相続税に大きく影響を与えるのが土地です。
その価格がいくらになるかは、相続税対策には不可欠といえるでしょう。
大まかな相続税額を算出しておくことはもちろんのこと、相続時の土地の評価の仕方を知ることで、事前に対策を打つことができます。
しかし、土地の評価方法を知らなければ、いわれるがままの相続税を納める羽目になります。
この記事では、相続時における土地の評価の仕方について解説します。
相続税評価額を決める路線価方式と倍率方式
相続税の算出基準となる土地の評価方法は、
- 路線価方式
- 倍率方式
の2種類があります。
路線価方式とは、路線価が定められている地域の土地の相続税評価方式です。
路線価とは、道路に面する標準的な1㎡あたりの価格をいい、この価格に土地の平米数をかけて相続税評価額を求めます。
もう一方の倍率方式とは、路線価が定めらていない地域の土地の相続税評価額を求めるときに使います。
倍率方式の計算方法は、固定資産税評価額が基になっています。
すなわち、固定資産税に決められた倍率をかけて土地の評価額を算出します。
このように相続税評価額を求めるのに2種類の計算方法がありますが、基本は路線価方式で求めて、路線価のない地域では倍率方式で算出することになります。
路線価方式による土地の評価の求め方
路線価は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」から調べられます。
道路のところに「215D」や「270D」と記載されているのが路線価です。
「215」のうち、「215」は千円単位の表示です。
215に千を乗じてやれば、215,000円であることがわかります。
・215×1,000=215,000
これはつまり、その道路に面した土地が1㎡あたり、215,000円であることを表します。
たとえば、自分の所有している土地200㎡が、「215D」と記載されている道路に面しているなら、その土地の路線価は4,300万円となります。
・215,000円×200㎡=4,300万円
なお、「215」の横にあるアルファベットの「D」は、借地権割合のことです。
アルファベットが示す借地権割合は次の通りです。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
倍率方式による土地の評価の求め方
倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に、地域・地目ごとに定められた倍率を乗じて計算します。
・倍率方式による土地の評価額=固定資産税評価額×倍率
たとえば、土地の現況が宅地で倍率が1.1、対象の土地の固定資産税評価額が1,000万円の場合、倍率方式で算出した相続税評価額は1,100万円となります。
・1,000万円×1.1=1,100万円
補正率を使って評価額を減額する
路線価方式で算出した評価額は、あくまで基本の価格です。
土地は画一的なものでなく、地形や置かれた状況は様ざまですから、個別の事情を反映させるために「補正率」を使って価格を修正します。
補正率は、宅地の形状によって、路線価を減額補正するための割合です。
宅地によっては、道路から奥まっていたり、形がいびつで利用価値が低かったりしますが、路線価自体にその事情は反映されていません。
そのため、補正率を使って、現状に合わせた価格に修正する必要があるのです。
※倍率方式の場合は、固定資産税評価額を算出する際に、すでに個別の土地事情が斟酌されているため、倍率を乗じた後の金額を補正することはありません。
主な補正率は次の5つです。
- 奥行価格補正率
- 不整形地補正率
- がけ地補正率
- 間口狭小補正率
- 奥行長大補正率
奥行補正率
奥行価格補正率とは、土地が接している道路からの奥行が深い場合や、反対に浅い場合の土地の価格を減額するための補正率です。
道路からの奥行が深すぎても浅すぎても、土地は利用しづらくなるため、その分の減額を奥行補正率を使って補正します。
・路線価×奥行価格補正率×面積
普通住宅地の場合は、奥行の長さが12m以上~32m未満だと、減額はありません(「1.0」ということです)。
奥行価格補正率は下記から確認できます。
不整形地補正率・かげ地補正率
不整形地とは、整形地(正方形や長方形)でない、いびつな土地のことをいいます。
不整形地の代表的なものは次の通りです。
- 角地(隅切り地)
- 三角地
- 旗竿地(L字型の土地)
- 台形・平行四辺形の土地
- 境界がギザギザ(のこぎり刃状)になっている土地
不整形地は、形状がいびつなため、建物を立てるときに敷地が有効利用できず、その分だけ価値が下がるのが一般的です。
そこで、不整形地補正率を使って、減額するというわけです。
不整形地の評価には、「かげ地」割合を求めます。
かげ地は、不整形地全体を囲むように、道路に面した四辺形(矩形)を描き(想定整形地)、その中の不整形地以外の部分をいいます。
このかげ地割合が大きいほど、減額も大きくなります。
かげ地割合を決める計算式は下記のとおりです。
・かげ地割合=(想定整形地の地積-不整形地の地積)÷想定整形地の地積
したがって、上記の場合だとかげ地割合は、33%となります。
・(300㎡-200㎡)÷300㎡=33%
そのかげ地割合と、土地があるエリアによって、不整形地割合いが決まります。
間口狭小補正率
間口狭小補正率は、間口の小さい土地の価格を減額するための補正率です。
間口が狭ければ、道路からの入り口を広くとることができます、土地の利便性が下がります。
そこで、間口狭小補正率を使って減額修正するというわけです。
間口狭小補正率は、その土地があるエリアによって異なり、普通住宅地区の場合なら、間口の広さが4m以下だと、1割近い0.9の減額となります。
奥行長大補正率
先に奥行価格補正率がありましたが、奥行長大補正率とは別物です。
奥行長大補正率は、間口に対して奥行距離が2倍以上長い場合に減額する補正率です。
奥行長大補正率=奥行の長さ÷間口の広さ
下図のように、同じ間口の広さでも、奥行の長さが2倍以上か2倍以内かで、奥行長大補正率が適用できるかどうかが決まります。
左は2倍以上で奥行長大補正率が適用されますが、右は2倍以下なので適用されません。
補正率をかけ合わせる場合の評価額
路線価に補正率をかけ合わせた場合のシミュレーションをしてみます。
例)
- 土地の広さ:200㎡
- 路線価:15万円
- 適用される補正:不整形補正(0.98)、間口狭小補正(0.90)、奥行長大補正(0.98)
・15万×0.98(不整形地補正)×0.9(間口狭小補正)×0.98(奥行長大補正)×200㎡=2,593万800円
補正率がなければ、路線価は3,000万円です。
それに対し補正率が適用されると約407万円の減額となります。
通常時であれば土地の使いにくさはマイナスでしかありませんが、相続税の評価では逆にプラス面に働きます。
逆にいえば、適用できる補正率はしっかり適用しておかないと、無駄に評価を上げてしまうということです。
角地、2方路地の土地の評価の求め方
ここまで説明してきたものは、道路に一面しか接してない土地の評価方法です。
土地はそれ以外にも、角にある十地や、二方向に道路が接している土地もあります。
このような場合、路線価ではどう評価するでしょう?
角地の評価額の求め方
角地の評価額の求め方は、
・(正面路線価+側方路線価)×面積
になります。
上記計算式からもわかる通り、角地の場合は、正面路線価に側方路線価を足して相続税評価額を求めます。
これは、2つの道路に接していた方が利便性が高いことから、評価の時には増額の対象となるためです。
たとえば次のような角地の場合、最初に「200」と「210」のどちらの路線価が正面路線価になるか計算します。※路線価の単位は千円
正面路線価は、高い方となる金額です。
路線価を計算する際は、先述した奥行価格補正率で、道路に対し奥行何mあるかで、補正率を乗じます。
普通住宅地での奥行価格補正率は、20mで1.0、30mで0.95です。
- A路線:路線価200×奥行価格補正率1.0=200,000円
- B路線:路線価210×奥行価格補正率0.95=19万9,500円
計算の結果、A路線の方が高いので、正面路線価はA路線の200,000円となります。
側方路線価の求め方
一方のB路線の側方路線価は、路線価に奥行価格補正率を乗じた金額に、さらに「側方路線影響加算率」を掛けて価格を求めます。
・側方路線価=路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率
先ほどの例の地区区分は、「普通住宅地区」となりますので、その場合の角地の側方路線影響加算率は「0.02」です。
以上の数値で計算すると、側方路線価は3,990円となります。
・路線価210×奥行価格補正率0.95×側方路線影響加算率0.02=3,990円
後は、正面路線価と側方路線価を足して、1㎡あたりの単価を出し、それに土地の面積を乗じると、相続税評価額を算出できます。
その結果、例題の土地の相続税評価額は、1億2,239万4,000円となります。
・(200千円+3.99千円)×600㎡=1億2,239万4,000円
2方路地の評価額の求め方
2方路地とは、道路に正面と背面の2方面から接する土地のことですが、相続税評価額の場合は、正面と背面の道路に路線価が設定されいる土地のことをいいます。
したがって、一方にしか路線価が設定されてない場合は、形の上では2方路地でも、相続税の土地評価においては2方路地とはなりません。
2方路地の場合も、どちらが正面路線価となるか計算で求めます。
原則は、路線価に奥行価格補正率を乗じて、高い方の路線価が正面路線となります。
たとえば、下図の場合で計算してみます。
A路線の路線価は200千円、奥行価格補正率は1.0、B路線の路線価は180千円、奥行価格補正率は1.0です。
計算結果は次の通りで、正面路線はA路線で路線価は200千円となります。
- A路線:200×1.0=200千円
- B路線:180×1.0=180千円
背面路線となったB路線には、二方路線影響加算率を加えて、路線価を求めます。
・二方路線影響加算後の路線価=路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率
例題では、土地のあるエリアは普通住宅地区ですので、二法路線影響加算率は「0.02」になります。
したがって、B路線の路線価は3,600円となります。
・路線価180×奥行価格補正率1.0×二方路線影響加算率0.02=3,600円
後は、正面路線価と背面路線価を足して、土地の面積を乗じれば、その土地の相続税評価額を算出できます。
その結果、例題の土地の相続税評価額は、6,108万円となります。
(200,000円+3,600円)×300㎡=61,080,000円
土地の利用状況によって評価は下がる
土地の評価は、地形や接道状況だけでなく、利用状況によっても変わります。
たとえば、土地を他人に貸していたり、自分の土地にアパートを建てて賃貸経営をしていたり、自分の土地に私道が通っていたりしたときです。
このような状況のときも、土地の評価を減額することになります。
貸宅地
他人に貸している土地を貸宅地といい、その場合は、借地権が発生して評価が下がります。
借地権とは、土地所有者から土地を賃貸借契約により借り受けることにより、土地を利用する権利のことをいいます。
他人に土地を貸している場合、土地所有者は、借地権があるため土地を自由に使えません。
そのため、自分で自由に使える土地(自用地)と比べて、他人に貸している土地は評価が下がるというわけです。
貸地の評価は、他人に貸してない状態の価格、すなわち自用地価格から、借地権割合を引いて求めます。
・評価額=自用地価格×(1-借地権割合)
借地権割合は、先述した通り、路線価の数字の後ろについているアルファベットで表示されます。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
たとえば、路線価「200D」とある200㎡の土地の評価は、1,600万円となります。
・200,000×200㎡×(1-60%)=16,000,000円
借地権の取引慣行のない地域
ただし、上記は借地権の取引慣行のある地域の場合です。
地域によっては、借地権の取引慣行のない地域もあります。
路線価図や評価倍率表に、借地権割合を示すアルファベットや数値が記載されていない地域がそれです。
このような借地権を取引する慣行がない地域での貸宅地の評価は、借地権を20%として計算します。
・自用地価額×(1-借地権割合(20%))
借地権の取引慣行のない地域では、借地権に価値はありませんが、貸主が土地を自由に使えない実態を考慮して、20%の評価を減額することになっています。
借地権も相続税の課税対象
ちなみに、借地権も相続税の対象になります。
土地を有償で借りて、その上に建物を立てて住んでいるのなら、そこには借地権が発生しています。
借地権は、自用地価格に借地権割合を乗じたものが、相続税評価額となります。
貸家建付地
自分の土地の上に、アパートや貸家などの賃貸住宅を建てて他人に貸している土地のことを、「貸家建付地」といいます。
この場合、土地と建物を所有しているのは、土地所有者ですが、建物を借りている居住者がいるため、土地を自由に使うことができません。
そのため、その分だけ土地の評価を減額します。
評価額の求め方は、借地権割合に「借家権割合」を加えて計算します。
・貸家建付地の評価額=自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合)
借家権割合は、財産評価基本通達で30%と定められていますので、たとえば、5,000万円の自用地価格、借地権割合70%の場合だと、貸家建付地の評価額は3,950万円となります。
・5,000万円×(1-70%×30%)=3,950万円
自用地価格に比べ1,050万円の評価減です。
さらに、アパートなど一棟の建物中に複数の入居者がいる場合は、「賃貸割合」が加わります。
・貸家建付地の評価額=自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
たとえば、上記と同じ条件で80%の入居率だった場合、貸家建付地の評価額は、4,160万円となります。
・5,000万円×(1-70%×30%×80%)
賃貸割合が80%になったため、評価額が210万円上がった計算です。
私道としている土地の評価
私道の場合は3通りの評価額があります。
不特定多数が使用する私道は、公共性が高く、私有物として処分できないので、相続税の対象とはならず、評価の対象になりません。
その一方、特定の人や所有者しか利用しない私道の場合は、次の評価となります。
- 特定の人しか利用しない(行き止まり私道など)→3割評価
- 所有者しか利用しない→宅地評価
駐車場にしている土地の評価
土地を駐車場として利用している場合は、利用方法によって評価は変わります。
土地所有者が自分の駐車場として利用している場合
土地所有者が自分の駐車場として利用している場合は、自用地として評価します。
土地所有者が貸駐車場経営にしている場合
土地所有者が、更地や砕石を敷いただけの青空駐車場、アスファルトやフェンス等を設置した貸駐車場として利用している場合の相続税評価額は、「自用地価格」となります。
自用地価格となる理由は、駐車場はあくまで車の保管を引き受ける契約であり、土地そのものを利用する目的での賃貸借契約でないからです。
なお、アスファルトや砕石を敷いた駐車場は、一定の要件を満たせば小規模宅地の減額特例を受けることができます。
土地を借りている人がアスファルト等を設置して駐車場経営している場合
土地を事業者などに貸して、その事業者がアスファルト等を設置して駐車場経営していることもあります。
この場合は、土地を第三者に貸しているので、土地の賃貸借と考えます。
そのケースの相続税評価額は、自用地価格から、賃借権割合を引いた金額になります。
・自用地価格-(自用地価格×賃借権割合)
この賃借権割合は、2つのパターンに分かれます。
① 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権
賃借権の残存期間 | 5年以下 | 5年超10年以下 | 10年超15年以下 | 15年超 |
割合 | 5% | 10% | 15% | 20% |
ただし、地上権は非常に強い権利であるため、ほとんどのケースで利用されることはありません。
② ①以外の賃借権
一般的には、こちらの賃借割合で計算されます。
賃借権の残存期間 | 5年以下 | 5年超10年以下 | 10年超15年以下 | 15年超 |
割合 | 2.5% | 5% | 7.5% | 10% |
たとえば、自用地価格3,000万円の土地を残存期間10年以下で貸している場合の相続税評価額は、2,850万円となります。
・3,000万円-(3,000万円×5%)=2,850万円
駐車場で相続税対策をする場合の方法はこちらをご覧ください↓
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、自宅の敷地や事業に使っている建物の敷地の評価額を、一定の要件下で、最大80%減できる相続税の特例のことです。
適用できる土地は、主に次の3つです。
- 自宅の土地(特定居住用宅地等)
- お店や工場などを営んでいた事業用の土地(特定事業用宅地等)
- 賃貸住宅や駐車場の土地(貸付事業用宅地等)
それぞれ、上限面積と減額割合は下記の表のとおり決まっていますが、自宅の土地と事業用の土地は特例を併用することができますし、上限面積の範囲内であれば組み合わせて適応させることもできます。
利用区分 | 上限面積 | 減額割合 |
特定住居用宅地等(自宅の土地) | 330㎡ | 80% |
特定事業用宅地等(事業用の土地等) | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等(賃貸住宅の土地) | 200㎡ | 50% |
この特例は減額割合が大きいだけに、相続においてはどう活用するかで、相続税の負担が大きく変わってっくるので、慎重な判断が必要です。
まとめ
土地の評価は、その土地が置かれた状況で変わることは、説明してきた通りです。
逆にいえば、評価の仕方で土地の評価額は下がるということです。
相続財産の中に土地の占める割合は大きくなるのが通常ですから、そのインパクトは小さくないでしょう。
信頼できる専門家を見つけて、しっかり相談しましょう。
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