をつけなくてはいけません。
相当の対価を得ていないと、「事業とはいえない」というのが、その理由です。
たとえば賃料が「固定資産税」くらいだと、「相当の対価」とはいえず、貸付事業用宅地等に該当しなくなります。
相当の対価の目安としては、次のものがあります。
- 賃料から経費を引いた後に相当の利益が残る。
- 周りの賃料と比べて離れていない。
相当の対価は見逃しやすい要件なので、気をつけておきましょう。
・No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
その他の宅地と一緒に小規模宅地等の特例を受けるときは、下記記事をご覧ください↓
貸付事業用宅地等の対象となるパターン
1.不動産転貸型法人の場合
被相続人が所有していた宅地を、同族会社に貸付け(相当の対価)、同族法人はこれを他に貸し付けていました。
いわゆる転貸型の不動産管理法人です。
この宅地を、相続によって相続人が取得し、そのまま貸付事業を継続して行っていく場合、貸付事業用宅地として小規模宅地の特例を受けることができます。
同族法人に有償で貸し付けていて、不動産貸付事業の要件をクリア、なおかつ事業継続・保有要件も満たしているからです。
2.不動産管理型法人の場合
被相続人は所有していた土地・建物を第三者に貸付け、同族法人がその貸し付けに関する管理を行っていました。
この場合、相続人が相続によって取得したこの土地は、貸付事業用宅地等になり、200㎡まで50%の減額を受けられます。
不動産の管理は誰が行っているかは、貸付事業用宅地等の適用要件とは関係ありません。
したがって、第三者に貸している不動産貸付事業の要件を満たし、なおかつ、相続人が事業継続・保有要件をクリアしていれば、貸付事業用宅地等の対象になります。
3.不動産所有型法人の場合
被相続人が所有していた土地の上に、同族法人所有の建物が立ています。
土地は同族法人が借り、賃貸料は、固定資産税の3倍程度で、無償返還の届け出を税務署に提出しています。
土地の上の建物は、同族法人が第三者に貸しています。
この土地を相続によって、相続人が取得し、そのまま同族法人に貸付けを継続している場合、相続人が取得した土地は、貸付事業用宅地等に該当し、200㎡まで50%の減額を受けられます。
土地は第三者(不動産所有型法人)に貸付けられ、相続人が事業継続・保有要件を満たしているからです。
なお、土地の評価額は、自用地価格の80%になり、残り20%を同族法人で資産に計上することになります。
4.建築中の貸家の場合
被相続人は、生前に貸家を所有していました。
その貸家が老朽化したことから、建物の建替えを行いました。
しかし、その建替え中に被相続人がお亡くなり、相続人が土地・建物を相続によって取得しました。
なお、相続税の申告期限までに、建物は完成し、賃貸事業を継続する見込みです。
この場合、この宅地は貸付事業用宅地等の対象になり、200㎡まで50%の減額を受けられます。
事業用の建物を建替え中に相続が起こった場合、
当該相続開始直前において当該被相続人等の当該建物等に係る事業の準備行為の状況からみて当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったと認められるとき
租税特別措置法関係通達 69の4-5 事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合
は、事業用宅地等として取り扱うとされています。
そして、被相続人の生計一の親族、または、建物か建物の敷地の用に供されていた宅地等を相続で取得した相続人が、
当該建物等を相続税の申告期限までに事業の用に供しているとき
は、
当該相続開始直前において当該被相続人等が当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったものとして差し支えない
となります。
まとめると
- 相続開始前から貸付事業を営んでいた。
- 相続開始前に、被相続人の貸付事業に使われていた建物を取壊して、建替え中だった。
- 建替え中の建物は、上記貸付け事業のために使う建物だった。
- 建替え中の建物が、被相続人、または被相続人の親族の所有。
- その建築中の建物が、速やかにその事業に使われることが確実だった。
- 生計一親族か、その建替え中の建物か宅地を取得した被相続人の親族が、相続税の申告期限まで、自己の事業の用に使っている。
この要件に当てはまると、貸付事業用宅地等の対象となり、小規模宅地等の特例を受けられるということです。
事例の場合は、この要件を満たします。
5.月極駐車場の場合
月極駐車場の場合、貸付事業用宅地等に該当します。
貸付事業用宅地等は、賃貸マンションや駐車場などの貸付事業に使われていた宅地のことをいい、駐車場の規模(1台であっても)、営業形態は問われません。
そのため、月極駐車場は貸付事業用宅地等の対象になります。
ただし、この貸付事業用宅地等と認められるには、アスファルト舗装、コインパーク施設などの、「構築物が設置されていること」という要件が付きます。
構築物のない青空駐車場は、規模や営業業態にかかわらず、貸付事業用宅地等に該当しません。
なお、砂利敷は、構築物と認められるかどうか、状態によって税務当局と見解の相違を生じさせることがあり、できることなら、アスファルト舗装や駐車設備の整った状態にしておくのが望ましいといえます。
貸付事業用宅地等の対象とならないパターン
1.相続税の申告期限までに譲渡した場合
被相続人が所有していた貸家と宅地を、相続人が相続しました。
しかし、相続人は、その土地と宅地を、相続税の申告期限までに譲渡してしまいました。
この場合は、貸付事業用宅地等の対象外となります。
貸付事業用宅地等に該当するためには、相続税の申告期限まで、引き続き当該宅地を所有している必要があります。
このケースでは、宅地と建物を相続税の申告期限を待たず、相続人が譲渡していますので、貸付事業用宅地等に該当しないことになります。
2.借主が相続した場合
被相続人Aが所有していた土地・建物を。生計が別である相続人Bが賃貸して飲食店を経営していました。
この土地・建物を、Bが相続により取得しました。
この場合、貸付事業用宅地等の対象外になります。
貸付事業用宅地等に該当するためには、事業継続要件を満たさなくてはいけません。
しかし、この宅地を賃貸していたBが取得すると、民法の混同により、貸主の立場がなくなります。
その結果、貸付事業はBが土地を取得した時点で、継続要件を満たすことができず(貸付事業が継続していると認められない)、貸付事業用宅地等の対象外となります。
このケースで、貸付事業用宅地等の対象とするためには、Bとは別の相続人が取得し、それをBに貸さなくてはいけません。
3.新規事業の建物の建築中に相続が起こった場合
被相続人は、所有する空き地に立体駐車場を建築していましたが、その建築中にお亡くなりになりました。
被相続人の配偶者は、この建物を相続し、完成後、駐車場を営んでいます。
この場合、この宅地は、貸付事業用宅地等の対象になりません。
建物の建替え中に相続が起こった場合、一定の要件を満たせば、貸付事業用宅地等に該当しますが、それは、従前の建物に代わるべき建物を建築していたときです。
したがって、新たに事業を営むために建築中の建物は、特例の対象外となってしまいます。
事例の場合、建築中の建物の敷地は、被相続人の事業の用に供されたものではないため、貸付事業用宅地等には該当しないというわけです。
まとめ
貸付事業用宅地に認められるかどうかで、200㎡まで50%の減額が受けられます。
対象になれば相続税を大幅に減らせます。
要件をしっかり守って、貸付事業用宅地等に該当するようにしておきましょう。
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