マイホームを売却して利益が出ると、その利益(譲渡所得)に対し所得税が課せられます。
しかし、この譲渡所得に対し、「3,000万円控除」してくれる制度があります。
これを、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます(以下、3,000万円の特別控除)。
この記事では、3,000万円の特別控除についてわかりやすく解説します。
3,000万円の特別控除とは
マイホームを売却したときに、売却益が出ると、それに対して所得税が発生します。
この所得税の対象となる利益を、「譲渡所得」といいます。
この譲渡所得に対し、3,000万円の控除してくれる制度が、3,000万円の特別控除です。
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を引いた後の金額のことをいいます。

建物の取得費は、建物の購入価格ではなく、「減価償却費を引いた後の金額」になります。
たとえば、建物2,000万円で購入し、減価償却費の累計が800万円なら、その建物の取得価格は1,200万円(2,000万円-800万円)となります。
不動産の売却時の減価償却について詳しくは、こちらの記事をご覧ください↓
つまり、3,000万円の特別控除を利用した場合、売却益が3,000万円以内なら税金は発生せず、3,000万円以上なら、超えた部分に対して税金が発生するということです。
さらに、3,000万円の特別控除は、所有期間に関係なく受けられることができるため、もし5年以内の短期譲渡になっても、譲渡所得に対して丸々39.63%の課税されることなく、税額を低く抑えることができます。
その年に2回売却しても受けられる
ちなみに、3,000万円の特別控除には所有期間の制限はありません。
したがって、同一年に自宅を2回売却するようなケースでも、新旧の自宅両方に、3,000万円の特別控除を受けられます。
ただし、控除額は合わせて3,000万円が限度となります。
3,000万円の特別控除の要件
3,000万円の特別控除の要件は次の通りです。
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋と一緒にその敷地や借地権を売ること。
- 住まなくなった土地や自宅の場合は、住まなくなった日から3年を経過する日が属ずる年の12月31日にまでに売ること。
- 自宅を取り壊したときは、取り壊した日から1年以内に敷地の譲渡契約を締結し、なおかつ、住まなくなった日から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売ること。
- その際、土地を貸駐車場など、その他の用途に利用してないこと。
- 売った年、その前年および前々年に、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
- 売った年、その前年および前々年に、マイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。
- 売った自宅や敷地などについて、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
- 災害によって滅失した自宅の場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
土地と建物の所有者が違う場合でも特例を受けられる
3,000万円の特別控除は、原則として、家屋の所有者が、その敷地と自宅を売却したときに受けられる特例です。
ただし、土地と家屋の所有者が異なる場合でも、次の要件をすべて満たせば特例を受けることができます。
- 敷地と家屋を同時に売ること。
- 家屋の所有者と敷地の所有者とが親族関係にあり、生計を一にしていること。
- その敷地の所有者は、その家屋の所有者と一緒にその家屋に住んでいること。
このときの3,000万円の控除を引く順序は、はじめに家屋の所有者、次に敷地の所有者となります。
土地から控除できるように対策をしておく
3,000万円の特別控除は、土地と建物の所有者が別々の親族であっても、同居して同一生計なら受けることができます。
しかし中には、土地と建物の所有者が違い、同居もしてないケースもあります。
たとえば、土地は父親の所有、建物は子供の所有という場合です。
このようなケースで、子供が建物を売却する場合でも、要件を満たしていれば、3,000万円の特別控除は受けられます。
しかし、ここでポイントになるのが、「建物からは売却益が出ない」ケースです。
建物は古くなると価格が下がるため、売却益が出ないことが通常です。
売却益が出るのは、土地からの売却益がほとんどです。
そのため、土地の所有者が親、建物の所有者が子供といった、土地建物の所有者が別々の場合、建物だけ売却しても、3,000万円の特別控除の恩恵を受けられずに終わってしまいます。
そこで、もし将来に自宅を売却する予定があるのなら、土地と建物を所有者を同一にしておくと、このような事態を避けられます。
たとえば、土地は父親所有、建物は子供所有であれば、土地を子供に贈与して子供名義にしておけば、3,000万円の特別控除を受けられるようになります。
あるいは、子供が建てる家に父親が住む場合でも、お金を父親に貸して父親名義で家を建て、土地と建物を父親所有にしておけば、3,000万円の特別控除を受けられます。
土地は親の所有で、その土地の中に、親と子供が別々に家を建てて住んでいることがあります。
建物は、それぞれが自分で所有しています。
この場合、土地全体と親と子の2棟の建物を売却したときは、父親が居住の用に供している敷地部分と建物に対してしか、3,000万円の特別控除を受けることはできません。
3,000万円の控除の対象となるのは、「その者が主として居住の用に供していると認められるひとつの家屋」のみとなります。
それぞれが独立した2棟の建物がある場合は、所有者が主として居住用に使っているのは1棟のみと考えられ、子供が居住用に使っている建物とその敷地部分は3,000万円の特別控除は受けられなくなります。
もし、親と子供の家で渡り廊下を設置して、生計一であれば、建物が1棟とみなされ、3,000万円の特別控除を受けられます。
ちなみに、隣同士の2戸のマンションを一体にして自宅として利用している場合、2戸のマンションを一括売却したときは、2戸に対して3,000万円の特別控除を利用できます。
反対に、2戸のうち一戸を売却して、残り一戸に住み続ける場合には、残った1戸で居住用の家屋としての機能を果たすので、3,000万円の特別控除は受けられません。
夫婦共有なら3,000万円の控除を別々に受けられる
3,000万円の特別控除は、所有者1人1人が受けられる特例です。
そのため、土地と建物を夫婦でそれぞれ共有する場合は、各々が3,000万円の特別控除を受けられます。
※土地と建物が、夫婦でそれぞれ別名義の場合は、先述した条件を満たせば受けられます。
たとえば、夫名義の土地と建物を、婚姻期間20年以上の配偶者贈与を使って無税で贈与し(2,000万円までは無税)、土地と建物を1/2ずつで共有したとします。
その数年後に、土地と建物を売却し、譲渡所得が6,000万円出たとします。
もし、夫だけの単独所有なら、6,000万円から3,000万円を引いた譲渡所得、3,000万円が課税対象になります。
・6,000万円-3,000万円(特別控除)=3,000万円
それに対し、夫と妻で1/2ずつ共有していたなら、譲渡所得は0円で、所得税も0円となります。
・夫:6,000万円×1/2-3,000万円(特別控除)=0円
・妻:6,000万円×1/2-3,000万円(特別控除)=0円
近い将来、自宅を売却する予定があるなら、配偶者への贈与を考えてみるのも方法です。
所有期間10年超の税率優遇と併用できる
3,000万円の特別控除には、所有期間10年超の税率優遇を併用して受けられます。
これは、「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」といわれるもので、所有期間が10年を超える自宅を売ったときは、6,000万円以下と6,000万円以上で、次の税率の優遇を受けることができる制度です。
6,000万円以下の部分 | 6,000万円超の部分 | |
所得税 | 10.21%※ | 15.315%※ |
住民税 | 4% | 5% |
合計 | 14.21% | 20.315% |
不動産を売ったときの税金については、下記記事をご覧ください↓
マイホームを売ったときの軽減税率の特例の要件
マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、次の5つの要件をすべて満たさなくてはいけません。
- 日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること。
- 売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。
- 売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
- 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと。※3,000万円の特別控除は除く
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと。
この要件のうち気をつけなくてはいけないのが、
売った家屋や敷地の所有期間が「とも」に10年を超えていること
です。
所有期間が10年ですので、住んでいなくても大丈夫なのですが、土地と家屋の所有期間が「ともに」10年を超えていなくてはいけないのです。
たとえば、土地の所有期間が10年超、家屋の所有期間が10年以下なら、土地と家屋の全体に対して、この特例を使うことができなくなるということです。
では、すでに所有していた自宅と土地の隣(ともに所有期間10年超)に、後から土地を追加して購入した場合、追加購入した土地の所有期間が10年以下のときは、軽減税率を受けられなくなってしまうでしょうか?
答えは否。
所有期間が10年超の部分は、軽減税率の特例を受けることができ、所有期間が10年以下の追加購入した土地は受けることができません。
3,000万円の特別控除の注意点
3,000万円の特別控除にはいくつかの注意点があります。
1.本当に住んでいること
3,000万円の特別控除を受けるには、売却する家屋に「本当に住んでいる」事実がなくてはいけません。
実際、次の条件に当てはまると、3,000万円の特別控除は受けられなくなります。
- この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋
2.住宅ローン控除との併用はできない
住宅ローン控除とは、「年末時点での住宅ローンの残高の1%」が、入居時から10年間にわたって、給与などから納めた所得税や住民税から控除される制度のことをいいます。
この制度と3,000万円の特別控除は、併用することができません。
具体的には、自宅を売却して、新居を購入する場合です。
新居に入居した年と、それ以前の2年間の間に、3,000万円の特別控除を受けた場合は、住宅ローン控除は受けられなくなります。
あるいは、新居に入居した年の翌年から3年以内に旧宅を売却し、3,000万円の特別控除を受けた場合も同様です。
もし旧宅を売却して新宅を購入する場合は、
- 古い自宅の売却益に3,000万円の特別控除を受けて、譲渡所得を減らす。
- 新しい自宅で住宅ローン控除を受けて、10年間にわたって所得税を還付してもらう。
という二択が必要になります。
どちらが有利になるか、しっかりシミュレーションしてみましょう。
住宅ローン控除を受けられる場合
ただし、夫が家屋の所有者、妻が土地の所有者のように、家屋と土地が別々の所有者で、土地と建物を同時に売却し、
- 夫所有の建物→売却益なし
- 妻所有の土地→売却益あり
という場合、妻所有の土地から、3,000万円の特別控除を受けることになります。
このとき、夫は3,000万円特別控除を受けることができないため、新たに住宅を取得する場合は、夫は住宅ローン控除を受けることができます。
・家屋と土地の所有者が異なる場合で家屋について譲渡益が算出されないときの居住用財産の譲渡所得の特別控除と住宅借入金等特別控除の関係
3.先に転居したとき、建物を取壊したときの適用期限
旧自宅を売却する前に、新居に転居して、そのあとに旧自宅を売却することがあります。
この場合3,000万円の特別控除を受けるには、住まなくなった日から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却しなくてはいけません。
また、買い主からの要望で、建物を取り壊して更地にして売却することもあるでしょう。
その場合でも、建物を取壊してから1年以内に売買契約を締結し、住まなくなった日の3年を経過する日の属する年の12月31日までに引きわたせば、3,000万円の特別控除を受けられます。
注意すべきは、建物を取壊した日ではなく、新居に転居してから3年を経過する日が属する年の12月31日までに引き渡しが必要になることです。
まとめ
不動産を売却した時の税金は、優遇があるといっても、高額になるときもあります。
それが3,000万円の特別控除を受けられれば、約600万円の節税になります(3,000万円×20%※5年超の所有期間)。
これは大きな金額です。
要件しっかり満たして、3,000万円の特例を受けられるようにしておきましょう。
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