駐車場で相続税対策をするには「小規模宅地等の特例」の対象になるかがポイント

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相続税対策に土地の活用は欠かせまんが、土地を駐車場として貸し出している場合も、相続税を減額する効果を得られます。

とくに、「小規模宅地等の特例」を受けられるかどうかがポイントです。

小規模宅地等の特例を受けることができれば、土地の評価が50%減額されます(200㎡まで)。

この記事では、土地を駐車場として貸し出している場合の相続税対策について解説します。

小規模宅地等の特例の詳しい解説はこちらをご覧ください↓

駐車場の評価方法

駐車場の場合は、自分で直接ユーザーに貸している場合と、駐車場業者に貸しているケースで、評価方法が変わります。

前者と後者では、評価額が異なるので混同しないようにしましょう。

自分で直接ユーザーに貸している場合

自分の土地をユーザーに駐車場として直接貸している場合、いわゆる自分で駐車場経営をしているケースです。

このときの土地の評価は「自用地」となります。

自用地とは、自分で自由に利用できる「利用制限のない土地」のことをいいます。

そのため、土地の評価減はありません。

その理由は、駐車場として土地を一定期間貸す契約は、あくまで車の保管を目的としたものだからです。

ユーザーは、土地そのものを利用する目的で借りるわけではありません(たとえば土地の上に車庫を建てて利用する)。

要は、借りた土地の上に建物を立てて利用するといった、土地の利用を目的とする賃貸借契約とは異なるということです。

そのため、駐車場の賃貸借契約によって、自分の土地に利用制限がかかることもなく、自用地として評価されてしまうというわけです。

No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価

ただし、後で説明しますが、駐車場にアスファルト舗装などをすることによって、「小規模宅地等の特例」を受けることができ、200㎡までの部分は土地の評価を50%減額できます。

駐車場事業者に貸している場合

上記の契約は、土地の利用を目的としてない賃貸借契約ですが、借りた土地の上に車庫などを建てて駐車場として利用する場合があります。

駐車場経営をしている企業に、土地を貸す場合などがこれに当たります。

このような、土地そのものの利用を目的とした契約は、土地の賃貸借となります。

そのため、土地の所有者は自由に自分の土地を利用することができなくなり、その分だけ土地の評価が下がります。

具体的には、その土地の自用地としての価額から、賃借権の価額を控除した金額によって評価します。

この場合、土地の上に存する権利によって、2通りの評価法に分かれます。

①地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権
賃借権の残存期間5年以下5年超10年以下10年超15年以下15年超
割合5%10%15%20%

ただし、地上権は非常に強い権利であるため、ほとんどのケースで利用されることはありません。

② ①以外の賃借権
賃借権の残存期間5年以下5年超10年以下10年超15年以下15年超
割合2.5%5%7.5%10%

一般的には、こちらの賃借割合で計算されます。

たとえば、自用地価格2,000万円の土地を残存期間10年以下で貸している場合の相続税評価額は、1,900万円となります。

・2,000万円-(2,000万円×5%)=1,900万円

駐車場も小規模宅地等の特例で50%の評価減ができる

上記は土地の評価方法の話ですが、土地を相続した場合には、「小規模宅地等の特例」を受けることができます。

小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たす土地を相続した場合、一定の面積までは、50%ないし80%、土地の評価を減額してくれる制度です。

駐車場を相続した場合も、一定の条件を満たすことで、小規模宅地等の特例を受けることができます。

ただし、駐車場の場合は、200㎡までの部分を50%の減額です。

その条件とは、大まかにいうと次の2つです。

  1. 建物または構築物の敷地であること
  2. 相続税の申告期限までにその土地を保有し、貸付事業を継続していること

この条件にあてはまると、その土地の200㎡までの部分は50%の評価減の対象となります。

つまり、自用地価格の50%が評価減になるということです。

なお、この場合の駐車場には、自分で駐車場経営している場合以外にも、土地を駐車場事業者に貸している場合も該当します。

その場合、50%減額前に、先述した賃借権を引くことができます。

ただし、一口に駐車場といっても、小規模宅地等の特例を受けられる駐車場と受けられない駐車場があるので注意が必要です。

200㎡まで50%減額できる貸付事業用宅地等の詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください↓

小規模宅地等の特例を受けられる駐車場

小規模宅地等の特例を受けられる駐車場は、次の通りです。

1.アスファルトで舗装された駐車場

小規模宅地等の特例を受けられる駐車場の条件には、「建物または構築物の敷地であること」があります。

この「構築物」にあたる代表例がアスファルト舗装です。

アスファルト舗装をした駐車場は、小規模宅地等の特例の対象になります。

アスファルトは駐車場全体に舗装されている必要はなく、一部分だけでも、その舗装された敷地部分のみ、小規模宅地等の特例を受けることができます。

ただし、駐車場全体に対して、アスファルト舗装部分が極端に小さい場合は、否認される可能性がありますので注意が必要です。

一部のみがアスファルトで残りが土の駐車場

2.砂利の駐車場

砂利を引いた駐車場も小規模宅地等の特例の対象となります。

ただし、砂利がしっかり敷かれていることが前提です。

砂利の量が足りず、土地の表面が出ていたり、砂利が埋没しているような状態だと、すぐに砂利を撤去できてしまうため、否認される怖れがあります。

その場合、小規模宅地等の特例を受けるためには、

  • 砂利を十分量しっかり敷く
  • アスファルト舗装にする

などの対策が必要となります。

3.コインパーキング式等の駐車場

コインパーキングやタワー式の駐車場など、すぐに撤去できないしっかりした「構築物」がある場合は、小規模宅地等の特例を受けられます。

土地をコインパーキング業者に貸している場合も対象ですし、設備を業者から借りて自分で経営している場合も受けられます。

駐車場1台からでも小規模宅地等の特例の対象となる

ちなみに、小規模宅地等の特例の要件を満たす駐車場なら、駐車台数が1台のスペースでも、空きスペース(10台中5台が空いているなど)があっても受けられます。

小規模宅地等の特例を受けられない駐車場

小規模宅地等の特例を受けられない駐車場は、次のパターンです。

1.青空駐車場

自分で駐車場経営いてる場合も、駐車場事業者に土地を貸している場合も、小規模宅地等の特例を受けることはできますが、いわゆる青空駐車場の場合には、この特例を受けることはできません。

青空駐車場とみなされるのは、

  • 敷地にロープを張っただけ
  • 車止めが置いてあるだけ

といった、構築物のない駐車場です。

ロープが張ってあるだけ、車止めの石が置いてるだけでは、いつでも撤去できますし、設置するのも簡単にできてしまいます。

このような簡易的な措置を、構築物ということはできません。

そのため、青空駐車場は「建物または構築物の敷地であること」という条件を満たすことができないのです。

青空駐車場の土地評価は、自用地となります。

駐車場は借地借家法の適用はありませんので、借主を保護する強い権利はありません。

契約の更新時期が来れば、更新をせずに終了させることができ、しかも契約終了後は、自分の建物をすぐ建てることもできます。

したがって、青空駐車場は利用制限のない土地とみなされ、自用地価格としての評価額になります。

自用地の評価の仕方はこちらの記事をご覧ください↓

青空駐車場に該当させないためには、更地の駐車場をアスファルト舗装などにして、「構築物が敷設されている状態」にしておかなくてはいけません。

2.無償または低額で貸している駐車場

構築物のある駐車場でも、無償やあり得ない安さで貸している場合は、小規模宅地等の特例の対象になりません。

駐車場などが当てはまる、貸付事業用の小規模宅地は「相当の対価」で貸し付けを行う必要があります。

相当の対価とは、

  • 賃料から経費を引いても相当の利益が残る
  • 周辺の相場と比べて乖離がない

といった面から判断されます。

仮に、固定資産税程度の賃料だと、この2つの基準を超えることはできないので、「相当の対価とはいえない」と判定されてしまいます。

家族や親戚だからといって、駐車料金を安く設定しているなら要注意です。

3.貸駐車場に自家用車を止めている

小規模宅地等の特例を受けられる要件は、貸付事業を行っている場合です。

したがって、自家用車を止めている部分は、小規模宅地等の特例を受けることはできません。

この場合は、自家用車を止めている部分を除いた面積が、小規模宅地等の特例の対象になります。

駐車場を相続税対策に利用する場合の注意点

相続税対策として、駐車場をお考えなら、

  • 相続発生前の3年以内に取得した土地
  • 相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地

に該当しないように注意しましょう。

上記の要件に当てはまると、小規模宅地等の特例の「対象外」となります。

これは、相続を見越して、相続税対策をはじめる人への封じ込め対策です。

したがって、駐車場で相続税対策を行うなら、少なくとも「3年以上の期間」を見ておかなくてはいけないということです。

固定資産税・都市計画税のアップに注意

空き家を取り壊して駐車場にする場合は、その建物が立っていた土地の固定資産税・都市計画税は2倍~4倍高くなります。

居住用家屋の敷地として利用されている土地(住宅用地)については、税の負担を軽減する「住宅用地に係る課税標準額の特例」が適用されます。

しかし、居住用家屋を取り壊したり、土地の用途を居住用から変更したりすると、「住宅用地に係る課税標準額の特例」の適用が外されてしまい、その結果、固定資産税と都市計画税が高くなるのです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください↓

住宅用地を駐車場にするときは、しっかりコスト計算をしておきましょう。

駐車場とアパート等の相続対策との対比

土地の相続対策には、駐車場以外にもアパート等を利用した対策もあります。

これは、自分の土地の上に賃貸物件を建てることで、土地の評価減を狙ったものです。

では、駐車場とアパートでは、どちらが土地の評価を下げることができるでしょう?

結論からいえば、アパートなどの賃貸物件を建てた方が、土地の評価は下がります。

宅地の評価は、利用制限や権利の有無で次のような種類に分けることができます。

  • 自用地(自分で利用している利用制限のない土地)
  • 貸宅地(第三者が建物を建築して地代をもらっている土地)
  • 貸家建付地(自分が所有する賃貸アパートの敷地)
  • 借地権(地主に地代を支払って建物を所有している場合の土地の利用権)
  • 貸家建付借地権(地主に地代を支払って賃貸アパートを所有している場合の土地の利用権)
  • 転貸借地権(第三者に転貸している借地権)
  • 転借権(借地権者から転貸された土地の利用権)

最もポピュラーな相続対策は、自分の所有する土地の上に、アパートなどの賃貸物件を建てて運営する方法です。

その場合の土地の評価は、「貸家建付地」となります。

貸家建付地は借地権と借家権の割合だけ、評価額を下げることができます。

・貸家建付地の価額=自用地としての価額-(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合※)

※賃貸割合とは、アパートのように貸家の各独立部分がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて計算した割合をいいます。

・賃貸割合=課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積÷当該建物の各独立部分の合計床面積

借地権割合は、国税庁が30~90%(10%刻み)の間で定めていて、地域によって割合が異なりますが、借家権は全国一律30%と定められています。

たとえば、土地の自用地価格が2,000万円、借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合で計算すると、土地の評価額は1,580万円まで下がります。

・2,000万円-(2,000万円×70%×30%×100%)=1,580万円

2,000万円の土地を駐車場事業者に最長の15年超で貸している場合で計算してみると、その評価額は1,800万円ですから、差額は220万円になります。

・2,000万円-(2,000万円×10%)=1,800万円

駐車場はアパート経営などに比べ、気軽にはじめられますが、相続税対策としては効果は小さいといえます。

まとめ

土地を駐車場にした場合も、土地自体の相続税評価額を下げることができることに加え、要件を満たせば、小規模宅地等の特例も受けることができます。

貸付事業の小規模宅地等の特例の場合、200㎡まで50%の減額ですから、かなりの相続税対策となります。

ただし駐車場でも、小規模宅地の特例の対象になるものとならないものがあるので、対象とならないなら、適用される条件を今から整えておきましょう。

また、相続開始3年以内に駐車場をはじめた土地も、小規模宅地等の特例を受けられませんので、相続税対策は早め早めの行動が重要になることも、付け加えておきます。

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