最高税率55%もあり得るみなし配当!非上場株式の配当金の税金を解説

節税対策

株式の配当金には、「上場株式」と「非上場株式」の2種類があります。

上場株式の配当金は3種類の申告方法から、納税者にとって有利なものを選べますが、非上場株式の配当金に有利な選択肢はありません。

ときに最高税率55%の課税さえ受けることがあります。

その原因となのが「みなし配当」です。

この記事では、非上場株式の配当金の税金について解説します。

配当金所得とは

非上場株式の配当金を受取ったときは、「配当所得」として課税されます。

※上場株式等の発行済株式の総数の3%以上を所有する大口株主が受け取る配当金も含まれます。

上場株式の配当金を受取ったときのお得な申告方法はこちら↓

配当所得は、下記の計算式から求めます。

・収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)-株式などを取得するための借入金の利子

※収入金額から差し引くことができる借入金の利子は、株式など配当所得を生ずべき元本のその年における保有期間に対応する部分に限られます。

※譲渡した株式に係るものや確定申告をしないことを選択した配当に係るものについては、収入金額から差し引くことができる借入金の利子には当たりません。

No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)

非上場株式の配当の税金

非上場株式の配当金を受取ったときは、20.42%の源泉徴収されます(所得税のみ)。

配当所得は、原則として「総合課税」とされる所得で、確定申告が必要になります。

総合課税とは、給与所得など、他の所得と合算して課税所得を算出する課税方式のことをいいます。

所得税は超過累進税率なので、合算した所得が多いほど税率は高くなり、最大で55%(住民税込み)も課せられます。

課税される所得金額税率控除額
1,000円~1,949,000円5%0円
1,950,000円~3,299,000円10%97,500円
3,300,000~6,949,000円20%427,500円
6,950,000円~8,999,000円23%636,000円
9,000,000円~17,999,000円33%1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円40%2,796,000円
40,000,000円~45%4,796,000円

ただし、一回に支払いを受ける配当金が、次の計算式で求めた金額より少ないときは、確定申告は不要になり増す。

・10万円×配当計算期間の月数÷12

たとえば配当金が7万円のケースで考えてみます。

<配当計算期間が12ヵ月場合>

・10万円×12ヵ月÷12=10万円

・7万円≦10万円=確定申告は不要

この場合は、20.42%源泉徴収されて課税は終了します。

<配当計算期間が6ヵ月の場合>

・10万円×6ヵ月÷12=5万円

・7万円≧5万円=確定申告が必要

この場合は、総合課税になり、確定申告が必要になります。

※配当計算期間が1年を超える場合には、12月として計算します。また、配当計算期間に1月に満たない端数がある場合には、1月として計算します。

※少額配当の場合は所得税は申告不要ですが、住民税は申告が必要になります。

非上場株式の配当金は配当控除を受けられる

非上場株式の配当金が総合課税になる場合は、「配当控除」を受けることができます。

配当控除を受けることで、源泉徴収された20.42%より低い税率が適用されることがあります。

その基準とは、年間の課税所得金額が900万円以下の場合です。

課税所得金額税率配当所得の税率
195万円以下7.2%(所得税0% 住民税7.2%)所得税:20.42%
住民税:7.2%
330万円以下7.2%(所得税0% 住民税7.2%)
695万円以下17.41%(所得税10.21% 住民税7.2%)
900万円以下20.473%(所得税13.273% 住民税7.2%)
1,000万円以下30.683%(所得税23.483% 住民税7.2%)

ただし、配当控除を受けることで、国民健康保険料や扶養控除に影響する場合もありますので注意しましょう。

配当控除受けられるのは「確定申告をしたとき」ですので、確定申告不要となった倍は、配当控除は受けられません。

非上場株式の配当所得の損益通算

非上場株式の配当所得は、事業所得や不動産所得の赤字と損益通算することができます。

ただし、非上場株式の配当金は、非上場株式の譲渡損失(申告分離課税)や上場株式の譲渡損失と損益通算することはできません。

ちなみに、非上場株式の売却損は3年間の繰越控除もできません(上場株式の売却損は繰越控除できます)。

また、配当所得の計算上、損失が出ることもありますが、その損失は他の所得から控除することはできません。

・配当所得=収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)-株式などを取得するための借入金の利子

損益通算とはこちらの記事をご覧ください↓

多額の税金が発生するみなし配当

配当所得の基本的な課税方式は総合課税です。

所得の多い人が非上場株式の配当金を受け取ると税率は高くなることから、配当金を受取るのは避けられるのが一般的です。

さらに配当金は、法人税課税後のお金で支払われるので、法人は損金にすることもできません。

税金面で考えれば、オーナー経営者が自社株の配当金を受取るのはメリットあるとはいえません(ただし、配当金は社会保険の対象とならないので、金額によっては、役員報酬で受取るより手取りは多くなる場合もあります)。

しかし、M&Aや組織再編、廃業などが関わってくると、「みなし配当」といって、思わぬ高額な税金がかかってくることがあります。

みなし配当とは、「みなし」とあるように、「配当とみなす」という意味です。

実際には配当ではないにもかかわらず、「利益が分配された」とみなして株主に配当課税されることから、みなし配当と呼ばれます。

このみなし配当に該当すると、とんでもなく高い税金が発生することがあります。

「みなし配当」とされるケース

みなし配当とされる場合は次の通りです。

  • 非適格合併
  • 非適格分割型分割
  • 資本剰余金の配当
  • 自己株式の取得
  • 非適格株式分配
  • 持分会社の出資払戻し
  • 組織変更

法人(法人税法第2条第6号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この項において同じ。)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(同条第12号の15に規定する適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の同条第16号 に規定する資本金等の額又は同条第17号の2に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。

所得税法 第25条 配当等とみなす金額

みなし配当とされる場合とは、株主が会社から払い戻しを受ける場合と、組織再編やM&Aなどで、株主が別の会社からお金を受取るときに発生します。

廃業や事業承継でも、M&Aが活用されていますから、場合によっては、みなし配当が発生するケースも考えなくてはいけません。

では、なぜみなし配当が高額課税になるでしょう?

簡単にいえば、「払い出しを受けた大部分を配当所得とみなされてしまうから」です。

みなし配当に高額な税金が発生する理由

先に触れたように、みなし配当とは、法人税法23条に規定する剰余金の配当または分配等には該当しないものの、実質的に剰余金の配当と変わらないため、これを法人税法上配当とみなして課税するものです。

つまり、税務上の考えでは、株主が受取ったお金は

  • 資本金等の額に対応するとされる部分→出資の払戻し
  • 利益積立金に対応する部分→配当

とされることになります。

要は、資本金等に額に対応する部分以外が配当所得になるわけですから、税金がぐんと上がってしまうのも頷けます。

たとえば、会社が自社株を買取る「自己株式の買取り」のケースで、次の状況だった場合を考えてみます。

  • 資本金:1,000万円
  • 利益積立て金:2億円
  • 発行株式数:100株

このうち、50株を1億円で会社に買取ってもらうことにしました。

このときの課税関係は、次の通りになります。

  • 資本金等の払い戻しとされる部分→500万円(1万円×50株)
  • 利益積立金に対応する部分→9,500万円(1億円-500万円)

9,500万円も配当所得があれば、その年の税率はマックスの55%(住民税込み)にもなります。

せっかく配当金を受取ったと思っても、こんなことが起こるのがみなし配当です。

よくよく計算して事を進めなくてはいけません。

譲渡損益が発生することに注意

ちなみに、会社から支払いを受けた金額から、みなし配当部分を引いた金額は、みなし譲渡収入として譲渡損益が発生します。

たとえば、会社から受取ったお金が10万円、その内みなし配当が5万円、株を取得するために支払ったお金が6万円だった場合、株式の譲渡損益が1万円発生することになります。

・10万円-5万円-6万円=-1万円

この譲渡損は、他の非上場株式の譲渡益と内部通算はできますが、そこで引ききれなかった損失は切り捨てられ、他の所得と損益通算はできません。

相続時の自社株買いの特例

最高で55%の税率が課せられるみなし配当ですが、相続時にだけ、唯一みなし配当課税されない特例があります。

この特例を使うことにより、みなし配当として総合課税されることなく、20.315%の申告分離課税となります。

申告分離課税とは、他の所得と合算されない課税方式です。

そのため、源泉徴収された20.315%の税率で済ますことができます。

これは、相続税の納税資金に困るケースを想定した特例です。

相続で会社を承継した相続人は、必ずしも十分な相続税の納税資金があるとは限りません。

そんなとき、自社に手持ちの株式を買ってもらい、納税資金を準備する方法があります。

この自社株買いを行うときに、みなし配当で課税されてしまうと、買取った株価によっては、半分以上のお金を税金で持っていかれてしまいます。

これでは、相続税の納税資金を作ろうにも、高額な税金がストッパーとなり、事業承継を余計に困難にしてしまいます。

そこで一定の要件を満たした場合は、みなし配当の総合課税ではなく、全額を株式の譲渡益として20.315%の課税で済む特例が用意されています。

事業承継を考える場合、この特例も考慮に入れる必要があります。

相続時の自社株買いの特例の要件

この特例の要件は次の通りです。

  • 相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過するまでに自社株買いを行った場合(相続の開始があったときから3年10ヵ月までの間)
  • 相続、遺贈によって財産を取得した相続人
  • その相続、遺贈について、納付すべき相続税があること

この要件を満たす人が、相続した株式を発行会社に売却した場合に、この特例を受けることができます。

配偶者は対象外になることも

注意しなくてはいけないのが、「納付すべき相続税があること」です。

たとえば配偶者には、相続財産が1億6,000万円(もしくは法定相続分の範囲内)までは相続税が無税になる配偶者控除という制度があります。

この配偶者控除は、配偶者の税負担を減らしてくれるありがたい制度ですが、仮に配偶者控除で相続税が0円となると、納める相続税額がないため、相続時の自社株買いの特例の要件を満たすことができなくなります。

もし、このことを知らずに配偶者が自社株買いを行ってしまうと、特例は適用されず、受取ったお金はみなし配当となり、高額の所得税が発生してしまいます。

配偶者控除で配偶者に相続税が課税されないケースは多く、自社株買いを行うなら、相続した子供が対象となります。

この特例を使う場合には、自社株買いをする日までに「みなし配当課税の特例に関する届出書」を、その会社に提出し、提出を受けた会社は、その年の翌年の1月31日までに所轄の税務署に提出をしなくてはいけません。

[手続名]相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出

取得費加算の特例も利用できる

また、みなし配当の特例を利用する場合、取得費加算の特例も併用することができます。

取得費加算の特例とは、相続後3年10か月以内に相続財産を売却した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより、譲渡所得にかかる税金を軽減できる制度です。

みなし配当課税の特例を使う場合も、その非上場株式を相続または遺贈により取得したときに課された相続税額のうち、その株式の相続税評価額に対応する部分の金額を取得費に加算して収入金額から控除することができます。

No.1477 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例

取得費加算の特例の計算式は以下の通りです。

・その者の相続税額 ✕ 譲渡した財産の相続税評価額 / (その者の相続税の課税価格 + その者の債務控除額)

たとえば、次のケースだと、取得費に加算できる金額は約1,000万円となります。

  • その者の相続税額:3,000万円
  • 譲渡した財産の相続税評価額:1億円
  • その者の相続税の課税価格:3億円
  • 加算できる取得費:1,000万円=3,000万円×1億円÷3億円

法人の場合

上記は個人に対する課税ですが、法人の場合は次の通りです。

自己株式を取得した法人

みなし配当は税務上、自己株式を取得した法人では配当として取り扱われます。そのために、自己株式を取得した法人はみなし配当の金額に対応する源泉所得税等を翌月10日までに納付しなければなりません。上場株式の税率は15.315%、非上場会社の税率は20.42%となっています。

ただし、自己株式の取得を行うときは、

  • 発行会社の分配可能額の範囲でしか自己株式の取得を実施できない
  • 原則として株主総会の特別決議が必要

という縛りがあることを忘れないようにしましょう。

みなし配当以外の部分については、譲渡損益として課税の対象となります。

自己株式の取得における株主の会計および税務処理 ~完全支配関係がない場合とある場合~

配当金を受取った法人

配当金を受取った法人の課税関係は、株式の保有数、非支配目的かによって次のようになります。

区分保有割合保有期間益金不算入額
完全子法人株式等発行株式等の100%配当計算期間を通じて100%保有していること配当金の全額
関連法人株式等発行株式等の33%超100%未満配当期間の初日から末日まで33%超100%未満の保有を維持していること益金不算入額=受取配当金額-関連法人株式等に係わる負債利子控除額
その他株式等発行株式等の5%超33%以下定めなし益金不算入額=配当等の額×50%
非支配目的株式発行株式等の5%以下定めなし益金不算入額=配当等の額×20%

みなし配当を受けることで、「受取配当等の益金不参入」の適用を受けることになり、法人の場合はこの点がメリットになります。

受取配当等の益金不算入

各事業年度において内国法人から受ける配当等の金額のうち次に掲げる金額の合計額は、益金に算入しない(法23①④)。

(1) 完全子法人株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の合計額

(2) 関連法人株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の合計額から当該関連法人株式等に係る負債利子の額を控除した金額

(3) 完全子法人株式等、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の50%相当額

(4) 非支配目的株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の20%相当額

受取配当等の益金不算入

ただし、自己株式の取得事由が生じることを予定して株式等を所得した場合には、その株式等に係るみなし配当は、金額益金の額に算入されます。

グループ法人税制・その5

まとめ

みなし配当は、個人で受取る場合は高い税率が課せられる可能性があります。

とくにオーナー経営者が高額給与所得者だと、申告不要の少額配当以外は、高い税金が課せられるのは避けられません。

M&Aや組織再編、廃業など行うときは注意しましょう。

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